華麗なる欺き新堂冬樹著
「犯罪のアーティスト」
「標的を狙う二人の天才詐欺師の頭脳ゲーム」
なんだかわくわくするような本の帯。
もの凄く楽しみにして購入したのはいいが、なんだんだろう。
この虚しさは。
こんな立派な装丁にしてもらって、いかにも売れ筋の本です、の如く並べられてあるにしちゃ、この作者、拙さすぎだろう。
ルパンという通り名の詐欺師の大元締めが居て、その子分格にコヨーテとフォックスという通り名の男性と女性の詐欺師のそれぞれの息子と娘の詐欺師がわたり合う、という設定。
むろん設定そのものにも突っ込みを入れたくはなるが、拙さというのはそんなところじゃない。
冒頭のシーン、
テレビ局の編成になり切って、放送枠をプロダクションに売りつける。
本契約の日に現金で1億何千万を現金で用意させる、だとか、なんだか当たり前の如くに言っちゃっていますが、「現金で」って、政治家の裏献金じゃないんだから、そんなことを言いだした途端にアウトだろ。
銀行振込みNGならそれなりの場面なり仕掛けなりを用意して下さいな。
相手も会社なんだから、銀行を経由しない金銭取引を強いるには税務署から脱税を疑われないような仕掛けを用意してあげなきゃウンというわけがないし、そもそもその根拠がない。
その後のポーカーのシーンにしたって相当にひどいが、それもスルー。
そんなシーンは山なのでいちいちあげつらうような馬鹿げたことはしない。
なんといってもお粗末なのは、作者が登場人物をしてさすがは天才詐欺師だのさすがはアーティストだのと書いてしまっているところだろうか。
この天才詐欺師とアーティストという言葉が何度出てくることか。
そんな「さすが」も「天才」かどうかも「アーティスト」かどうかもは読者に判断してもらうものだろうに。
一流の詐欺師は一流の心理学者だ、とか。
さすがは心理学者と思わせてくれるのかとお思いきや、ごくごくありきたりなセリフで「なるほど」と唸る箇所がない。
この作者、自分の書いているものに自信満々なんだろう。
全部空振りだけど。
うんちくの披露っぽい箇所にしても、どれ一つとっても「なるほど」「そうなんだ」などと納得させられる箇所が無い。
そもそも編集者はなんでストップかけなかったんだ?
こんな作品に立派な装丁をして帯に宣伝文句を入れて、1700円で売ろう、なんてことするから、出版不況になるんじゃないのか。
期待して読んだのはいいが、アニメのルパン三世30分ほどの値打ちも無かった。
やっぱり電子書籍なんだろうか。
装丁も無し。
但し中身で値段が決まる、っていうのはいかがか。
この本なら100円ダウンロードでどうだろう。
まぁ100円なんだし仕方無いか、と納得出来る値段設定だと思うが。
この本を読んでの唯一の感想は、出版社による「華麗なる欺き」にひっかかってしまったなぁ、と言ったところだろうか。