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錨を上げよ


いったい何を読まされてしまったんだろう。

帯も書き過ぎだろ。
『大ベストセラー、永遠の0をはるかに凌ぐ感動!』って。

百田さんの書いたものは大抵読んで来たつもりだったが、この本は知らなかった。

これまで何某かの感動を与えてくれる本ばかりだっただけに、なんだろう。この残念感。

主人公の小学時代、中学時代なんて少年時代のことをだらだらだらだらといつまで書いてんだ?
これがあとでそんなに大事な伏線にでもなるというのか?
というよりも全体的に長すぎる。
その割に内容が無い。
いつになったら頭角を現すんだ?いつ碇をあげるんだ、と期待を膨らませられながらもだらだらが続く。

レコード店でようやく本腰を入れ始めた時は、なんだツタヤもびっくりの事でも始めるのかと思いきや、結局これも途中で投げ出してしまう。
そんなに才覚にあふれ、アイデア豊富でやる気満々なら、オーナーに文句たれて消えてしまうんじゃなく、自分でなんでやらないんだ、この男は。

結局、北海道の北方領土の近海での密漁が一番の読みどころになってしまった。
ソ連の警備艇と日本の海上保安庁双方から逃げ回るこのシーンはなかなか迫力があり、臨場感もあった。

結局それもやめて、大阪へ帰って来てテレビのフリー放送作家に。

まさか、自伝か?

いやそんなはずはないだろうが、大学時代と言い、時代背景と言い作者の生きてきた時代そのものを自分の体験も織り交ぜて書いていることは確かだろう。

じゃぁ、今度こそ放送作家を天職として何かを成し遂げるのか、というと、結局、これも何も成せぬまま、またまた投げ出してしまう。

最後が一番ショックだったかな。
最後の最後まで読んで、うそだろ。これが終わり?

上下巻のこのクソ長い、手も重たくなる様な本を読んできて、こんなエンディングなのか?

せっかく放送作家になったんだから、せめて「探偵ナイトスクープ」を手掛けた時の事ぐらい書いてくれていたら、まだちょっとは救いがあったのになぁ。

錨を上げよ  百田 尚樹著



キラキラ共和国


ツバキ文具店の続編。

ツバキ文具店のあとを継いだ鳩子さんが子持ちの男性と結婚し、いきなり一児の母となるところから。
子どもは丁度小学校に入学する年頃で彼女はQPちゃんと呼んでいる。

前作が手紙というものについてのいろんな知識を教えてくれ、代書と言う作業のきめ細やかさに心打たれる本であったが、この続編はかなりの枚数をこの新家族、新たな伴侶、その亡き妻、特にQPちゃんについて最もページを割いている。

肝心の代書業も引き続き行ってはいるが、前作で手紙の内容に合わせての便せん選び、筆の種類やらボールペンの種類、郵便屋さんのためにあると思っていた切手に至るまで、綿密に選び抜くきめ細やかさに感動し、肝心のお手紙そのものにも感動したはずなのに、今回改めて、代書の相談事に客はやってくるわけだが。

なんでもかんでも代書頼みというのはいかがなものなのだろう。

好きな人への告白なんて最たるもので、それを人に書いてもらってどうするんだ。
前作で出て来た悪筆の人ならまだしも他人に書いてもらったことが相手にわかったらどんないい内容の手紙だろうが、いっぺんに覚めてしまうんじゃないのだろうか。

終盤に登場する川端康成ファンの女性からの依頼、川端康成から自分宛ての手紙を代筆してほしい、という依頼はかなりの難易度だろう。
文豪に成り代わって文書を書くなんて、しかも熱烈なファンだけに安易に文体を真似ただけなら返って偽物感が出てしまう。

と、今回は、代書を通しての感動はさほどでは無かったが、あらためてこの主人公のこころねの優しさはすなわち小川糸という作家の人柄なんだろうな、と思わせてくれる。

今回はQPちゃんについての記述が多いと書いたが、QPちゃんにとって自分は継母である。その父親であるミツローにとっては後妻。

その後妻の人が亡くなってしまった前妻のことを大好きになって、とうとう前妻に対してお手紙を書く。

やはり小川糸さん健在ですね。

キラキラ共和国  小川 糸著



星の子


幼い頃、病気がちだった女の子が父の会社の先輩に薦められた水を飲んだところ、みるみる快復してしまった。
この一家ではそれが終わりの始まり。
父も母もその水にすっかり心酔してしまい、それを大量に購入するようになる。
また、その水を販売している団体にもすっかり嵌り、そこでの行事には必ず参加するようになって行く。
いわゆる、いかがわしい宗教団体というやつ。

小学校に上がってからも「アイツは変な宗教団体に入っているからな」と冷ややかな目で見られるどころか、いじめをなくす立場の教師からも「変な団体への勧誘をするなよ」などと白眼視されるのだが、一家はお構いなしだ。

姉だけはまともだったのか。
この家を飛び出して帰って来なくなる。

もちろん教団からのすすめなのだろうが、親はますます奇行が多くなり、仕事もおそらく首になったのではなかろうか。

この主人公の娘も成長していくにあたって、おかしい団体だと気付きはじめているのだが、自ら去ろうとはしない。

子ども視点でたんたんと話が語られて行くが、かなり重たいテーマだ。

星の子 今村夏子著