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火のないところに煙は


怪談話、ホラー話でありながら、ミステリとしてランキング入りしている。

確かに怪談話やホラーものとはちょっと違い、単に怖い話を集めたわけではなく、それぞれの話の終わりに、実は・・・みたいな話が多い。

最後に落ちがついている。
単に怖がらせておしまいではなく、その謎解きが入っていたり、新たな事実が分かったり、そういうところが、大してインパクトのある話でも、魅力ある話でもないのに、割りと一気に読めてしまう。

主人公氏は編集者転じて作家となった男。
元々はホラー作家じゃなかったのにそういう依頼が来て、つい旧友の話を書いてしまう。それをきっかけにホラー話が舞い込んで来る様になり、そういう舞い込みを元に二話目、三話目と続いて行く。

二話目は、同業の女性ライターから聞いた話。
自分の電話番号を出版社から聞き出し、お祓いをしてくれる人を紹介してくれる人を紹介しろ、としつこく、食らいついて来る女。

あと不動産がらみの話が続く。
三話目の「妄言」は隣人にこんな人が居たら怖い。
引っ越したばかりの家の隣のおばさんが、主人の留守中に妻と親しくなり、自分をどこどこで見かけた、女連れだった・・などと真顔で妻に吹き込んで行く。
あまりの真剣さにまるまる嘘を言っている様にはどうにも見えない。

これも単なる妄言を吐く人では無かった、こういうところがやはり一般的なホラーものとは違うところなんだろう。

いくつもの小編をバラバラに集めて一冊にしているのかと思いきや、実は一話目に登場する謎の占い師と繋がっているのではないか、という疑問を敢えて残したママにする。

そんなこともあってホラー話のフリをしたミステリにジャンルされたのだろうか。
でも、ミステリとも言えない気がするな。

火のないところに煙は 芦沢 央著



ある紅衛兵の告白


ここに描かれているのはまさに自分が体験していなければ書けない様な生々しい話ばかりだ。
これまで中国の文化大革命を題材にした本は何冊か読んだことがあるが、どちらかと言えば文革の被害に自分や家族が遭遇し、中国を出て行った人の話が多かった様に思う。

それでもインパクトはかなりあったものだが、この本の迫力と言ったらどうだろうか。
それまでハルピンの地方の街の中学生だった主人公(筆者)。
文革の波は突然にやってくる
いきなり教師が一人自己反省を始める。
次には生徒が次から次と教師をつるし上げて行く。
学校は完全に崩壊され、もちろん授業など行われるはずもない。
教師は黒い三角帽を被せられ、台の上で膝をついて頭を垂れて、反革命的言動について、自己反省の言葉を言う事を強いられる。
公安とか警察の命令ではない。自分たちの教え子であるはずの生徒達から足蹴にされ、反省を強要されるのだ。
彼らは次から次へと標的を探し始める。
スポーツシューズの裏にある模様が「毛」の字に似ている、というだけでそのスポーツシューズを履いていた連中が標的に。大鍋の底の模様が「毛」の字に似ているから・・・。
絵画に至っては○○の様に見える、などと言い出したらいくらでもこじつけが出来てしまう。
こじつけにもほどがあるだろう、というごじつけで、弾劾者が決まって行く。
弾劾する側も弾劾する側に廻らなければ、自分が反革命分子のレッテルを貼られてしまうので戦々恐々だ。

そして芸術も文学も歴史もことごとく失われて行く。
「毛語録」以外の本を持っていることだけでも危険極まりない。

紅衛兵というのは誰でもがなれるわけではなく、この糾弾運動に積極的で、革命側にとってエリート、つまり両親もまたその両親も貧しい労働者階級であること。地主などが一人でも居れば、もうアウト。
つまり、紅衛兵になるか、その準紅衛兵の立場になるのか、はたまた、絶対無理な立場になるのか、共産主義で皆平等を目指すはすが、ここで明らかな階級が出来てしまうのだ。
親を反革命分子として糾弾する中学生なども出てくる。彼も最後には気がふれてしまうのだが・・。
全く身動きが取れないほどのすし詰め状態の列車で毛沢東を一目見ようと北京へ向かう学生達の大移動。

