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爆弾

最初にこの本を手に取った時、正直言って、こんなに面白い本だとは思わなかった。
なんだろう。どんどん引っ込まれて行く。

スズキタゴサクと名乗る男になのか、彼の出す謎かけに挑む特殊班捜査係の刑事とのやり取りなのか。

酒屋の自動販売機を蹴りつけた男が止めに入った店員を殴ったとして逮捕される。

取調室で男は名前を聞かれて「スズキタゴサク」と答える。

取り調べの刑事はふざけるな、と思いつつも大した事件でも無し、まぁどうでもいいと取り調べる側も身が入らない。

流していると、男は自分は霊感がある、などと言い、秋葉原で起こる爆破事件、次に東京ドームで起きる爆破事件を言い当てる。

そこから彼はもう一つ、
「ここから三度、次は一時間以内に爆発します」と予言します。

ここで取調べ官は警視庁から来た特殊班捜査係の刑事に交代。
そこから特殊犯刑事とスズキタゴサクとの心理戦が始まる。

タゴサクは刑事相手にゲームやクイズを持ちかけ、そのやり取りの中の謎かけを解いて行くと、に次の爆破のヒントが隠されたりしている。

のらりくらりと話し、小太りの単なる傷害犯だったはずの冴えない男が実はかなりの頭脳明晰な男だとだんだんとわかってくる。

爆弾魔男と刑事の心理ゲームがとにかく面白い。

謎かけだけが面白かったわけじゃない。
タゴサクの発する言葉は、言い返せば綺麗事にしかならない。
本音のところにグサグサと突き刺さる。

「命は平等って、ほんとうですか?」

「きっとあらゆる場所で、あらゆる人が、いつもいつも、他人の命のランク付けにいそしんでいるんです」

「爆発したって、別によくないですか?」

それにしてもどれだけ長い時間このやり取りをしているんだ。
最初に拘束されてからゆうに24時間を超えたところでタゴサクの方も寝かせろ、とは言わない。ずっとやり取りを楽しんでいる。
操作する側も取調官どころか、爆弾を探しまくる捜査員たちもほぼほぼ寝ていない。

そんな先の時間に正確に爆破するものを事前に仕込んでおいて、予定通りに起爆するなどと言うのは至難の業だろう。

何時にどこで爆発するかわからない状態で単に爆弾を仕込んだという話だけで東京中を走り回らないといけない警察という職業、なんと因果なものだろうか。



この夏の星を見る

もうすっかり忘れつつあるあのコロナ禍。特に2020年の春の緊急事態宣言の境に世の中、一変した。
3密を避けましょう。
不要不急の外出は控えましょう。
ソーシャルディスタンスを取りましょう。
都道府県を跨いでの移動はやめて下さい。
黙食。
マスク、手洗い、消毒・・・

コロナの影響を受けている人がいる今から見ても若干滑稽ではないか、と思えるようなメディアの訴え方だったが、後世の人が見た時、何を感じるだろうか。

全国一斉休校、やはりあれが一番大きかったのではないだろうか。
自宅に籠る(ステイホーム)が当たり前になってしまった。

春の季節だっただけに、卒業式は中止・延期、入学式も中止。
他にも修学旅行は軒並み中止。
甲子園をはじめとする学生のスポール大会も悉く中止。
文化系の大会も軒並み中止。

そんなコロナ真っ只中で、何もかもが自粛自粛で出来ないことだらけの高校生・中学生達が何が出来るかを探し求める話。

千葉県の高校が主催して行われていた「スターキャッチコンテスト」という望遠鏡で星を捉えるスピードを競うコンテスト。
コロナ前までは、各学校の天文部員たちが集まって行われるのだが、東京の中学生が勇気を振り絞って、この高校の天文部へ質問のメールを送ったことから、この「スターキャッチコンテスト」をリモートで実施しようという流れとなる。

この千葉県の天文部顧問の先生の顔の広さのおかげで、長崎の五島列島の離島の高校生とも繋がる。

長崎の離島、千葉、東京となると、感染者数は東京が断然多いので、一番シビアなのは東京だと思うところだが、実態としてはその逆で他の人の視線の厳しさとなると東京から離れれば離れるほど厳しくなるのかもしれない。

五島から参加の女子高生は家は旅館。
この時期に県外からの観光客を受け入れたという話が島で広がり、親しいはずだった友人までもが離れて行く。

そんな話、地方に行けば行くほど全国各地であったんだろうな。

コロナによって何もかも諦めざるを得なかった学生たちだが、逆にコロナだからこそ、こんな遠隔地の繋がりが出来たとも言える。

彼らは失ったものも多かったが、代わりに得難いものを得たとも言えるだろう。



君のクイズ