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売国


戦後、アメリカの占領政策にて、日本人が骨抜きにされてしまった、とは多くの方が述べているし、今、人気の昭和の政治家、田中角栄もアメリカの不興を買ってしまったがために、アメリカに嵌められた、と良く言われるが、ロッキード事件の経緯などを読めばそれも頷ける。

この本では、日本の国益を損なう事お構いなしで、アメリカ相手に情報を垂れ流し、情報や技術をアメリカの益となるように動いている日本の大物政治家を検察が検挙しようとする話なのだが・・・。

うーん。うなってしまう。

金のために日本の技術を売り渡すとしたら飛んでもないことだが、日本の国益かアメリカの国益かそれとも双方か、となると日本の過去の政策にはかなりグレーゾーンなものも多かったのではないか。
アメリカの益でもあるがすなわち日本の益でもある・・みたいな。

日本の国益を損なう事お構いなしでとなれば、ここで特捜検事に糾弾されるべきは、ロッキード事件の検事総長や検事達も国益よりも検察の威信を優先した、ということ出は同じようなもんだろ、

この本、特捜検事が主人公であるがもう一人、宇宙開発を夢見る若き宇宙開発研究者女性も主人公でもある。

交互にそれぞれの舞台で物語が進んで行くのだが、この二人、かすりはするが最後まで直接の接点が無いまま終わる。

ちょっと珍しい作りなのだ。

実はこの宇宙開発研究者女性が主人公になっている箇所、全く無くても、ストーリーとしては違和感無く読めてしまう。


売国 真山仁 著



王とサーカス


先日、タイの国王が亡くなったばかりであるが、ネパールもほんの数年ほど前までは王制だった。タイの亡きプミポン国王が国民から圧倒的に信頼されていたのと同様に、ネパールの国王も国民から愛されていた。
その国王があろうことか、皇太子によって殺害されてしまう。

たまたまその時期にネパールを訪れていた、フリーになりたての女性記者が主人公。

初めてカトマンズを訪れた者の目から見た街並み。
国王が亡くなって嘆く国民の姿。
中盤まではそんな感じで進んで行くのだが、終盤に近づくにつれ、だんだんと探偵ものの推理の謎解きのような物語になって行く。

謎解きのような物語になって行くにつれてちょっとした違和感がいくつか。
いつもおだやかで親切にしてくれた僧侶。いきつけの日本料理店の天ぷら屋でも殺生を嫌って魚の天ぷらには手を出さない人が、人だけは平気で殺せてしまうのだろうか?

物売りの少年にしても、彼女に偽りの記事を書かせたいがためだけに行う行為は、彼が利口なだけにあまりにもその行為に伴うリスクに比べて、得るものの無さ加減はどうなんだろう。

その利発な少年おちょくられていた主人公女子が、突然、名探偵になってしまうことは何より違和感。

それより何より、この記者。なんといっても青臭い。
王宮を警護すべき軍人への取材の際に、
相手が
「お前は何を伝えようとしているのか」
「何のために伝えようとしているのか」
「人は自分に降りかかることのない惨劇は刺激的な娯楽だ」
とジャーナリストを批判するのはいいだろう。

だが、この記者さん、本気でそこを悩み始めてしまう。

「私は何を伝えようとしているだろう」
「私は何のために伝えようとしているのだろう」

そこを悩んでいる人が存在する業種には思えないが・・。

まぁ、ある意味新鮮か。

そのあたりが実はこの本のテーマでもあったりする。

この軍人の発した「私はこの国をサーカスにするつもりはない」という言葉からこの本のタイトル「王とサーカス」がついているのだろうし・・・。

って、書いていると、この本をけなしているみたいですが、ちょっと途中からミステリ系へのシフトに驚いただけで、
最初からミステリ系の本だと思って読めば、かなり面白い部類だと思いますよ。

王とサーカス 米澤 穂信 著



永い言い訳


妻に先立たれると、男は何がどこにあるのかさっぱりわからず、てんてこ舞いなどという話はざらにあるので、この本の一部分は身につまされる人も多いことだろうが、この主人公氏、ちょっと行きすぎていた。

売れない作家時代は、まさに髪結いの亭主。
ヒモのような存在として奥さんに食べさせてもらっていた。

ちょっと作品が売れて、テレビのコメンテーターなどにも頻繁に登場するような存在になると、男の方は変わるが、妻の方は何もなかったかのようにこれまで通り。

そんな妻がだんだんとしんどくなっていく男。
妻は妻で売れなかった頃のような愛情はもはや感じていない。

まま、ありがちなことなんだろうな。

妻が突然のバスの転落事故で亡くなってしまう。
遺族となって妻の遺留品を示された彼、どれが妻のものなのか、全く分からない。
それどころか、どんな服を持っていたのか、当日出かける際に顔を合わせたはずなのに、どんな服を着ていたのかさえ、頭の片隅にもない。

それどころか、妻を失った悲しみがこれっぽっちも無い。
かなり性格的にもねじまがった男であることに違いは無い。

そんな台所に立つことになる。
同じバスで転落死した妻の友人の夫から声をかけられ、その子供の面倒を見るようになる。
所詮、ごっこでしかないにだが、男の心はみるみる変わって行く。

その変わりようが面白い。

そして愛していないはずの妻の存在をあらためて見つめなおしていく。

この本、本屋大賞こそ受賞そていないが、本屋さんが薦める本の上位にランキング。

やっぱり本屋さんの薦める本にはずれは無いわなぁ。

永い言い訳 西川 美和 著