アウト&アウト (OUT-AND-OUT)木内一裕著
なんか悪党パーカーの日本人版みたいな。
とは言えパーカーのように泥棒稼業をするわけじゃない。
なんとはなしに漂ってくる風貌や自信やらの雰囲気だけが似ている。
主人公は超大手ヤクザ組織の元若頭。
今は引退して探偵事務所の看板を前任者から引き継いでいる。
根っから怖そうな人でありながら、なんとも人の百倍ぐらい優しくもあり、気風のある人。
見た目はかなり強面なこの主人公は、両親を亡くして頼る先の無い小学二年生の女の子供を引き取っている。
その女の子がまたなんとも大人顔負けなほどに賢く、しっかり者で、強面探偵さんもその子にかかるとたじたじである。
探偵者の映画やドラマで、人質を取った犯人が「銃を捨てろ」と主人公に怒鳴るシーンが良くある。その時映画やドラマの主人公は必ずと言っていいほど銃を捨てるが、それがこの強面探偵さんにしてみると馬鹿なんじゃないか、と不思議で仕方がないのだという。
「主人公が犯人に銃を向けている」「犯人は人質に銃を向けている」
それで均衡が保たれているものを、なんでわざわざ自らその均衡をくずしてしまうのか、と。
だが、実際にはどうなんだろう。
そんな体験をしたことのある人はそうそう居るまい。
犯人は人質に銃を突きつけているのだとしたら、外れることはまずない。それに比べれば主人公が銃の名人で百発百中だったとしたって、きっちりと構えて狙いすましてのことだろうし、構えもせずにいきなり命中させられるほどの達人などそうそう居ないのではないだろうか。
となれば、均衡とは言え、かなり犯人に有利な均衡状態とも言えるのだから。
それでもやはり銃を捨てるやつは馬鹿だと思えるその発想がこの強面探偵の特性なのだろう。
このストーリーの中で登場する殺し屋側にもそれを追いつめようとする強面探偵の側にも悪人らしき悪人は登場しない。
唯一登場する悪人はかつての大物政治家の二世だったりする。
そこでやっぱりなぁ、などと思ってはいけない。いけない。
二世だって立派な人は大勢いるのだろうから。 た・ぶ・ん。