肥満と飢餓


世界では10億人が飢餓に苦しみ、10億人が肥満に悩む。

貧困に苦しむ世界の農民。その元凶は世界のフード業界の1/4のシェアを上位数社で抱え込むと言われる巨大なフードビジネスコングロマリットの存在。

原産地でキロ当たり十数セントで売られるコーヒー豆、地元の加工業者や流通業者の手を経てもなお、キロ当たり何十セントとドル未満のものが、一旦ネスレへ納入されるとその価格は一挙にキロ当たり16ドルと20倍以上に跳ね上がる。

それは一例。

各国の農民は、フード・ビジネスやら、国やら、銀行やらから借金漬けになっており、それが貧しさから抜け出せない要因なのだという。
まさにプランテーションの頃そのままのことが現在も続いているということなのか。

アメリカの農民にしてもまるで、スタインベックの「怒りの葡萄」の頃のままだと言う。
巨大フード産業も足腰は案外もろい、と筆者は書く。
例えば、原油の値上げなどで足元をすくわれる可能性もあると。

では、今年の1月よりチュニジアから始まった、反体制派デモによる中東地域のデモの頻発により、エジプトも政権崩壊。リビアでは未だに政府対反体制派の抗争が続き、まだまだ、他の中東の国への波及も想定される今現在はどうなのだろう。
原油価格は既に上がり始めている。

昨年あたりより、コーヒー豆などは新興国での需要が増えたことも有り、品薄状態。
オーストラリアの自然災害により小麦の品薄。
それに原油高は他のいろんなものの価格高に繋がることは必須だ。

これらは巨大フード産業にどんな影響を与えているのだろう。
ネスレは早々とコーヒー価格の値上げを発表したが、これはぼったくりをさらにぼったくる、ということなのだろうか。

日本でもこの春からコーヒー、小麦、ガソリンに限らず、かなりいろいろな品が値上げになりそうな気配である。
日本は長期間デフレ脱却を目指していたはずなのだから、少々のインフレに過剰反応する必要はないだろう。
このところのメディアは過剰反応しすぎの感がある。

筆者は従来の途上国の農業水準を大幅に上げたであろう「緑の革命」にも懐疑的である。
「緑の革命」によって化学肥料に頼らざるを得なくなった極貧農家はさらなる借金漬けにされてしまったのだろうか。
その後の遺伝子組み換え技術の話などでは、その生態が何十何百億年かかって築き上げた遺伝子情報をいうものに、ほんのちょっと手を加えただけで、まるで遺伝子情報そのものの特許までを組み換え技術会社が持っているかの如くの態度に憤慨されておられる。

この筆者の主張では「関税自由化が即ち悪なのだ」とも取れる発言が至るところで登場する。

韓国で農業貿易自由化に反対し、抗議の自殺を遂げた農民活動家、イギョンヘ氏の話を持ち出し、それが各国の農民に共通するような記述。
これはどうなんだろうか。
韓国は自由化への道を選択し、そしてその選択の後にちゃくちゃくと勝利をものにして来ている。
農業自由化の際に反対意見があったのはもちろんだろうが、規制緩和・自由化によって、農民に餓死者が出たなどと言う話は聞かない。

規制がある=官の支配強化=官を抱き込んだ巨大企業に有利。
最貧国の官などでは巨大企業の袖の下など、ごく当たり前のことだろうし。
という図式を考えれば、規制が緩和されること即ち、巨大企業以外にも参入の余地有り、ということは考えられないのだろうか。

フード産業についての歴史を読み解く本としては分かりやすく素晴らしいと思うのだが、その主張せんとするところについては、やや個人的思いが強すぎる感が有り、かなり割り引いて読む必要がありそうな本である。

肥満と飢餓  世界フード・ビジネスの不幸のシステム  ラジ・パテル (著), 佐久間 智子 (翻訳)