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よろこびの歌


オムニバス形式で短編が繋がっていくお話。

第一話の主人公、玲と言う名の女子は音大付属を受験するが、まさかの失敗をし、他に何も考えていなかったので、新設校に入学することにした。

挫折した人ばかりが集まる学校なんだろう、と心を閉ざし、誰とも話さない。
そんな彼女が合唱コンクールの指揮者に指名されるが、皆は彼女の厳しい指導について来れず、結果は惨憺たるものに。

この学校、行事が大好きで行内合唱コンクールの次はマラソン大会。
走るのが苦手な彼女、最後尾からもうよろよろ状態で最後のトラックを廻っている時に聞こえた皆の歌声の素晴らしさに感動する。それは合唱コンクールでの課題曲だった。

そこから彼女は変わって行く。

音楽教師から合唱コンクールのリベンジを言い渡され、玲の厳しい指導のもとで合唱の練習が再開する。
その中には、第二話の語り手、家がうどん屋の同級生が居たり、
その次の、中学時代はソフトボール部のエースで四番だった同級生が居たり、実はこんな人だったの、という学級委員長が居たり、霊が見える子が居たり・・・。

あまり自信のない人が、周囲との関わりの中の中、だんだんに自信を付けて行く、というのが宮下奈都さんの定番の様に思っていたが、この本もそういうところはあるが、皆で何かを成し遂げて行こうとする、この一連の話が、宮下奈都さんの中でも一番のような気がする。

よろこびの歌 宮下奈都著



美少年探偵団


西尾維新さん、対地球の話が止まっていると思っているうちにこっちの方は筆が早い早い。

・美少年探偵団 -きみだけに光かがやく暗黒星-
・ぺてん師と空気男と美少年
・屋根裏の美少年

去年の末からこっち、書き下ろしを3冊。
これと掟上のシリーズがやけに量産されているような気がするなぁ。

美少年探偵とかってそんなタイトルの本を手にしているだけでそっち系の人かと勘違いされるんじゃないか、なんてカバーを大ぴらに出せないようなタイトル、勘弁して欲しいなぁ。

まぁ、これまでの表紙も似たようなもんだけど。

内容は、廃部になった中学校の美術部の部室を絢爛豪華に改装して、勝手に自分たちの部室として使っている、生徒5人。名乗るのは美少年探偵団。
そのメンバには生徒会長もいりゃ、番長も、陸上のエース、学校の持ち主である理事長家で且つ天才的な芸術家も居る。
そして団長はなんとまだ小学生で、美学のマナブという。
美声、美食、美脚、美術、美学、とそれぞれの持ち味が通り名になって、美声のナガヒロ、美脚のヒョータなどと呼ばれる。

そこへ参加することになるのが、特殊な目を持った女子で、美観のマユミ。
特殊な目とは、あまりにも視力が良すぎて、物を透き通して見えてしまう、そこまでいきゃ、充分特殊だろ。

美声はそのまま声が美しい、美食はおいしいものを食べる方を連想してしまうが、作る方。美脚は足が美しいだけでなく、途轍もなく速い。美術は授業名みたいだが、これも才能。

一つだけ毛色が違うのが美学。
他のメンバは全部才能なのに比べて、これは才能か?
美学というのは考え方のことではないのか。

で、答はやはり才能だった。

このチーム、何より美しくない事を嫌う。
探偵としての依頼事項も美しくなければ行わない。

その基準を決定するのが、美学のマナブ。
小学生なので、実際の学は無いが、美学に徹するところは他の誰にも及ばない。
もはや、才能だ。

第二巻ぺてん師と空気男と美少年で他校にちょっかい出して、第三巻の屋根裏の美少年で他校のリーダーが美観のマユミに接触してくるとなると、このシリーズ、まだまだ続くよ。と言われているようだ。

維新さん、掟上さんと美少年べったりで、当分対地球の話に戻って来ないかもしれない。

彼が書く時に優先する基準はなんだろう。
少なくとも「美しいから」ではないだろう。

自分が楽しいから、とか、100%趣味で書いてます、なんて言葉を良くあとがきなんかで目にするから、たぶん基準はそこなんだろうな、とは思うが、時々、アニメ化するのに最適なものを優先しているようにも見えたりするんですが・・。
気のせいか・・。

美少年探偵団 -きみだけに光かがやく暗黒星- ぺてん師と空気男と美少年・屋根裏の美少年 西尾 維新 著



また、同じ夢を見ていた


あなたにとって幸せとはなんですか?

小学校の国語の授業の課題となったこの大命題がこの話の縦の糸。

読み始めた時には、ずいぶんと危なっかしい女の子だなぁ。
見ず知らずの人の家をノックしまくって、たまたま居た人の家に上がり込んだりして。

これまで一度も足を踏み入れたことも無いコンクリートの廃屋へ入って行く時もそうだ。
でもこの少女には嫌な大人、悪い大人の臭いを感じる力がある。
だから何も危なっかしくはなかった。

この奈ノ花という小学生の彼女には「アバズレ」という20代の友達と「おばあちゃん」という友達、「南さん」という女子高校生の友達が居る。

話をする同級生は居ても同級生のことを彼女は友達とは呼ばない。

アバズレさんも出会った時にリストカット中だった南さんにとっても「幸せとは何か」などと考えたことも無かっただろう。

彼女たちにとって幸せとはどういうものなのかを奈ノ花と一緒にいることで思い起こさせる。

それぞれに個性的だが、アバズレさんのキャラが最も光ってるかな。

小学生を「ガキ」と呼びつつも会話だけはキチンと成り立っている南さんもなかなかだ。

高校生からガキ呼ばわれしようが、とっと帰れと言われようが、全部好意的に受け止めてしまう、この奈ノ花という小学生はかなりすごいヤツだ。

人生とは~が口癖で、結構思いつきで放たれるその比喩の箇所だけはとても小学生とは思えない。

この話、ネタをばらしてしまうと、パラレルワールドでもあり、時を超えた出会いでもあり、夢オチでもある。
彼女がその時、未来の自分に出会わって忠告を聞いて無ければ、彼女はリストカットの南さんにもなり、季節を売るアバズレさんにもなっていた。

この本を読んだ読者は少なくとも一度は、自分にとっての幸せとはなんだろう、と思いめぐらすだろう。

夢オチなんて掟破りだろう、と普通なら思ってしまうが、この話だけは絶対にOKだろう。
タイトルからして「また、同じ夢を見ていた」なんだから。

夢の話に決まっている。

また、同じ夢を見ていた   住野 よる著