犬なら普通のこと矢作 俊彦・司城 志朗


沖縄を舞台としたヤクザもの。
この本著者が二人居るのだが、その役割り分担は定かではない。
どこにも書いていないし。

当たり前のようにすらすら書いているけれど、結構血を見るシーン満載で実はえぐい話。
以前よく新聞や週刊誌を賑やせたヤクザの抗争事件と言ったって、玄関に向けて発砲して逃走、なんていうのが普通じゃなかったっけ。

ここに出てくるヤクザは本当に撃ち殺してしまうんだから。
それも何人も何人も。
はるかに危険極まりない。

沖縄ヤクザは台湾が李登輝総統の頃は、中国と一線を画していたので、台湾と中国との資金の流れは沖縄のアングラマネーを経由していたのだそうだ。

それが、馬英九総統になってからというもの、中国との友好関係が深まり、経済的にも直接やり取りをするようになったおかげで、沖縄を経由する必要が無くなってしまった。

金美齢先生なんかもそんな対中融和政策を嫌って、日本に帰化したんじゃなかったっけ。
それ以降、沖縄ヤクザはしのぎを削るのに一苦労なのだとか。
なんかこういう本で読みながらも、そこは、たぶんそうなんだろうなぁ、などと思ってしまう。

それにしても仁義もへったくれもない世界だなぁ。
親分と言えば親じゃないか。それを撃ち殺してまでして金が欲しかったのかねぇ。

ヤクザらしくないと言えば、台湾から帰って来た柴田(という副社長)とその連れのエリマキと呼ばれる男以外は、なんとものんびりとした連中ばかりで、「ヤクザ」という響きから来る恐ろしさはほとんど感じない。
ハードボイルドでありながらハードボイルドではない。

沖縄らしさを表しているのだろう。

だから、返って楽しめる。

この本、組の金を強奪しようとする話が筋だが、上の台湾の話などのようにいかにも本当にありそうに思えてしまう時事が織り込まれている。

中国からの帰国者の幼少期の思い出話の中に出てくる日本の公安と中国公安の表には出ない戦い。

米軍とその中に存在するカーキマフィアと呼ばれる存在。

単なるハードボイルドとしてはやや物足りないが、そういう周辺話が面白い一冊だと思う。

犬なら普通のこと  矢作 俊彦 (著), 司城志朗 (著) (ハヤカワ・ミステリワールド)2009年10月出版