レインツリーの国有川浩


「はて、どこかで聞いたことのあるようなタイトル・・・」図書館戦争の連作を読んだ人ならそう思うのではないだろうか。
図書館2作目の「図書館内乱」で登場する話。小牧という図書館員が近所に住んで小さい頃から知っている女の子(今は女子高校生なのだが、耳が不自由)に薦める本、それが「レインツリーの国」という本だ。
「レインツリーの国は障害者を傷つける本だ。それを耳に不自由な女の子に読ませるとは、あまりにひどい」と騒ぎ立てる人が居り、小牧隊員はメディア良化委員会にしょっぴかれてしまうのだが、肝心の薦められた彼女の方は「私には本を読む自由もないのか」と「レインツリーの国」を読む権利を主張する。

その架空の「レインツリーの国」を実在にしてしまったのが、この本。
本編の「図書館内乱」とは並行で書かれていたらしい。

で、その内容。
ある女性がネット上にUPしていた読書感想文。
同じ本を読んで同じ様に影響を受けた主人公の男性が1本のメールを送るところからメールのやり取りが続き、メールではかなり親しい仲に。
やがて会うことになるのだが、その初デートの別れ際に彼女の耳が不自由なことを知る。

耳が不自由ということは人とコミュニケーションを取る上で非常に不利だ。
某サムラゴウチじゃないが、本当は聞こえてるんじゃないの?などと言われることもしばしばで、職場ではあまりいい思いはしていない。

この主人公の青年のなかなかに立派なところは、耳の聞こえない人の気持ちは自分にはわからない、と開き直って付き合っていくところ。
なんでも耳の障害のせいにしてしまう彼女に対して、時には厳しく、そして思いっきり優しく、誰にだってつらい事の一つや二つは抱えているんだ、と教え諭して行く。

この話、障害を乗り越えてのハッピーエンド物語でもなければ、障害者が可愛そう的なお涙頂戴ものでもないところが素晴らしい。

小牧隊員が難聴の娘に薦めたくなるのがうなずける

レインツリーの国  有川 浩 著

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