フランスジュネスの反乱 


フランスの高度成長期は日本のそれよりも二まわりほど早かった。1970年代の前半のオイルショックを日本は乗り切ったが、フランスはオイルショックを境に高度成長期の終焉を迎えた。
そしてその後の日本のバブル期にフランスは大量失業時代を迎えていた。
第二次世界大戦後の「栄光の30年」に労働力を補うために大量の移民を受け入れたが、オイルショック以降は就労を目的とする移民の受け入れは停止され、フランスに残された移民たちはフランス社会のなかの異質分子、サルコジに言わせると「社会のくず」「ごろつき」と言われる存在になってしまう。

パリ郊外の移民の人たちが多く住むシテ(団地地区)では移民世帯は失業と貧困にあえぎ、子供たちの唯一の楽しみはサッカーをすること。
その普段サッカーをしている少年たちが、誤って工事現場に立ち入ってしまったことが惨事を招いた。通報を受け、大量の警察官が武装して出動。
恐れを為した少年たちはその場から逃げるが、逃げる途中で二人のサッカー少年が命を落としてしまう。
その二人の少年の死を境に暴動が起きる。
二人の死は単なるきっかけだったのだろう。
その暴動の四ヶ月前にあるシテで少年の乱闘事件があった際にサルコジ(当時内相)が飛んで来て「このシテをカルシュール(大型放水機)で一掃してやる」と言い放ったのだという。
、暴動はやがてフランス全土へと広まり、首相は非常事態宣言を宣言し夜間外出禁止令を発令する。
ほんの2005年という数年前の秋のことである。

この本でもう一つ取り上げられているのが、2006年に施行されたCPEと呼ばれる初期雇用契約に関する施策に対する若者達の反乱。

CPEとは、26歳未満の若者を雇用した企業は3年間にわたって社会保障負担を免除。実習期間をこれまでの3ヶ月から2年間に延長。
この2年間の期間中、雇用側は理由を問わず解雇することを認められるというもの。

経営側にとってこんなにおいしい施策があるだろうか。
理由無き解雇が合法化される。
雇用される側は2年間の間、いつも解雇の不安におびえることになり、やがて2年を経ることなく解雇されたらまた、更に2年間を同じ不安を持ちながら、働くことになってしまう。

ここでも大元の問題は雇用問題。高い失業率が原因なのだろう。
折りしも、日本でいうところの団塊の世代にあたるベビーブーム世代が退職を迎える最中、時の首相は失業率を最悪時の12%から9.6%になったと誇り、この施策で失業率は改善するだろう、との見通しを発表する。

これに怒った若者達は、無暴力のデモ活動を起す。
この本の大半のページはこのデモ活動の描写に費やされている。

フランスの大学という大学で、そして高校までもデモが起き、これもまたフランス全土に広がる。
100万人を超える規模のデモ活動というのは、途轍もない規模である。

この本には著者の思い入れもあるだろうが、実際にジャーナリストとして自分で取材したもの、新聞資料に基いたものを元に忠実に事件を再現しようというものである。

しかも2005年、2006年とほん数年前の出来事。

方や、昨年、一昨年には日本ではランスの子育て絶賛の本も何冊か出版されている。
それらの本が絶賛するフランスの出生率が高いことを見本にして、現政権のマニュフェストは作成され、今年より施行されて行くことになるのだろう。

だが、それらの本にはフランスの抱えるこのジュネスの反乱に見られる深刻な問題は一切ふれられていない。

折りしも本日は成人の日だ。
お昼のニュースではデズニーランドで大はしゃぎする着物姿のゆとり世代真っ只中の新成人たちが映されていた。
この本のサブタイトルは「主張し行動する若者たち」。
日本ではよく「主張し行動する若者たち」のような活動は社会の閉塞感のために居なくなってしまったと言われて来たが、どうも「閉塞感のため」とも思えない映像なのだった。

フランス ジュネスの反乱―主張し行動する若者たち  山本三春著