MW-ムウ-手塚治虫


これは「読み物あれこれ」に載せるべきものなのかどうか。
本屋では平積み状態。
バンバン売れているのだろう。
手にとってみるとなんと手塚治虫原作の漫画であった。
漫画ではあるが充分に読み物に値するのではないだろうか。
何故、今頃手塚治虫だったんだろう。
没後20年。生誕80年。
今年この「ムウ」が映画化されるのだという。

ある時はエリート銀行マン、ある時は誘拐犯、ある時は神父に懺悔をする男。いや誘拐どころか強盗・殺人も平然と行ってしまう。
あまりに美形なので、女性に変装しても誰も疑わない。
そんな主人公、結城美知夫と教会の賀来(がらい)神父が二人だけで共有する過去のある秘密。

某国の軍事基地のあった沖ノ真船島という島に隠されていた「MW」という名の毒ガス兵器。それはほんの微量が漏れただけでも大量の死者を出し、いや、人間だけではなく、生けるもの悉くを死にいたらしめてしまうというまるで核兵器の様な生物兵器。
沖ノ真船島で事故によってそのガスが漏れ、島民全てが全滅してしまう。その惨劇のあった島でたまたま風上の洞窟に隠れていたために助かったのがこの二人。
事故は某国の意向を受けた日本政府によって揉み消され、全く無かったものとして扱われる。

事故以来、美知夫は凶悪な人間と化し、揉み消しを行った連中への復讐心に燃える。

この物語の中でもベトナム戦争時に米軍がある村へ散布した生物化学兵器にふれ、非人道的兵器の使用について問われた米軍のスポークスマンをして、苦しまないで死ぬのだから、寧ろ人道的兵器だと言わしめている。

化学兵器の恐ろしさは掲げればいくらでもあるだろうが、オウムのサリンをひくまでも無く、無差別殺人という行為に繋がる。
それは化学兵器に限らず、核にしても同じであろうが、戦闘員、非戦闘員を問わない無差別大量殺戮兵器。

ソ連がアフガンへ侵攻した際に至るところに地雷をばら撒いて行ったが、その地雷の近くには子供用のおもちゃが置いてあったそうだ。
子供を吹っ飛ばすのが目的だったとしか思えない。
未来ある子供達を吹っ飛ばすということは民族根絶やしでも考えていたのだろうか。

第二次大戦での東京大空襲だって同じだろう。
女・子供問わずに全員の虐殺をカーチス・ルメイは考えていたとしか思えない。
ちなみにその後広島、長崎への原爆投下を指揮したのもカーチス・ルメイである。
大戦後の日本は復帰一筋で復讐の鬼とはならなかったが、非戦闘員への無差別殺人によってもたらされるのが復讐の鬼達なのではないだろうか。

折りしも、イスラエルによるガザの人口密集地への空爆は現在も続く。
ここでも白リン爆弾という兵器が使われている。
白リン爆弾は摂氏5000度を超える熱で街で焼き尽くし、その後には猛毒ガスも発生するのだという。

非人道兵器が使用されるたびに、何十人もの結城美知夫が生まれて来るような気がしてならないのだが、どうだろう。

MW-ムウ-  手塚治虫 作