てのひらの父大沼 紀子著
女性三人が暮らす下宿屋に突然、管理人の不在交代でやって来たのが男の管理人。
「ニシオトモミ」という名前だけ聞いていた主人公(下宿人の一人)は、その怖い目つきのそのスジの人を思わせる紳士が臨時管理人だと知ってびっくりする。
その怖い目つきの管理人と女ばかり三人の下宿というミスマッチ。アンバランスこそ、稀に見る、いや稀にも見ない、理想の管理人さんなのでした。
下宿人の女性はそれぞれに結構深刻な悩みや問題を抱えていたりする。
年上の男が好きで、バリバリのキャリアウーマンの下宿人は年下の男に惚れられ、あろうことか酔った勢いの間違いで妊娠。
また、もう一人の下宿人は司法試験に向けて猛勉強の日々。
お父さんの容態が悪いので・・という家族からの電話にも一切出ようとしない。
主人公は、というとこれが結構深刻な就職活動中。
30半ばにして、大した資格もスキルも無いからと言っても、ここまで深刻な状況にはならないだろう。
彼女の場合は、書類審査OK、面談結果良好、でその次に就職担当者が「念のために前職への問い合わせをしてみます」と言ったが最後、その話は消えて無くなる。
もはや履歴書も書き慣れてしまい、履歴書を送るという行為も単純労働化しつつある。
そんなそれぞれに問題を抱える女性たちの住む下宿で、こわもての管理人はどんどんその存在感を発揮する。
ここに住まうのは空かの他人同士で家族ではない。
「家族は万能ではない。家族だからこそ救えないことはいくらでもある」
ここらあたりが、この本のテーマなのかもしれないが、何より、このコワモテのオジサンが、朝飯、晩飯付きの下宿で食事の支度をする。
律儀さ満点。
「私が仕事だと思ったら、それはもう仕事なのです!」
とおせっかいも満点。
何よりこのキャラクターの魅力が満点の作品でした。