北京から更に移動した先で見る、無残な光景。
ある女性が色目を使ったなどと言う理由で、煮えたぎる大鍋の中へ放り込まれる。

その後、革命軍同士の対決が始まり、それがどんどん激化していく。
日本の学生運動の内ゲバの比ではない。こっちは戦車だの装甲車だのでぶつかりあっている。
もう完璧な戦争だ。

この文革、毛主席にすれば反革命分子の名で、先々政敵になりそうな連中を先に潰しておく狙いはあっただろうが、中学生や大学生がここまで狂気の世界に走って行くことまで想定済みだっただろうか。
また、実際に起こっていることは把握していたのだろうか。

それにしてもこの梁暁声と言う人、中学時代からほぼ10年間、勉学など出来なかっただろうに、なかなか博識なのだ。文章の至る所に、フロイト的なみたいな言葉が普通に使われているし。
ものごとの本質をちゃんと見据えているようにも思えるし。

彼は、いつこんな知識を身につけたのだろう。

多くの同世代の元紅衛兵たちはそうはいかなかったのではないだろうか。学生時代に10年間、教育を受けていないにのだ。中国でどんどん富裕層が生まれてくる時代におそらく取り残されているのではないか、と少し気の毒になる。

カルト教を信じる信者の様に、何かの熱にうなされたかの様に狂信的な世界が続いて行く、こんな熱病のような世界に何億人もが陥るという事が実際に発生してしまうのだ。

インターネットで世界が繋がった現代では考えられないと思ってしまいがちだが、SNSで一旦炎上するやいなや特定の人物を、血祭りにあげ、皆でバッシングする現代ももちろん文革ほどではないが、実はその類似の要素をはらんでいるのかもしれない。

ある紅衛兵の告白 梁暁声(リアン・シアオ・ション)著



屍人荘の殺人


このタイトルなんともなぁ。
本屋で手に取って買いたい気持ちになかなかならないと思いますよ。

このタイトルの本にしてはかなり軽快なピッチであっという間に読み進めてしまった。

山のペンションへ夏合宿で泊りに行く大学の映画研究部のサークル。
そこへなんとか潜り込もうとする探偵ごっこの大学非公認サークルの二人。
一人の美形女子のあっせんでなんとか同行に成功する。そしてそのあっせんしてくれた彼女もまた探偵だった。
しかもかなり本格的な。

そのペンション近くで開催されていたロックフェスでのウィルステロ。
感染した人間はなんとゾンビになる。
まさにバイオハザードそのものだ。

こっちのゾンビはバイオハザードのゾンビみたいなスピード感がなく、ごくゆっくりとしか動けない。

こちらのゾンビの方が論理的なのかもしれない。

心臓は止まっているのだろうし、血液も循環していない。
感染していない生物の方角にだけ動こうとする本能だけで動いている。
素早く動く筋力などあるわけがない。

なかなかゾンビについての雑学を教えてくれたりする。
こお地球上にはゾンビ化するアリが存在するらしい。
ならば人体で起こす事も実験しだいでは可能だったりして。

そのゾンビに囲まれたペンションの中で起きる殺人事件。

どう見てもゾンビに食いちぎられたとしか思えない死体なのだが、ペンションの守りは固くバリケードを築いて、ゾンビの侵入を阻んでいるはず。

そしてどう見ても内部の人間が犯人としか思えないメッセージの紙片。

探偵ごっこの方の探偵さんもそうそうにゾンビに喰われてしまうし、なかなか展開が面白い。

惜しむらくはやはりタイトルだろうか。

屍人荘の殺人  今村昌弘著