同期
そもそものはじまりは一件の殺人事件から。
被害者が組関係者だったことから、敵対する組が抗争を仕掛けたとして敵対する組へガサを入れる。
そのガサ入れの最中に逃げ出した組員が次の標的となり、2つの組からそれぞれ死者が出たことで、捜査本部は組対組の抗争事件として進めようとする。
捜査一課から駆り出された刑事達は、組織犯罪対策部(略して組対)の使いっ走りをさせられながら、抗争事件としてはどうも様子が違うのではないか、と思い始める。
ところが、抗争事件にしてはいくらおかしなところが出て来ようとも、捜査本部は頑としてその捜査方針を曲げようとしない。
そんな矢先に捜査一課の主人公の同期で現公安所属の刑事が突然、懲戒免職になってしまう。
その同期を探そうとすると、かなり上の方からの圧力がかかる。
その圧力をかけたのはZEROだという。
ZEROという組織は公安の中で最もシークレットな部隊で、諜報防諜などの任務を行う組織として、かつて麻生幾の小説でその実態が細かく紹介されていた。
同期の男に何があったのか、主人公はやっきになって探しまわり、自らの危険も顧みず・・・と、話は展開していくわけだが・・・。
その理由は?と聞かれると、
「同期だから」
同期ってそんなに珍しいものなのか。
全国に警察官と呼ばれる人、何万人といるのだろうから、同期だけだって何千人規模だろう。
そんな規模の組織で同期だからどうの、なんていうのは、成人の日に同じ会場に来た連中全て同期だから、というようなものではないのか。
それとも、昔の軍隊同様に上下関係の厳しい組織だから「俺、お前」で呼び合える同期というのは特別な存在なのだということだろうか。
いずれにしても捜査本部を立ち上げておいて、某大な費用をかけて、所轄を含めれば、かなりの大所帯の人手を割いておきながら、その人達に間違っていることが分かり切っている情報を与え、偽りの捜査をさせる、なんて無駄なことをするだろうか。
捜査員達がそれを知った途端、その担当の人達はおろか全国の警察組織の士気は二度と上がらなくなってしまうのではないか、などと心配してしまうのである。
そんな筋立てが安易なこと、それにあまりにもあからさまにZEROの存在が出てしまうあたり、麻生幾の作品とはだいぶん違う。
それでも、政治家さえおびえるという、戦後右翼の大物が出て来たり・・・と、軽い読み物(作者の意図とは違うかもしれないが) としてはなかなかに読ませてくれる。