シアター 有川浩著
借金300万円を抱えて存亡の危機にある劇団 シアターフラッグ。
主宰者の春川巧は兄の司に助けを求める。
借金300万円ったって、一人頭にすりゃたかだか30万だろうが!
いい歳こいた大人が30万用立てられなかった自分を恥じろ!
そう怒鳴って兄は借金の肩代わりに応じる。
無利息だが、ただし2年で返済せよ、2年経って返済できなけりゃ、潔く解散しろ!という前提付き。
この発言を持って鉄血宰相だとか、金の亡者だとかこの兄は劇団員から非難されるわけだが、兄の言うことはしごくごもっとも。
と、言うよりよくお金を出してあげた。
やれるところまでやってみろ、という優しさなのだろう。
プロとアマの境目とは何か。
劇団という世界であれ、やはり自分の食い扶持ぐらいは自ら稼ぎ出す。
まずはプロと呼ばれる最低限はそこだろう。
この兄の司が関与するまではまさしくアマチュアの同好会の延長としての劇団でしかなかったわけだ。
一般社会から見れば、ごくごくあたり前のことのようだが、劇団だとか、芸術だとか漫画家志望だとか、収入なんぞどうでも良く、好きだから続けている、という世界っていうものも結構あるものなんだろう。
この兄は借金を肩代わりしただけでなく、無駄を省き、事実上の経営再建に乗り出すのだが、その手腕たるや素晴らしい。
いやその手腕がどう、という前にいかにそれまで金に対してずさんだったか。
いかに金というものに執着がなかったのか、が浮き彫りになって行く。
借財をためてしまうほどだから、よほどひどい劇団だったのだろうと思いきや、案外、根強いファンが居たりして、本来は充分黒字でやって行ける劇団だったのだ。
いや、なかなかにして面白い本でありますよ。
作者が自ら述べているのだが、この劇団にはそのモデルとなる存在があって、劇団のイロハも知らない作者はそこを取材して三ヶ月で書き上げたのだという。
だから実話に近い部分も結構あるんだろう。
いずれにしても好きなことをしてメシが食えるというのはいいことには違いない。
案外この兄も勤め人やっているよりも劇団経営者の方が向いているのかもしれない。
まだまだ可能性が見えただけで、ハッピーエンドになるのかならないのか、その判断を読者に委ねているあたり、なかなかに巧みな小説である。