月別アーカイブ: 3月 2017




中国の事を書いた本って結構な数を読んだ覚えがあるが、台湾の事を書いた本って思いだそうと思ってもあまり出て来ない。

抗日戦争の後に中国共産党と国民党が戦って、共産党が勝利し、国民党側の人たちが台湾へ逃げ込んだところまでは大抵の人は知っている。

その後の台湾がどんな歴史を歩んだのか、はあまり知られていないかもしれない。

昔から親日的で、人々は温和で、食べ物はおいしく、政治的には西側諸国の一国。
残念ながら中国の存在があるので、国連には加入出来てない。
多くの人のイメージは、そんなところではないだろうか。

台湾の中でも大陸からやって来た国民党にくっついてやって来た人たちと、元々台湾に住んでいた本省人とは相性は良くなく、良くなくというよりは大陸人(外省人)が本省人を蔑んでいる。
この話の主人公は祖父が共産軍と戦い、大陸を逃れて来たいわゆる外省人。
祖父は大陸では、何人もの人を切って来たという武勇伝には事欠かない人。
この当時の人の大半がそうだっただろうが、特に共産党がどうとか国民党がどうとか思想的なものは一切ない。
この祖父もご多分に漏れず、あいつとは兄弟分だからとか、そんな理由で国民党側についた一人だ。

そんな武勇伝満載の祖父がある時、何者かによって殺害されてしまう。

それからの主人公氏の願いは祖父を殺害した犯人をなんとかみつけることになっていく。
進学校に通ってエリートコースまっしぐらだった主人公氏だが、ある事件をきっかけに、台湾でも一二を争う不良学生のたまり場の高校へと移り、それからが喧嘩三昧。
その後、軍隊の生活を経て、また故郷に舞い戻る。

ここにはおそらく日本では誰も書かなかったその当時の台湾の世相が描かれている。
この誰も書かなかったというところが味噌である。

主人公の軍隊生活の中で、こっくりさんの儀式を行う場面がある。
ここがなかなか興味深かった。

本当に台湾でもこっくりさんを行う習慣があるのだろうか。
元々大陸で行われていたのが日本に伝わったのかもしれないし、日本から伝わったのか、作者が作ったものなのか。
作者は台湾生まれの日本育ち。台北は5歳まで過ごしたと書いてあったので、ここに登場する台湾の話も実体験より、その後の取材によるものが大半だろう。

ついつい戦後台湾を味わった気になってしまいがちだが、ストーリーはもちろんフィクションだろうが、その当時の世相や雰囲気などはどこまで実体なのだろう。

取材から膨らませたにしてはかなり生々しい。
自らのルーツを持つ者のみの独特の筆力で読む者を圧倒する、そんな表現が妥当だろうか。

流 東山彰良 著



大脱走


就職活動の末、ようやく内定に辿り着いた主人公の女性、片桐いずみ。
辿り着いたのはリフォーム会社の営業職。
9時出勤の会社に初日8:40に出て行くと鬼軍曹のような部長にどやしつけられる。
「9時出勤と言えば、8:30には来て準備するのが当たり前だろうがぁー!」と。

リフォーム会社の営業として入社したにも関わらず、何故か作業服に着替えてから出て行く先輩営業マンたち。
営業はもちろん、飛び込み営業だ。
正攻法で行ったって、話をする前にインターフォンを切られるのが関の山。

そこで編み出したのが、アンテナトーク。

ピンポーン、と鳴らして、
「ちょっと先でアンテナ工事をしますんで、まずご迷惑をおかけすることはないでしょうが、念のため」
在宅していれば、大抵は、「わざわざご丁寧にご苦労様」ぐらいは言われるだろう。
その会話の糸口を掴んだところで、
「ところでお宅のアンテナ、ちょっと緩んでますね。
 なんでしたら、ちょっと先の工事の帰りに見て差し上げますよ。もちろん無料で。」
ここで、「じゃあ見て」と言わせたら、アポインターの仕事は完了。
あとは、クロージング役が引き受ける。

その後ほどの時に現れるクロージング役、まずは屋根にどんどん登る。
肝心のアンテナはそこそこにして、写真をとにかくパシャパシャ撮る。

梯子を下りて来てからが、いよいよクロージング。
奥さん、この瓦のひび見て。これじゃそのうち雨漏りしてくるよ。
と工事話に持って行くわけだが、ここで偽の写真を出しているなら、完璧に詐欺。

もちろん「先でアンテナ工事を」も「アンテナ緩んでますね」もアポ取りのための方便なので、これもダマシであることには違いない。
そのアポすら取れなかった営業マンは現場で深夜続行。
もちろん、歩合なのでそのまま給与にも跳ね返る。

片桐は人を騙すのが嫌なので、どれだけ効率が悪かろうが、「お宅の修繕の営業に参りました」と正攻法でアプローチする。

土曜も日曜も関係なく働き、深夜1時まで働いても、結果は伴わない。

尚且つ入社して来た新人を押しつけられ、そいつの分も稼いでくるはめに。
その新人がまた、楽をすることしか考えない男。
こんなやつ見たことあるなぁ、と思ったが、その男の楽に対する執念は、そんじょそこらのレベルじゃなかった。
その男を中心に後半以降は話が展開していくのだが、それは置いておく。

