エリートの転身
「高杉良」と期待して読んだ人にはなんともまぁ残念すぎる作品。
エリートの転身、エリートの脱藩、民僚の転落、エリートの反乱という四作からなる本。
「エリートの転身」
一流の証券会社に入社し、同期の中でも出世頭。
将来の社長の器とまで言われながらも支店長を辞して、一からチョコレート職人に、という話。
支店長を辞める時の辞め方がナントモ。
会社をやめようと思っていた矢先に部下が不祥事を起こしたので、これ幸いとばかりに支店長として責任をとって辞任します、って退職する。
なんだろう。その辞め方って。
同僚や取引先や上司からも、なんて責任感の強いやつ。なんと潔いやつ、と惜しまれながらも実はうまく辞められたとほくそ笑んでいるような男に誰が共感するんだ。
カブ屋が嫌いになりました。とか、チョコレートを作りたいから、と言った方がまだ共感出来るし格好がいい。
チョコレート職人として一からスタートする努力は見上げたものだろうが、転身までの道筋がなんとも頂けなくて、到底本にするような話じゃないだろう。
「エリートの脱藩」
石油化学業界のトップ企業だが、オイルショック後の脱石油で業績低迷、一流企業をやめて中小企業へ転職する男。
低迷する業界だけになんとか起死回生のために粉骨砕身する話ならまだしも、会社のトップから慰留を受けながらも、ダメ業界から去って行きましたって話のどこに共感が得られるのか。
「民僚の転落」
大手繊維会社でエリートコースを歩いた男が、上司との付き合いゴルフでのしぐさが気に入らないから、と京都へ左遷されるという話。
京都支店での仕事は一からで呉服をたたんだり、正座で接客したりということを基本として教えられるのだが、そういう仕事がこの男、よほど気に入らなかったらしい。
郷に入れば郷に従い、基本を一から教えてもらえるというのはとてもありがたく大切なことだろうに。
そんな仕事は自分の仕事ではないとばかりに、飛ばされた理由だのばかりを探し出そうとするこの男もやはり共感を得られない。
「エリートの反乱」
企業内の派閥争いの結果が飛び火して一人の課長が懲戒解雇になろうかどうか、という話。
役員の理不尽な扱いに対して、戦いを挑む様は他の三作よりはまだ読み応えがある。
だが、まだ懲戒解雇を言い出されたわけでもないのに地位保全の仮処分申請を社長あてに内容証明で送りつけるという行為に出たこの男。
そんなことをして残っているよりも、それだけ仕事の出来るエリートならさっさと見切りをつけて転職すりゃいいのに・・・という気持ちになってしまうのは何故だろう。
どれも実話が元だったのかもしれない。
最初の「転身」などは社名も実際にある名前だけにまさに実話なのだろうが、どれもこれも、人を感動させたり、共感させたり、といういつもの高杉良作品とは程遠い。
小編は小編なりにちょっと山椒がピリリと効いていても良さそうなのだが、この作家、大作でなければ扱う素材も雑になってしまうのだろうか。
やはり高杉良は長編・大作に限る。