月別アーカイブ: 1月 2025



星を編む

章立てで言えば、大きく分けて3部作。その1部についてのみ簡単にふれます。

主人公は北原という高校の先生。
最初の章では北原先生が研究の道を諦めて高校の教師となり、大病院の院長の娘である女子生徒を深夜補導されそうな時に偶然助けるあたりからストーリーは動き始める。

彼女には付き合っている彼氏がいて、その彼氏がスノーボードの選手なのだ。
しかも並みの選手なら良かったものをそこそこ顔を知られた、世界でも活躍するレベルの選手なのだ、だがそんなことは大病院の院長である父にも母にもいえるはずもなく、いつかは家を出て自立しようと考えている。

彼女を助けてからというもの、彼女の悩み事を打ち明けられるようになり、そのうち、彼女が高校生でありながらスノーボード選手の子供を妊娠してしまった事に気づく。
彼女は親にも言えず、これから世界へ羽ばたく彼の足手まといにならないようにと、彼にも言えない。
特別なお嬢様として級友から見られている彼女には打ち明ける友達もいない。

彼との再会の日、彼女は家を出ようと決心をし、北原先生にだけはそれを伝える。

まずはスノボーの彼にそれを話し、親にも話して、彼女の意向を理解してもらおうと再開の場へ飛んでいくのだが、ファンに囲まれる彼の前でそれをとうとう言い出せず、混乱を避けた先生は自身の子だと彼に言い放ち、早く立ち去るように言う。
おまけに流産しかけた彼女を病院に運び、飛んできた彼女の父親には自分の子供だということにして子供の命を守り、父親からは殴られ、教師も追放となる。

いやはや。
自身の両親は善人で他人に優しくする人で「情けは人のためならず」をモットーに生きてきた人で、自分はその道からはずれたんだ、みたいな事を語りつつも、実際はどうなんだ。
父親が人に優しくする、といったって、お金の工面が大抵で、まぁそれがために主人公氏は大学院での研究を諦める事になるのだが・・。

この先生の場合はお金ですむようなレベルじゃない、自分の人生を捨ててでも、人に尽くしてしまう。

学校の教師を辞めざるを得ないどころか、産まれて来る赤ちゃんも引き取るという超弩級の優しさ。
まぁそれで餓死してしまっては全員不幸だけど、この人はこれが幸せなんですな。
こんな人がいる世の中なら、この世界もまだまだ捨てたもんじゃない。



地図と拳

ものすごい大作だと思う。
巻末の引用文献を見るだけでも、著者がどれだけ、綿密に調べて書いたものかが想像出来る。ただ、建築に関する記述だけは単に文献を調べて書いたというよりも著者自ら学んで来たものからではないか、と思わせれるほどに熱が入っているように思う。
時代は、日清戦争後日露戦争前の満州から第二次大戦で日本が敗戦するまでの50年間。2025年の今年で戦後80年、阪神淡路大震災からまる30年。戦後も浮き沈みはもちろん有ったが、この50年の浮き沈みとは比べ物にならない。

明男という後半の主人公は幼いころより、時計に興味を持つと、ありとあらゆるものの時間を時計で計り、あまりの執着心にて母親から時計を取り上げられると、自信の感のみで時間計測が出来る様になる。
見かねた母親が温度計を渡してみると、今度は温度計測のスペシャリストになり、身体で感じた温度湿度から、その日の天候を天気予報よりも正確に言い当てることが出来る様になる。
そんな彼が進んだのは建築の世界。単なる建築にとどまらず、都市計画、都邑計画その力を満州の李家鎮というもう一人の主人公、細川が切り開いた都市で活かそうとするが、最後は虚しいものとなる。

この細川という人は只者ではない。
この満州の事を左右する場に必ず登場する。
真の意味の五族協和の地としての満州国の建国に彼は貢献している。
満州国は彼の意に反したものになって行くのだが。

戦争構造学研究所というシンクタンクを立ち上げ、若手のエリート軍人や官僚を起用して仮想内閣を開き、地政学と政治学の観点から日本と満州の今後を予測する。

現実は、この仮想内閣が予想した通りに進んで行き、かなりの早い段階で細川には10年後とその先が見えてしまう。

細川が最後の夢をかけたのが石油の自前での生産技術。
もはやそれ以外に日本を救う道は無かった。
石油を止められれば、石油を求めて、南方の仏印へ攻め入らなけばならず、そうなれば、その先、太平洋戦争になってしまう。
まだまだ、何も起こっていない段階から、石油の製造技術が水の泡になった段階で彼には日本が辿ってしまうだろう未来が見えてしまった。

何故、日中戦争という泥沼で馬鹿げた戦争を三日で勝負がつくと思い込んでに突入してしまったのか。
リットン調査団の報告が出た時に日本国が満州国を手放しさえしていれば、日本は別の道を歩めただろうか。手放しをするにも遅すぎたのだろうか。

歴史にIFは無いが、この細川の戦争構造学研究所の様な予測研究は、アメリカや中国などは絶対にやっているだろう。
アメリカがトランプ政権でどうなるかまでどこまで予測できているかは不明だが。

日本にも予測をする人はいくらもいるだろうが、政策に活かされているか、と言えば、割と行き当たりばったりに感じる現政権にはなかなか活かされていないのではないかと感じる。
現代の細川の誕生を待つばかりだ。