エジプト革命
チュニジアのジャスミン革命に始まるアラブの春と呼ばれる革命騒動。
エジプト革命のみならず、チュニジアにしろ、リビアにしろ、時の独裁政権を倒したところで、日本のメディアではあたかもアラブの春は終息してしまったかのようだ。
だが、永らく続いた長期政権がSNSで拡がったような運動が元となる革命で崩壊した後にどんなことになるのか、続報があってしかるべしだと思うのだが、いや、実際には続報はあったのかもしれないが、あったとしてもほとんど目にふれないようなものでしかない。
本書は革命が起きる前のムバラクと軍部の関わり、革命時点、そして革命その後2013年の夏までの一連のゴタゴタを、現地の報道などを元に忠実にわかり易く説明してくれている本である。
アラブの春、中でもエジプト革命の時には、結構 「その後」 を心配する声は多かった。
イスラム過激派が主流になってしまえば、中東はどんどん混迷を深めて行くのではないか、というような。
ところが、ムバラク政権が倒れると同時にいろんな声も収束してしまった。
次に大々的に報道されるとしたら、世界中が混乱するようなよほどの大事件が起きるか、もしくは邦人が殺害された時だろうか。
エジプト革命において、ムバラクが最終的に退陣せざるを得なくなったのは軍がムバラクに見切りをつけてしまったことがその要因。
エジプトにおいては軍は国民の味方という立場を終始とっており、国民の意識の中でも軍は国民を裏切らない、という意識が高いのだという。
ムバラク政権崩壊後、革命の中心的存在だったSNSに刺激された青年団達はリーダーの不在もあって徐々に力を失って行く。
代わりに台頭してきたのが、ムスリム同胞団らのイスラム教勢力。
崩壊後から文民統制を望まない軍とムスリム同胞団との綱引きが始まる。
それは県知事の任命においてだったり、次の憲法をどうするか、であったり。
大統領の権限を大幅に削減し大統領による独裁を無くすという条項を盛り込んだ憲法改正ですませたい軍部と、新憲法をという軍以外の勢力。
2011年の革命からすったもんだの後に2012年には正規の選挙によって、ムスリム同胞団出身のムルシーという大統領が選ばれるのだが、その命運もたったの1年。
2013年の夏には軍によるクーデターによって解任されてしまう。
エジプトはこの3年の間に2度の革命を経験したことになる。
筆者はエジプトの地方の識字率の低さに注目する。
エジプトにおける民主主義の難解さは、そこから来るのではないか、と。
識字率だけでもないような気がするが、識字率の低い中で民主的な選挙で多数を取るのはどうしても組織化されたムスリム同胞団のようなイスラム教勢力になってしまう。
しかしながら、投票数の多数がすなわち民意ではない、というエジプトならではの複雑さ。
ただ、イスラムが組織化されている、識字率が低い・・・などはエジプトに限った話ではあるまい。
永年にわたるイギリスの支配下からの独立運動を経て、ナセルによって果たされた真の独立とアラブの雄としてのゆるぎない国としてのプライド、そして19世紀に導入された宗教の分け隔ての無い国民皆兵の徴兵制。
案外このあたりに、「エジプトならでは」の根っこがあるのかもしれない。
さて2度目の革命後のエジプトは今後どうなって行くのか。
ますます混迷を極めるという考えもあるだろう。
ナセルやムバラクそのものがそうだったように軍人の中から大統領が出て従来通りで収まる、という道もあるだろう。
そうなればアメリカも安心だ。
だが、多数決以外の形式の民主主義、投票数だけで選ばれない選挙制度など、エジプト式の新たな民主主義というものが生まれる可能性があるとしたらどうだろうか。
エジプトの今後はまだまだ未知数なのだ。