まほろ駅前多田便利軒三浦しをん


元、車のセールスマンの男が開業した便利屋。
ある日の仕事の帰りに、バッタリと高校時代の同級生に出会う。

その同級生というのが変わり者で高校3年間、ある一瞬の一声(痛い)と発したのが唯一で、その他には一切しゃべらなかった、というつわものである。

その同級生である行天が便利屋の多田のところに何故か居候することになる。
行天は高校時代3年間沈黙を通した男と思えないぐらいに饒舌になっている。
変人であることに変りはないが・・。

物語はそこから始まり、便利屋稼業の種々雑多な仕事を多田とその手伝いの行天がこなしていくというお話。

便利屋の手伝いとしては何の役にも立たないように思えるこの行天。
便利屋の親方である多田はこの行天をお荷物としか考えないし、そう扱うが、その行天が肝心なところで誰も思いもしないような力量を発揮する。

意表をつく行動。
喧嘩が滅法強い。
ヤクザもチンピラも恐れない。
初対面では危ない男に見られがちだが、しばらくすると誰にでも好かれてしまう。
「フランダースの犬」の物語のラストシーンを「あれはハッピーエンドでしょ」と言い切る男はそうざらにはいない。

方やの多田だって、チンピラ相手に言うべきことはしっかり言うし、決して、生真面目優男と無鉄砲無頼漢という取り合わせでもない。
たぶん、便利屋は多田一人でもその依頼に無難にこなしていくんだろう。

だからこそ、相変わらず「お荷物の行天」としてしか考えないを多田なのだが、だんだんと行天のその存在の大きさ、というより自分の相棒としての必要性が分かっていく。

この本、3年ほど前の直木賞受賞作である。

従って、書評などは山ほど書かれているだろうから、あまり無用な解説をする必要も無いだろう。

それにしても、なんだか選者に読み手の力量を試されているのか、と疑いたくなるような芥川賞受賞作に比べて、直木賞受賞作というのはなんと安心して読めるのだろう。

なんとも言えないほろ苦さを漂わせながらも軽快で乗りのいい会話。
物語がテンポの良く進んでいく。

やはり素直に「面白い」と言う言葉を発せられるのも直木賞受賞作の方である。

これは余談だったか。

まほろ駅前多田便利軒 三浦しをん 著(文藝春秋)

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