神さまの貨物ジャンクロード・グランベール


昔、昔あるところに、と昔話のような始まり方をするが、綴られていくのはかなり残酷な話なのだ。

貧しい木こりのおかみさんは、子供を授けて欲しいと神に祈り続けるが、叶わないまま産める年齢を過ぎてしまう。
彼女は森を走りぬける貨物列車を気に入って、毎日毎日、近くまで行って眺める。
そんな時に貨物列車から天の授かりもの、そう願い続けた赤ちゃんが列車から降ってくるのだ。

その貨物列車とはナチスがユダヤ人捕虜を乗せて行く列車なのだった。
赤ちゃんを投げた父親は苦渋の決断だった。

彼女は字が読めない。世の中の事も知らない。ユダヤ人がどうなっているのか、戦争がどうなっているのかなんて全く知らないし、興味もない。ただ、神が与えてくれたこの小さな命をひたすら喜び、命懸けで守ろうとする。

ナチスドイツが敗北すると赤い兵隊(ソ連)がやって来て、彼女を守ってくれた人も殺してしまう。
が、彼女はその人が残した羊の乳からチーズえを作り、それを売ったお金で子供を育てる。
「ただ一つ存在に値するもの。それは、愛だ」
この本の訴えたいことはその一点。

この作者の父と祖父が実際に収容所行きの列車に乗っていたという。

このおかみさんの視点から物語を書くに至るまでには子供を投げた父親の境地から何度も何度も脱却をしなければならなかっただろう。

神さまの貨物  ジャンクロード・グランベール 著