狼・さそり・大地の牙
筆者は前段で新聞記者の有り方、取材の仕方というものを書いています。
これぞかつての新聞記者魂というものなのでしょう。
筆者には近頃の警察、検察発表をそのまま垂れ流しのテレビニュース、新聞記事が多いに気に入らないことでしょう。
松本サリン事件の頃のジャーナリズムも批判していますから、「最近」でもないですが、筆者ほどの超ベテランにかかると14、5年前でも最近のうちなのでしょう。
狼、さそり、大地の牙とは「東アジア反日武装戦線」というテロ集団を構成するそのグループの名前。
グループと言ったってそれぞれ二人、三人やそこらの集団で、日本赤軍などよりもはるかに小規模。
丸の内の三菱重工本社ビルを爆破したのに続き、三井物産本社ビル爆破、大成建設、鹿島建設、間組と大手ゼネコンのビルや資材置き場を次々と爆破。
いずれも1970年代の事件で全てこの東アジア反日武装戦線を名乗るテロ集団の巻き起こしたこと。
中でも三菱重工ビルの爆破では死者8名。筆者が現場を歩いた時にはざっと400名ほどの人たちが血まみれになって道路に倒れていたという。
「警察の発表でしか記事を書けない記者は、新聞社を辞めて、他の仕事を見つけろ!」と部下の若手記者たちにはっぱをかけます。
部下の優秀な若手記者たちは、山谷のドヤ街へ数日間潜り込んだり、ある時は容疑者と思わしき人物が見張れる場所にある家具屋に身分を隠して店員となって働き・・、新聞記者とはそこまでするものなのか、店の人にまで驚かれる。
取材をするというよりもはや捜査ではないか、と思われるような仕事ぶりである。
そうして、この筆者がキャップをしていたその当時の産経新聞の社会部は次々と特ダネ、スクープをものにして行く。
この本の後段では、この連続爆破事件を起こした、狼、さそり、大地の牙の構成員のそれぞれの生い立ちや裁判の過程などが書かれているのだが、それを読んでも尚且つ、彼らの行いたかったことはやはり見えてこない。
昨今流行りになりつつある、誰でも良かった的な殺人犯とどう違うのか。
思想的な背景と言ったって、ビル爆破で死んで行った人たちはごくごく普通のサラリーマンやウーマンだっただろう。
彼らは浅間山荘事件の赤軍派やよど号をハイジャックした連中を冷ややかに見ながらも自ら行うのは連続爆破、それこそ無差別テロじゃないか。
「腹腹時計」という教本を作り、爆弾の作り方やら、普段の目立たない行いやらを指南し、自らもごくごく普通の平凡なサラリーマンとして平日昼間を過ごし、夜中にこつこつとこんな計画を練っていたわけだ。
もはや狂信者のようなものなので、連中の行動云々をあげつらっても仕方がないだろう。
それにしても問題は裁判だ。
法廷では「東アジア反日武装戦線兵士」と名乗るだけで自分の名前さえ名乗らない。
自ら「兵士」と名乗る以上、敵に捕らえられた以上、死ぬ覚悟ぐらい出来ているであろうに、待遇改善を主張し、権利ばかりを主張する。
兵士というぐらいなんだから、裁判などちゃっちゃと終わらせて全員銃殺刑にしたところでそれが兵士たる彼らの本望だろうに、そこは法治国家、そんな人民裁判のようなことは行われない。
主犯の大道寺何某への死刑の確定まで事件から13年も経過している。
それどころか死刑確定以後執行されずに平成の世でも生きている。
それにしてもこんな連中を支援する団体があったり、弁護する人間がいたことにあらためて驚く。いや、過去形ではないのだろう。おそらく今もいるのだろう。そういう人たちは。
彼ら服役した自称兵士達の中には、時の首相のあの有名な「人命は地球より重し」の言葉で、超法規的措置とやらで大金渡された上で出獄し、海外でテロ活動を継続した者もいる。
その際の日本の首相の判断には海外から日本はテロリストを世界にばら撒くばかりか、テロリストに活動資金まで渡すのか、と非難轟々だったにも関わらず、首相の耳にまで届かなかったのか、首相はどこ吹く風。
なんか、「命を守りたい!」といきなり施政方針演説を行った誰かさんに近いものがある。
誰かさんも「非難轟々」にはいつもどこ吹く風だし。
この本の中には同じ実行犯でも実名で書かれている者もいれば、M子、F、Uなどと実名を伏せられている者もいる。
実名を伏せられているということは、もう既に実刑を終えて世に出て来ている、ということなのだろう。
こんな連中が今や60過ぎとは言え、世の中に出てしまっているわけだ。
その60過ぎの兵士さんたちは20代後半から壮年期を塀の中で過ごし、出て来た後に何を思うのだろう。
子供手当てだの、高校無償化だのの政策の傍らで高い高い法人税を取られながら青息吐息状態の企業などを見るにつけ、おお、これぞ我々の目指した帝国主義的資本主義の崩壊だ!爆弾を使わずにやり遂げたか同志首相!とでも思うのだろうか。