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暗幕のゲルニカ


世紀の名画、ピカソの「ゲルニカ」。
小学時代か中学時代の教科書に載っていたような記憶がある。
後にスペイン内戦の片方フランコ将軍側を非難する目的だったと学んだ記憶があるが、
これほどに影響力のある絵だったとは・・・。

ゲルニカの絵はスペイン内戦時にバスク地方にあるゲルニカという小都市がナチスドイツによって空爆される。それは軍事基地を攻撃するわけでも無ければ、兵士を相手にしたものでも無い。全くの無辜の民への虐殺行為だった。
その新聞記事を見たピカソは部屋に籠ったまま何日も出て来なかったという。

パリ万国博覧会への出品作をせかされても全く筆を取らなかったピカソが部屋から出て
愛人のドラを呼んで見せたのが、横7.7M、縦3.5Mもの巨大なキャンパスに描かれたゲルニカの原画。

パリ万国博覧会のスペイン館に展示されたこの絵に対しては賛否両輪。
この絵を書いたのはお前か?とのナチスの問いに対して、いいえあなた方です、と答えるピカソ。

この本、現代とピカソの生きた時代を行ったり来たりする。
ピカソの生きた時代の登場人物はすべて実在の人物で、21世紀に入ってからの登場人物は全て架空なのだそうだ。

現代側の話では、2001年の9.11テロで最愛の人を亡くしたキュレーターの女性がテロとの戦いとの名目で、アフガンを空爆し、次にイラク戦へと向かって行くアメリカにおいて、今こそ、ピカソのゲルニカを展示したピカソ展を開こうと奮闘する。

この本は架空ではないピカソの生きた時代を描く事で、このゲルニカの絵の人に与えたインパクト、ゲルニカの絵の亡命などを含む数奇な運命、いろいろなことを教えてくれる。

この本を読みながら、表紙に印刷されているゲルニカの絵をたびたび見返すことで、なるほど、なるほど、と何度もうなってしまった。


暗幕のゲルニカ 原田 マハ著



幻庵(上)(下)


百田尚樹氏の熱烈なファンだったとしても、囲碁の経験が全く無かった場合、その方々はこの本を楽しめただろうか。

この本、江戸時代のプロの碁打ちの物語で、結構史実に忠実に書かれているように思えるので、どこからが百田氏の創作なのかは良くわからない。

たぶん、囲碁の専門用語について来れなくなった読者は上巻で脱落するだろう。

だが、この本は下巻からが、俄然おもしろくなっていく。

幻庵と名乗る前の井上因碩(いんせき)と本因坊丈和(じょうわ)との凄まじい戦い。

井上因碩は孫子の兵法を用いて、策を弄しすぎたために後に後悔する。

それにしても囲碁の戦いを文章で綴ることはかなり至難の業だろう。

読んでいるこちらも棋譜を見せて欲しくなる。

棋譜はポイントポイントで登場するのだが、打ち掛けとなったその一手のみ、もしくは、これが改心の一手と言われる一手のみにマークをつけられてもなぁ。

棋譜に①から順に全ての順を書いてくれとは言わないが、その直前の数手ぐらい記してもらわないと、その一手の凄味がアマチュア碁しか知らない人間には、なかなか伝わりづらい。

この本を書くにあたっては、百田氏、囲碁そのものや囲碁の古文献も調べまくっただろうし、現役のプロ棋士にもさんざん話を聞きに行ったことだろう。

ただ、その努力が万人に受け入れられたのかどうかは、疑わしい。

江戸時代の命がけの囲碁であったとしても、その一部の棋譜から面白さを感じ取れるのは、アマチュアでもかなり上段者じゃないんだろうか。

まぁ、別の読み方みあっただろうけど。

幻庵  百田 尚樹著



コーヒーが冷めないうちに


実に軽い読み物。

一時間程度で読めてしまった。

とある喫茶店の都市伝説にまつわる話。

特定の席に座ると過去に戻っることが出来るという。

但し、条件が厳しい。
過去に戻っても、その特定の席を立って移動すると、即座に現在に戻る。
その喫茶店を訪れた事のない者には会う事はできない。まぁ席から移動できない以上、当たり前と言ったら当たり前。

あと戻れる時間。
コーヒーをカップに注いでから戻り、そのコーヒーが冷めてしまうまでの間だけ。
それ以上、そのまま戻らないと、地縛霊のような幽霊になってしまう。

実際にその特定の席はいつも同じ女性が占有しており、使えるのは、一日一回その女性がトイレに行った時だけ。
で、その女性はコーヒーを冷ましてしまった幽霊なんだそうだ。

その喫茶店をめぐる四話。

・「恋人」
 彼氏にフラれた女がそのフラれる瞬間に戻る。
・「夫婦」
 認知症を患って、妻の顔さえ思い出せなくなった男の妻が夫の記憶のまだある瞬間に戻る。
・「姉妹」
 旅館を営む実家を飛び出して来た姉と残された妹、妹は姉に会いに来るが、姉はなかなか会おうともしない。そんな妹に不慮の事故が・・。
その妹に会いに戻る。

・「親子」
 この喫茶店のマスターの妻が妊娠。
しかしながら、病弱な妻は出産をしてしまうと自分の命が危うくなる。
出産を取るか、自分の命をとるかの選択肢を迫られた妻が過去ではなく、未来へと向かう。

ざぁーっと、かいつまんだ点だけを書きならべてみたが、感想は?と問われると、冒頭に書いた通り、なんて軽い読み物なんだろうの一点。

前宣伝が大きすぎて期待させられてしまうが、さほど泣ける話でもない。とにかく軽い。

タイトルのつけ方がうま過ぎるだろ。

コーヒーが冷めないうちに 川口 俊和著