幸福を知る才能


京都に「ソワレ」という喫茶店があって、その喫茶店には東郷青児さんの絵がたくさん飾られています。

彼の絵にあまり興味はないのですが、大学時代に先輩がアルバイトをしていたので何度か足を運びました。

この本を母にもらって、しばらくは興味がもてなくてほったらかしていたのですが、ぱらぱらっとめくったら東郷青児さんの名前が見えて、なんだか気になったので読み始めました。

でも、この本は東郷青児さんにについての本ではなくて、彼とも親しかった宇野千代さんの本。
宇野千代さんのエッセイです。

宇野千代さんは作家ですが、なかなか波乱に満ちた人生を送った方のようで、東郷青児さんとの恋愛もなかなかドラマチック。

別の女性と心中未遂を図ってすぐの東郷青児さんと出会い、その日のうちに彼の家へ行き、一緒に暮らし始めたそうな。
家には心中未遂の時にできた真っ赤な血に染まったシーツがあって、それを見て一緒に暮らそうと思ったというから、世の中いろいろな人がいるものです。
これが運命の出会いで、一生を東郷青児さんと共にしたのかと思えば、4年ほどで別れて、また他の男性といろいろな恋愛模様を繰り広げます。

これだけドラマチックな人生を送った人は、ドラマチックな人となりなのだろうと思ったのですが、本を読み進めてみるとそうでもない。

でも、恐ろしく前向き。
そして打たれ強い。

ドラマチックな人生を送った人は、それにに耐えうるガッツのある人なのでしょう。
宇野千代さんなんて98歳まで生きているわけですから、きっと相当なガッツの持ち主。

そして、ドラマチックな人生を乗り切っていくには、あらゆる出来事の主導権を握る事、もしくは握っていると思い込むことが大事なのかもしれません。

宇野千代さんの離婚十戒というのがこちら。

第一条 妻はその新婚生活の始めから、ただ一刻も夫の傍らを離れることなかれ。
第二条 妻はその夫の最初の浮気の時、徹底的に、めちゃくちゃにヤキモチをやくこと。夢にも『あたし、あなたを許すわ』などと言うことなかれ。
第三条 家庭の中を警察署にすることなかれ。
第四条 ケンカしてくしゃくしゃした時に、直ぐに表へ飛び出すことなかれ。
第五条 『あなたと違ってあたしだけはいつも正しい人間よ』と言う風にすることなかれ。反対に、妻はいつでも、夫の悪いことの共犯者になることです。
第六条 夫の描く夢を、方っ端から叩き潰すことなかれ。
第七条 夫の欠点を夢にも言葉に出すなかれ。また心の中でも、繰り返して考えることなかれ。夫に関してはオノロケ以外は口にすることなかれ。
第八条 絶えずブツブツこぼしていることなかれ。
第九条 いつもどこか体の調子が悪い、と言って訴えることなかれ。
第十条 何事にも、陰気で深刻な表情をすることなかれ。

夫を逃がさないための必死な十戒ではなくて、ちょっと賢く振舞えば、うまく物事運べますよというアドバイス。

夫の浮気で一人耐えて悲しみに暮れるより、「めちゃくちゃにヤキモチ焼いたほうが、この先だんなさんは浮気しにくくなるみたいだから焼いておくか」
くらいの気持ちでしっかり手綱を握ってしまうわけです。

実際、そこまでタフにはなれませんが、自分の人生の行方を自分以外のもののせいにしていると、楽しめるものも楽しめないのかもしれません。
せっかくだから、自分の人生の主導権をしっかり握って、いろいろな出来事を楽しく乗り切っていきたいと思ったのでした。


幸福を知る才能 宇野千代著