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ある紅衛兵の告白


ここに描かれているのはまさに自分が体験していなければ書けない様な生々しい話ばかりだ。
これまで中国の文化大革命を題材にした本は何冊か読んだことがあるが、どちらかと言えば文革の被害に自分や家族が遭遇し、中国を出て行った人の話が多かった様に思う。

それでもインパクトはかなりあったものだが、この本の迫力と言ったらどうだろうか。
それまでハルピンの地方の街の中学生だった主人公(筆者)。
文革の波は突然にやってくる
いきなり教師が一人自己反省を始める。
次には生徒が次から次と教師をつるし上げて行く。
学校は完全に崩壊され、もちろん授業など行われるはずもない。
教師は黒い三角帽を被せられ、台の上で膝をついて頭を垂れて、反革命的言動について、自己反省の言葉を言う事を強いられる。
公安とか警察の命令ではない。自分たちの教え子であるはずの生徒達から足蹴にされ、反省を強要されるのだ。
彼らは次から次へと標的を探し始める。
スポーツシューズの裏にある模様が「毛」の字に似ている、というだけでそのスポーツシューズを履いていた連中が標的に。大鍋の底の模様が「毛」の字に似ているから・・・。
絵画に至っては○○の様に見える、などと言い出したらいくらでもこじつけが出来てしまう。
こじつけにもほどがあるだろう、というごじつけで、弾劾者が決まって行く。
弾劾する側も弾劾する側に廻らなければ、自分が反革命分子のレッテルを貼られてしまうので戦々恐々だ。

そして芸術も文学も歴史もことごとく失われて行く。
「毛語録」以外の本を持っていることだけでも危険極まりない。

紅衛兵というのは誰でもがなれるわけではなく、この糾弾運動に積極的で、革命側にとってエリート、つまり両親もまたその両親も貧しい労働者階級であること。地主などが一人でも居れば、もうアウト。
つまり、紅衛兵になるか、その準紅衛兵の立場になるのか、はたまた、絶対無理な立場になるのか、共産主義で皆平等を目指すはすが、ここで明らかな階級が出来てしまうのだ。
親を反革命分子として糾弾する中学生なども出てくる。彼も最後には気がふれてしまうのだが・・。
全く身動きが取れないほどのすし詰め状態の列車で毛沢東を一目見ようと北京へ向かう学生達の大移動。

北京から更に移動した先で見る、無残な光景。
ある女性が色目を使ったなどと言う理由で、煮えたぎる大鍋の中へ放り込まれる。

その後、革命軍同士の対決が始まり、それがどんどん激化していく。
日本の学生運動の内ゲバの比ではない。こっちは戦車だの装甲車だのでぶつかりあっている。
もう完璧な戦争だ。

この文革、毛主席にすれば反革命分子の名で、先々政敵になりそうな連中を先に潰しておく狙いはあっただろうが、中学生や大学生がここまで狂気の世界に走って行くことまで想定済みだっただろうか。
また、実際に起こっていることは把握していたのだろうか。

それにしてもこの梁暁声と言う人、中学時代からほぼ10年間、勉学など出来なかっただろうに、なかなか博識なのだ。文章の至る所に、フロイト的なみたいな言葉が普通に使われているし。
ものごとの本質をちゃんと見据えているようにも思えるし。

彼は、いつこんな知識を身につけたのだろう。

多くの同世代の元紅衛兵たちはそうはいかなかったのではないだろうか。学生時代に10年間、教育を受けていないにのだ。中国でどんどん富裕層が生まれてくる時代におそらく取り残されているのではないか、と少し気の毒になる。

カルト教を信じる信者の様に、何かの熱にうなされたかの様に狂信的な世界が続いて行く、こんな熱病のような世界に何億人もが陥るという事が実際に発生してしまうのだ。

インターネットで世界が繋がった現代では考えられないと思ってしまいがちだが、SNSで一旦炎上するやいなや特定の人物を、血祭りにあげ、皆でバッシングする現代ももちろん文革ほどではないが、実はその類似の要素をはらんでいるのかもしれない。

ある紅衛兵の告白 梁暁声(リアン・シアオ・ション)著



屍人荘の殺人


このタイトルなんともなぁ。
本屋で手に取って買いたい気持ちになかなかならないと思いますよ。

このタイトルの本にしてはかなり軽快なピッチであっという間に読み進めてしまった。

山のペンションへ夏合宿で泊りに行く大学の映画研究部のサークル。
そこへなんとか潜り込もうとする探偵ごっこの大学非公認サークルの二人。
一人の美形女子のあっせんでなんとか同行に成功する。そしてそのあっせんしてくれた彼女もまた探偵だった。
しかもかなり本格的な。

そのペンション近くで開催されていたロックフェスでのウィルステロ。
感染した人間はなんとゾンビになる。
まさにバイオハザードそのものだ。

こっちのゾンビはバイオハザードのゾンビみたいなスピード感がなく、ごくゆっくりとしか動けない。

こちらのゾンビの方が論理的なのかもしれない。

心臓は止まっているのだろうし、血液も循環していない。
感染していない生物の方角にだけ動こうとする本能だけで動いている。
素早く動く筋力などあるわけがない。

なかなかゾンビについての雑学を教えてくれたりする。
こお地球上にはゾンビ化するアリが存在するらしい。
ならば人体で起こす事も実験しだいでは可能だったりして。

そのゾンビに囲まれたペンションの中で起きる殺人事件。

どう見てもゾンビに食いちぎられたとしか思えない死体なのだが、ペンションの守りは固くバリケードを築いて、ゾンビの侵入を阻んでいるはず。

そしてどう見ても内部の人間が犯人としか思えないメッセージの紙片。

探偵ごっこの方の探偵さんもそうそうにゾンビに喰われてしまうし、なかなか展開が面白い。

惜しむらくはやはりタイトルだろうか。

屍人荘の殺人  今村昌弘著



元年春之祭


中国の古代の話、宮城谷氏以外の書き手のモノを読むとこんなにも読みづらいのか。
いやいや宮城谷氏以外も読んでました。

なんだろう。
何故、頭に入って来ない?

前漢の時代の旧楚の国の祭祀を担う一族の元へ、旧斉の国から豪族の娘が客人として訪れ、そこで起こった殺人事件を解決して行こうというお話。

その4年前に起きた一族の長男一家殺人事件。
娘一人を除いて全員死亡。

それに新たに起きる殺人事件。

一帯の集落には一族の3家族しかいないのだから、
それぞれ、外部と遮断されているなら、ほぼほぼその親族内でしか考えられないし、第三者が捜査をしようどころか近隣に住む一族同士。
そんなの毎日一緒に過ごしていれば自然にわかってしまうんじゃないのか。

たまたま滞在しに来た縁もゆかりもないしかも若い娘二人が新たな犯行の犯人なんてちょっと無理があり過ぎる。

なかなか絶賛されていた本だけに期待するところ大だったが。

中国古代を舞台とした現代的?ミステリ、という目新しさはあったものの、なんとも読みづらい本だった。

やっぱり宮城谷氏の本を読みたくなってしまった。

元年春之祭 陸秋槎著