カテゴリー: 小川 糸

オガワイト



キラキラ共和国


ツバキ文具店の続編。

ツバキ文具店のあとを継いだ鳩子さんが子持ちの男性と結婚し、いきなり一児の母となるところから。
子どもは丁度小学校に入学する年頃で彼女はQPちゃんと呼んでいる。

前作が手紙というものについてのいろんな知識を教えてくれ、代書と言う作業のきめ細やかさに心打たれる本であったが、この続編はかなりの枚数をこの新家族、新たな伴侶、その亡き妻、特にQPちゃんについて最もページを割いている。

肝心の代書業も引き続き行ってはいるが、前作で手紙の内容に合わせての便せん選び、筆の種類やらボールペンの種類、郵便屋さんのためにあると思っていた切手に至るまで、綿密に選び抜くきめ細やかさに感動し、肝心のお手紙そのものにも感動したはずなのに、今回改めて、代書の相談事に客はやってくるわけだが。

なんでもかんでも代書頼みというのはいかがなものなのだろう。

好きな人への告白なんて最たるもので、それを人に書いてもらってどうするんだ。
前作で出て来た悪筆の人ならまだしも他人に書いてもらったことが相手にわかったらどんないい内容の手紙だろうが、いっぺんに覚めてしまうんじゃないのだろうか。

終盤に登場する川端康成ファンの女性からの依頼、川端康成から自分宛ての手紙を代筆してほしい、という依頼はかなりの難易度だろう。
文豪に成り代わって文書を書くなんて、しかも熱烈なファンだけに安易に文体を真似ただけなら返って偽物感が出てしまう。

と、今回は、代書を通しての感動はさほどでは無かったが、あらためてこの主人公のこころねの優しさはすなわち小川糸という作家の人柄なんだろうな、と思わせてくれる。

今回はQPちゃんについての記述が多いと書いたが、QPちゃんにとって自分は継母である。その父親であるミツローにとっては後妻。

その後妻の人が亡くなってしまった前妻のことを大好きになって、とうとう前妻に対してお手紙を書く。

やはり小川糸さん健在ですね。

キラキラ共和国  小川 糸著



ツバキ文具店


手紙の奥深さを改めて感じさせてくれる一冊です。

文具店と言いながらもほぼ本業は代書屋さん。

江戸時代にお殿様の祐筆を務めていたとされる家の跡取り娘が主人公。

代書屋という呼び名はどうも安っぽいイメージがしなくもないが、値段はさておき、仕事ぶりはそんな安っぽいものではない。

夫が亡くなったことすら把握出来ていない認知症が始まった母親がずっと夫からの手紙を待っている。
その亡き夫に成り代わって天国からの手紙を代筆する。

借金の返済を断りたい。
二度と借金の申し入れをしないように、などという代筆。

依頼される代書は見事に様々でかなり難易度が高い。
借金の返済の断りなど簡単ではないか、と思われるかもしれないが、二度と借金の申し入れをしないようにという願いを聞きつつも、送る人、送られた人それぞれの気持ち、立場を可能な限り考えた結果、送られた人も傷つかず、送った側を逆恨みするどころか、逆に清々しい気分になるような手紙を書く。

もはや、代書という作業ではなく作家に近い。
この本には実際の手紙そのものの写真も載せられているのを見ると、依頼毎に手紙の筆跡も表情も全て異なっているのがわかる。

筆など一体も何十種類そろえているのだろう。
この手紙は万年筆でメーカーはウォーターマンのル・マン○○を使おう。インクはブルーブラックで・・・。
この手紙ならモンブランのマイスター○○○を使おう。
この手紙はインクが滲まないボールペンで書くことにしよう、とか。

とにかく道具選びだけでも半端じゃない。

便せんの紙質はどれを使い、色は・・・封筒も紙質、色を厳選する。
おまけに貼る切手もそれぞれの局面に合わせて使い分ける。

まさに至れり尽くせりだ。

PCの普及後、手で字を書く機会がどんどん減って来てしまい、たまに署名欄に自分の名前を書くぐらいになってしまっている人など結構多いのではないだろうか。

スマフォでのコミュニケーションの多くはもはやメールという文章ですらない。
スタンプの応酬だけのコミュニケーションの人も居ることだろう。

近いうちに手書きの手紙というコミュニケーション手段は伝統文化に近いものになってしまうかもしれない。

とはいえ、手書きでないにしろ手紙というツールはまだまだ使うこともあるだろう。

この本、手紙一通一通ごとのいい話だけじゃない。
手紙にまつわる豆知識や、何かと為になることも多々書いてくれている。

一読して一度手紙を書く参考にしてみてはいかがだろう。

ツバキ文具店∥小川 糸著