作成者: admin



ベルリンは晴れているか


第二次次大戦のドイツ降伏直後、日本がまだ受諾する前のポツダム会談が行われている頃のドイツ・ベルリンが舞台の話。
当時のベルリンへはソ連・イギリス・アメリカと三か国の軍隊が入って来ている。

あるドイツ人の男が毒殺されたことをきっかけに、その男にかつて匿われていたこともある主人公のアウグステという女性はソ連の将校から、その甥を探す様、指示される。
ソ連兵が相棒につけたのは、カフカという詐欺師で泥棒の元役者のユダヤ人と思われる男。

この本、結構な大作だ。
読み終えるまでかなり時間がかかってしまった。

同じ敗戦国の日本の立場と似通ったところはある、と思いながら読み進めるうちに日本とはまるで違う、とすぐに思い直すことになる。

ベルリンにはソ連・イギリス・アメリカと三か国の軍隊が入って来た。
何より、ソ連が介入して来ている事がドイツの何よりの不幸だろう。

この本の記述ではないが、当時ベルリンに居た女性の約一割弱がソ連軍により強姦などの性暴力の被害者となったという。その比率って・・老人子供を除けば、かなりの比率の女性がソ連兵の被害に遭っていることになる。

主人公のアウグステは、敵性語である英語を学ぶことが大好きだったことも有り、米軍施設で職を得ていたのだが、彼女の父親も元々共産党員だったこともあり、ポーランドからの難民の子供を引き取ってしまった事が発覚してナチに拘束され、亡くなってしまう。
後を追う様に母親も亡くなっている。

カフカという男も興味深い。
生粋のドイツ人でありながら、顔がユダヤ人に似ているという事で、学生時代からいじめの対象となっていたのだが、ある頃からしのユダヤ人に似ている要望を逆手にとって、敢えて性格の悪いユダヤ人を演ずることで、人気者になる。

やがてナチの宣伝映画にもその役柄で出演し、ユダヤ人を貶める事に一役を買って来たという男。

ユダヤ人に似ているという事でドイツ人からも軽蔑され、戦争が終わるや、ユダヤ人を貶めた張本人として、ユダヤ人からも憎まれる。

同じ国の人同士でいまだにヒットラーを崇める人がいるかと思えば、憎む人もいる、かと言って入って来たよその国の軍隊が好きかと言えばそれも違う。しかし力を持っているのは方やよその国の軍隊。明日がどうなるのか誰にもわからない。こんな混沌あるだろうか。

この本はミステリにジャンルされる本としてのストーリーだてであるが、この戦後の有り様に対する見事な描写はどうだろう。
まさに自ら体験してきたかの如くではないか。

ミストリ仕立てにではあるが一つの歴史本と言ってもいいかもしれない。


ベルリンは晴れているか 深緑野分著



ひとつむぎの手


四日間で二度読みしてしまった。
二回目に読んだ時もやはり最後のエピローグのところで目をうるうるさせてしまった。

今の世の中「働き方改革」大はやりで、残業するなんてもってのほか、休日に仕事へ行くなんてもってのほか。
そんなご時世と真反対な働き方をするのがこの話の主人公の医師。

彼は大学の医局の心臓外科の医師。
1週間の内、家に帰れたのはたったの1日。
当直でも無いのに、重篤な患者が居れば病院に泊まり込む。
決して手を抜かない。
というより、要領が悪い。
というより人任せに出来ないタイプ。

そこまで働き続けるモチベーションの源は一流の心臓外科医となって一人でも多くの人命を救うこと。
そのためにはいつまでも下働きばかりをするのではなく、最も開胸手術の多い病院へ出向して手術の腕を磨くこと。
そしてその病院へ誰を出向させるのかを決めるのは主任教授。

心臓外科などと一般の外科に比べたらはるかに患者数が少ないだろうに何故この科が最悪とよばれるほどの殺人的忙しさなのだろう。それはこの主任教授が有名な心臓外科医の権威でそこで手術を受けたいという患者が集まるからだろうか。
殺人的忙しさに耐えられなくなり、どんどん医局の人が減って行き、残った医者の負担が更に大きくなるという負の連鎖なのだろうか。
まぁ、双方なんでしょう。

その現役でさえどんどんやめて行く心臓外科へ入局先をこれから決める研修医を一度にに三名引き受け、その指導担当に主人公氏が当たることに。
三名の内二名を入局させられれば、希望の病院への出向を決めてくれる、と言う言葉をもらえば、どんなに忙しかろうと、引き受けないわけには行かないだろう。

研修医に対する、初っ端の対応に失敗して、3人との間に壁が出来てしまうのだが、彼ならではの真摯な取り組みを見て、一人、また一人と彼に心酔して行く。

なんにせよ、教え子の医者に「あなたの様な医者になるためにこの道を選んだ」などという言葉をもらえるほど幸せなことは無いだろう。
自らが目指していた一流のオペが出来る心臓外科医になる事よりもその価値は大きいだろう。

ひとつむぎの手  知念 実希人著



火のないところに煙は


怪談話、ホラー話でありながら、ミステリとしてランキング入りしている。

確かに怪談話やホラーものとはちょっと違い、単に怖い話を集めたわけではなく、それぞれの話の終わりに、実は・・・みたいな話が多い。

最後に落ちがついている。
単に怖がらせておしまいではなく、その謎解きが入っていたり、新たな事実が分かったり、そういうところが、大してインパクトのある話でも、魅力ある話でもないのに、割りと一気に読めてしまう。

主人公氏は編集者転じて作家となった男。
元々はホラー作家じゃなかったのにそういう依頼が来て、つい旧友の話を書いてしまう。それをきっかけにホラー話が舞い込んで来る様になり、そういう舞い込みを元に二話目、三話目と続いて行く。

二話目は、同業の女性ライターから聞いた話。
自分の電話番号を出版社から聞き出し、お祓いをしてくれる人を紹介してくれる人を紹介しろ、としつこく、食らいついて来る女。

あと不動産がらみの話が続く。
三話目の「妄言」は隣人にこんな人が居たら怖い。
引っ越したばかりの家の隣のおばさんが、主人の留守中に妻と親しくなり、自分をどこどこで見かけた、女連れだった・・などと真顔で妻に吹き込んで行く。
あまりの真剣さにまるまる嘘を言っている様にはどうにも見えない。

これも単なる妄言を吐く人では無かった、こういうところがやはり一般的なホラーものとは違うところなんだろう。

いくつもの小編をバラバラに集めて一冊にしているのかと思いきや、実は一話目に登場する謎の占い師と繋がっているのではないか、という疑問を敢えて残したママにする。

そんなこともあってホラー話のフリをしたミステリにジャンルされたのだろうか。
でも、ミステリとも言えない気がするな。

火のないところに煙は 芦沢 央著