カテゴリー: ヤ行



#真相をお話しします

短編ミステリー小説というふれこみであるが、ミステリーというジャンルが正しいのだろうか。

確かに短編という長さではあるが、最後の落ちのつけ方のなど、ショートショートを読んでいる気分にさせてくれる。

どれも結構、恐ろしい結末なのだが、割りと恐ろしさを感じさせないユーモアがある。

「惨者面談」現役大学生ながら、家庭教師をするよりも家庭教師の営業が向いていると説得され、営業で家庭訪問する大学生が遭遇した場面の話。

「ヤリモク」マッチングアプリが題材の話。

「パンドラ」精子提供が題材の話。

「三角奸計」リモート飲み会が題材の話

「#拡散希望」YouTuberが題材の話

どれも現代ならではのツールが題材に使われる。

なんだろう、おちの付け方が星新一を想起させる。もちろん時代も違うし、題材も全く違う。
それに星新一にしては残虐すぎるだろう、とは思いつつも。

どれもちょっと、ストーリーにふれただけでネタバレになってしまいそうな話ばかりなのだが、最後の「#拡散希望」だけちょっとふれてみようか。

離れ小島に住む小学生達、インターネットなどは無縁の土地柄で育つ彼らはもちろんスマートフォンなど触る事すらない。

彼らは、親が都会から移住してきた移住組。
島の人々は子供は島の宝じゃ、と何かにつけて親切にしてくれる。
主人公の少年の家では、その日にあったことを話す「報告の時間」というルールなどがある。様々な島のイベントに参加する彼らだが、ある日を境に島のみんなが距離を置くようになる。
彼らの親は実は視聴者が2000万人を超える超人気YouTuberだったのだ。
島での彼らの育ち方、育成記録、つまり生活丸ごと、全世界に配信していたわけだ。

とまぁ、これだけでも充分にネタバレなのでこれ以上書くわけにはいかない。

それにしても、よくこういうストーリーを思いつくものだ。

#真相をお話しします 結城真一郎著



盤上の向日葵


一昨年、昨年の藤井聡太氏の活躍により、将棋の世界がニュースに登場する頻度がかなり増えたが、日本のプロ棋士は200人にも満たない。
本気でプロを目指すなんていうのは東大よりもはるかにはるかに狭き門を潜らねばならない。

埼玉の山中で発見された白骨遺体が手にしていたものは、日本でたったの6つしか作られていないという名人駒、名駒中の名駒で、将棋指しなら誰しも一度は拝んでみたいと思う一品。

そんな高価で貴重なものをなぜ白骨遺体に持たせたのか。
殺人だったとしても、殺す相手にそんな貴重なものを持たせるなど考えられない。

そこで、捜査にあたるのが、元奨励会所属で一度は棋士を目指したという若手捜査員と、気難し屋のベテラン捜査員。

彼らの捜査の話と並行して、ある少年の生い立ちが語られる。
父親は飲んだくれの弱いばくち打ち。
マージャンではカモにされるほどに。
少年は父親に暴力を振るわれ、食事も満足に与えられず、毎朝新聞配達で家計を支える。そんな彼に将棋の手ほどきをしたのが、ご近所の元教育者の先生。
その先生夫婦から養子縁組の話を持ち掛けられるのだが、その時に受けていれば彼の人生は大きく変わったことだろう。

いや、そうでもないか。
飲んだくれで博打に負け続けるオヤジの元に居ながらも東大へ入れてしまうんだから。

強いはずの東大将棋部に彼の相手になる者はおらず、たまたま入ってしまった将棋クラブで再度彼の将棋熱に火が付く。
この話、捜査の二人はいつかは彼に近づくんだろうなぁと思いつつも、なんでそうなった?が最後までわからない。

将棋ファンならずともなかなか楽しめる一冊です。

柚月裕子著



怒り


房総半島の猟師町、魚市場に勤める父には20歳をとうに過ぎた娘が居るのだが、ちょっと飛んでる娘で、父は娘にまともな幸せなど訪れないんではないか、と諦め気味。

そこへふらっと現れた身元のわからない男。彼をアルバイトとして雇うのだが、娘はその男と徐々に親しくなり、とうとう一緒に暮らそう、という運びとなる。

方や、沖縄の波留間島という離島へ引っ越した母と高校生の娘。
その娘が友人とボートで行った無人島で一人のバックパッカーと出会う。
彼は自分を見た事を誰にも言わないで欲しいと娘に頼み、彼女は忠実に約束を守る。

はたまた、東京の大手通信会社に勤める男。
彼はゲイだ。
ゲイたちが利用することが多いサウナで出会った一人の青年。
彼が行くところが無い様子なので、自宅へ招き、同棲の様な生活を始める。

全く無関係な三組の登場人物たちが交互に登場する。
こういう時ってどっかで交わって行くんだよな。
大抵、交わってからの方が話が面白くなって行く。

だがこの話、三組の登場人物たちは最後まで交わらない。

三組に共通するのは、いずれも過去の素性が知れない男が表れ、それぞれの登場人物たちとだんだん親しくなって行くところ。

一年前に東京八王子で夫婦惨殺事件が起きて、容疑者はすぐに特定されるが、行方は杳として掴めず、捜査は難航していた。

警察はテレビを使い、容疑者の情報を集めようとする。

房総のアルバイト男、ゲイの同棲男、沖縄の離島のバックパッカー男。
それぞれ、過去の経歴も何も一切わからない男たち。

それぞれの周辺が、テレビの報道などを見て、ひょっとしてあの人が?

と疑心暗鬼になって行く展開なのだが、少々長すぎやしないか。

確かに3つの物語を同時並行しているようなものなので、少々長くはなるだろうが、
上下巻で引っ張らなくても良かったんじゃないの?

これが映画化されたと聞いた時は少し驚いた。
映画にするにはちょっと地味な話じゃないか、と思ったのだが、かなり評判良かったらしい。
邦画って地味な方がいい作品になるのかもね。

怒り 吉田修一著