始末屋ジャック 見えない敵ポール ウィルスン著
タイトルを見りゃ、大抵の人は普通のハードボイルド小説を想像するだろう。
たまたま乗り合わせた地下鉄で頭のおかしい奴が両手に銃を持って乱射しまくる。
誰しも、あの世行きを覚悟したさなか、主人公氏ジャックが小さな銃を取り出して男を撃ち、そのまま行方を消してしまう。
その行為は多くの人の感動を呼び、匿名の救い主に生き延びた人は感謝する。
真実を売るよりも自分の名前を売り出すことに執着するヒヨッ子の新聞記者が彼を追いかけ・・・そんな出だしだけに余計にハードボイルっぽいのだが、そんな撃って、撃たれての世界じゃない。
もっと地球規模の話に進展していく。
ウィルスという見えない敵。
ただのウィルスじゃない。
癌を退治するために開発されたらしいのだが、そのウィルスに感染した者同士は心が一体化して行くのだ。
その統一体に吸収されようとしている人たちは、そこがとても心地よい世界だという。
心地よく、その社会ではお金も要らず、名誉を求めることも要らず、戦争を起こすことも、けんかをすることもなく、競争も要らず、皆が共同で平等で・・・
とかつてのソビエト連邦の宣伝文句を思い出すような世界なのだが・・・。
統一体に吸収されたら最後、自分固有の意思は無くなる。
絵画を楽しむ気持ちも、音楽を楽しむ気持ちも何も無い。
統一体の未来のためだけに動くロボットのような人間になっていく。
そしてそのウィルスに対抗するワクチンは未だ完成していない。
上・下二巻とたっぷり枚数を使って書いてあるのだが、そんなところにそんな枚数割くのか、と途中何度も思ってしまうのは否めないが、終盤にはもう本から手が放せなくなる。そんな一冊である。
感染者たちのグループは放っておけばやがて肥大化して行く。
地球上で感染者対非感染者の戦争が始まるかもしれないのだ。
いやはや、結構壮大な話なのだ。