月別アーカイブ: 5月 2011



華麗なる欺き


「犯罪のアーティスト」
「標的を狙う二人の天才詐欺師の頭脳ゲーム」

なんだかわくわくするような本の帯。
もの凄く楽しみにして購入したのはいいが、なんだんだろう。
この虚しさは。

こんな立派な装丁にしてもらって、いかにも売れ筋の本です、の如く並べられてあるにしちゃ、この作者、拙さすぎだろう。

ルパンという通り名の詐欺師の大元締めが居て、その子分格にコヨーテとフォックスという通り名の男性と女性の詐欺師のそれぞれの息子と娘の詐欺師がわたり合う、という設定。
むろん設定そのものにも突っ込みを入れたくはなるが、拙さというのはそんなところじゃない。
冒頭のシーン、
テレビ局の編成になり切って、放送枠をプロダクションに売りつける。
本契約の日に現金で1億何千万を現金で用意させる、だとか、なんだか当たり前の如くに言っちゃっていますが、「現金で」って、政治家の裏献金じゃないんだから、そんなことを言いだした途端にアウトだろ。
銀行振込みNGならそれなりの場面なり仕掛けなりを用意して下さいな。
相手も会社なんだから、銀行を経由しない金銭取引を強いるには税務署から脱税を疑われないような仕掛けを用意してあげなきゃウンというわけがないし、そもそもその根拠がない。
その後のポーカーのシーンにしたって相当にひどいが、それもスルー。
そんなシーンは山なのでいちいちあげつらうような馬鹿げたことはしない。

なんといってもお粗末なのは、作者が登場人物をしてさすがは天才詐欺師だのさすがはアーティストだのと書いてしまっているところだろうか。
この天才詐欺師とアーティストという言葉が何度出てくることか。

そんな「さすが」も「天才」かどうかも「アーティスト」かどうかもは読者に判断してもらうものだろうに。

一流の詐欺師は一流の心理学者だ、とか。
さすがは心理学者と思わせてくれるのかとお思いきや、ごくごくありきたりなセリフで「なるほど」と唸る箇所がない。
この作者、自分の書いているものに自信満々なんだろう。
全部空振りだけど。
うんちくの披露っぽい箇所にしても、どれ一つとっても「なるほど」「そうなんだ」などと納得させられる箇所が無い。

そもそも編集者はなんでストップかけなかったんだ?

こんな作品に立派な装丁をして帯に宣伝文句を入れて、1700円で売ろう、なんてことするから、出版不況になるんじゃないのか。
期待して読んだのはいいが、アニメのルパン三世30分ほどの値打ちも無かった。

やっぱり電子書籍なんだろうか。
装丁も無し。
但し中身で値段が決まる、っていうのはいかがか。
この本なら100円ダウンロードでどうだろう。
まぁ100円なんだし仕方無いか、と納得出来る値段設定だと思うが。

この本を読んでの唯一の感想は、出版社による「華麗なる欺き」にひっかかってしまったなぁ、と言ったところだろうか。

華麗なる欺き  新堂冬樹著



死亡フラグが立ちました


誰がどう見ても単なる事故死。
が、実は完璧に事故死と見せかけた殺人だったとしたら・・・。

主人公は都市伝説をテーマにした雑誌の記者。

舞い込んで来たのが、疑惑代議士秘書の交通事故死にまつわる話。
その代議士が疑惑を持たれて、その鍵を握る男とマスコミが注目し始めた時だけにあまりにタイミングがヒットしすぎるのだが、状況からみて単なる交通事故であるとしか思えない、という事件。

その事件を演出したのが「死神」と呼ばれる殺し屋で、そのターゲットになると、24時間以内に必ず死ぬ運命になるというのが都市伝説。その「死神」を取材して来い、と命じられる主人公記者。

その状況証拠だけを見れば事故でしかないはずのものでも、被害者がそこへ向かうように、またまた事故が起こるように誘導するトラップがいくつもいくつも仕掛けられている、という仕掛けの謎解きをして行くあたりは読ませてはくれる。

それでもねぇ。
バナナの皮で転ぶようにいくら誘導してみたところで、昔のアメリカアニメの世界みたいにバナナの皮ですってんころりん、なんてやつ見たことないし。
吉本新喜劇の浅香あき恵の鼻の油で転ぶ方が真実味があったりして・・・。

それにいくら事故の方へ事故の方へと誘導してみたって、所詮は誘導。
うまく行って軽傷。すごくうまくいって大怪我がせいぜいか。
この先何年もに亘ってトラップをかけ続ければいつかは・・、ということもあるかもしれないが、必ず24時間以内とはまた、ハードルを高くしてしまいましたね。
それだけ書き手のトラップのアイデアが問われてしまうわけだ。

それにしたって その報酬がたったの100万円、って安すぎるだろ!
一人の人間を誘導するにあたっての事前調査費用だって馬鹿にならないだろうし、誘導させるための人にも金はかかるわなぁ。

っていうより、突っ込みどころはもとより満載。
ミステリーものでも、ノンフィクションでもなんでもない軽いギャクタッチの読み物なので、敢えて突っ込みどころを満載にして、突っ込んでもらう反響を期待して書いているんだろう。

だからあんまり突っ込みを入れるのは作者の戦術にまんまと嵌ってしまったということになってしまう。
だからこのぐらいにしておこう。

「死亡フラグが立つ」という言葉、最近良く使われるようになった言葉。

もとより、この「フラグ」という言葉は我々コンピュータのプログラム屋さんの用語で、特定の条件の時に「フラグ」をON、OFFすることで後にこの「フラグ」をON、OFFを判断し、処理を分岐させる。

ちなみに「フラグ」を多用したプログラムは、下手くそなプログラムとして忌み嫌われる。

この本では「死亡フラグが立つ」場面をかなり多用しているわけだが、それ即ち多用したプログラム同様とは申しますまい。
こちらは単なる娯楽ですから。

死亡フラグが立ちました  七尾与史著