この会社、ブラック企業として書かれているが、もはやブラックどころか、悪徳企業だろう。

片桐さんの正攻法にしろ、アンテナトークにしろ、どちらのアプローチでも無理だろう。
この会社の業態じゃ、もうどうしようもないんじゃないだろうか。

常に新規の開拓先を営業しなければなりたたないのは、過去に行った先で結果を残していないからに他ならない。
いい仕事を残そうにも、この会社が施工部門を持っていないのは致命的で、所詮外注頼みでしかなくなる。

リピーターが望めない以上、新規に頼るしかなく、それもどんどん遠出をしなければ、行くところが無くなってしまう。

千件アプローチして、せいぜいアポが三つなんて効率の悪さでも成り立っている業種があるとすれば、その三つが成約した場合の報酬がとてつもなく大きいからだろう。
この片桐さんの正攻法にしても、東京をはるか離れた新幹線で行くようなところまで足を運んで営業したところで、ようやく取れたのが7万円の施工受注。
外注の施工会社に頼んで、人と車を出してもらい、高速に乗って現場の往復。
それだけで、もういくらももう足が出るんじゃないのか。
会社の方はいずれ潰れるか、社員が全員やめるかしてどの道終わるしかないだろうが、社会人1年生から3年もこんな仕事をした彼女、もう怖いものなんて無いんじゃないだろうか。

大脱走 荒木 源著



カエルの楽園


なんともわかりやすい本だ。

天敵のダルマガエルの攻撃で、毎日毎日ダルマガエルに食われて命を落として行くアマガエルの一族。

長老は時が過ぎるのを待つ。今は耐えるしかない。
を繰り返すが、若い主人公その名もソクラテスは、座して仲間が食われて行く状況を待つことに納得がいかない。

60匹ばかりの同志と共に安住の地を求め、生まれ故郷を旅立つこととする。
だが、外の世界に安全な場所などなく、カラスに狙われ、マムシに狙われ、水の中ではイワナだって天敵だ。
仲間はどんどん減って行き、最後はとうとうソクラテスともう一匹の二匹だけとなってしまった。
その最後に辿り着いたのが、ツチガエルたちが住むナパージュというとても平和な国。

天敵が襲ってこないのだ。
天敵が襲って来る心配をしなくてもいい場所、というのは二匹にとっては、おそらく初めての体験。

何故、天敵が来ないのか。

この国には三戒を守っているからだ、とツチガエルたちは口ぐちに言う。
三戒とは
「カエルを信じろ」
「カエルと争うな」
「争うための力を持つな」

もう、皆まで読まんでも早くもこのあたりでなんとなく察しはついた。
が、読み進めて行くと、ツチガエルたちは謝りソングという唄を歌い、自分たちの国が過去に起こした残虐な行為を謝りつづける。

そしてその三戒を守り、謝りソングを唄うだけで、本当に平和で安全な国になるのか、この国についてもっと調べることにする。

そして新たにわかったのが、実態はスチームボートという名のタカの存在。
彼が崖の下から上がってくるウシガエルににらみを効かせていた。

三戒を守れば平和は来るのだ、と演説するのはこの国で一番物知りと言われるデイブレイクというツチガエル。そして皆が拍手を送る。

やがて、南の崖からウシガエルが一匹、そして二匹・・・と表れてくる。

いやぁ、そこまでそのまんまにしなくてもいいだろう、というぐらいに念入りだ。

言わずもがな「三戒」とは憲法九条で、ツチガエルたちが住むナパージュという国はもちろん日本。
スチームボートという名のタカはアメリカで、デイブレイクと言う名の物知りは朝日新聞。
南の崖から現れるウシガエルが中国。

その他、現在の南シナ海の現状とおぼしき内容を訴えるカエル。

安保の集団的自衛権についてとおぼしきやり取り。デモとおぼしき行為をする学生団体シールズと思われる若いカエル達。
三戒さえ守っていれば安全が保たれる、というが相手が三戒を守ってくれるわけじゃにだろう、云々の議論の応酬。

集団的自衛が出て来ているので、最近の話題だし、やはり今でもこういう議論はさんざんされてはいるが、ちょっと出がらしっぽい。

30年も前、いやもっと前なんだろうか。九条があるから日本は安全という神話がまかり通っていた時代にこの本が出たなら、まだ少しはインパクトがあっただろうに。

「永遠の0」「海賊とよばれた男」以来の名著だと言われてもなぁ。

百田さんの言いたいことはわかりますよ。

でもこの二冊と一緒にして欲しくないなぁ。

あれらは書くに至るまでにどれだけの歳月をかけて取材したのだろう、と思わせられる本だったし、実際に名著だと思う」。

でもこの本なら百田さん、一晩でテレビ見ながらでも書けちゃうんじゃないの?

カエルの楽園 百田 尚樹著