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永い言い訳


妻に先立たれると、男は何がどこにあるのかさっぱりわからず、てんてこ舞いなどという話はざらにあるので、この本の一部分は身につまされる人も多いことだろうが、この主人公氏、ちょっと行きすぎていた。

売れない作家時代は、まさに髪結いの亭主。
ヒモのような存在として奥さんに食べさせてもらっていた。

ちょっと作品が売れて、テレビのコメンテーターなどにも頻繁に登場するような存在になると、男の方は変わるが、妻の方は何もなかったかのようにこれまで通り。

そんな妻がだんだんとしんどくなっていく男。
妻は妻で売れなかった頃のような愛情はもはや感じていない。

まま、ありがちなことなんだろうな。

妻が突然のバスの転落事故で亡くなってしまう。
遺族となって妻の遺留品を示された彼、どれが妻のものなのか、全く分からない。
それどころか、どんな服を持っていたのか、当日出かける際に顔を合わせたはずなのに、どんな服を着ていたのかさえ、頭の片隅にもない。

それどころか、妻を失った悲しみがこれっぽっちも無い。
かなり性格的にもねじまがった男であることに違いは無い。

そんな台所に立つことになる。
同じバスで転落死した妻の友人の夫から声をかけられ、その子供の面倒を見るようになる。
所詮、ごっこでしかないにだが、男の心はみるみる変わって行く。

その変わりようが面白い。

そして愛していないはずの妻の存在をあらためて見つめなおしていく。

この本、本屋大賞こそ受賞そていないが、本屋さんが薦める本の上位にランキング。

やっぱり本屋さんの薦める本にはずれは無いわなぁ。

永い言い訳 西川 美和 著



コンビニ人間


芥川賞という賞、面白い作品は受賞出来ない決まりがあるのだろう、とばかり思っていたが例外が生まれた。
たぶん初めて芥川賞受賞作を読んで素直に面白い、と思った。

主人公は大学生時代にコンビニでアルバイトをはじめてから就職もせず、働きはじめた店でそのまんま18年間、コンビニのアルバイトを続けている女性。

彼女には自分ではごくごく普通だと思っていることが、世間の普通とちょっとずれてしまうという癖がある。

小さい頃、公園で死んでいる小鳥を見つけた時に、廻りの子供たちはみんな「かわいそう」という中で、一人彼女は「焼いて食べよう」と言い出す。
母から埋葬しましょう、と言われた時も父さん焼き鳥大好きなのに・・・・と彼女。

男子生徒が喧嘩を始めそうになり「誰か止めて」という叫びを聞いた彼女は、今にも喧嘩しそうな男子の頭を掃除用のデッキでぶったたく。
何故、そんなことをしたのか、の問いにはそれが一番手っ取り早く静かにさせる方法だと思ったから。

なんとも考え方がシンプルなのだ。
決して間違っていないし、最も合理的とさえ言えるのだが、世間の常識というフィルムで見た時、彼女はちょっと変わってる、という目で見られてしまう。

静かにさせる手立てが掃除用のデッキで良かったようなもので、もし、そこにナイフがあったら、どうしていたのだろう。
静かにするために一番手っ取り早いだろうと思い、刺しました。
となれば、ちょっと変わったでは済まされなくなる。

合理的でシンプルとはいえ、一歩間違えばそちらの世界に入って行きかねない危うさも合わせ持っている気がする。

彼女は自分は人から普通と見られていないことに気がついてからは人との関わりをなるべく持たずに生きてきたのだが、コンビニでバイトをする時に全てが変わる。

全てマニュアル通りにやっていればいいのだ。
初めて、人間社会で必要とされた。

そんな普通になったかに見えた彼女でも、三十半ば過ぎてもまだ結婚どころか、男付き合いが無い。就職もせずにバイトをしている・・。

学生時代の同年代から見れば、やはり変わっている。

そんな目から解放されるために打って出た策はアッと驚くものだったが、元々合理的な彼女にしてみれば驚くことでもなんでもない。

この本、読み物としての面白さ満載。

人が誰かの話し方を模写して行くことなどの視点も面白い。

何より興味深いのがコンビニというものの中の人間からの視点での描写。
実際に働いている人ならではの視点がいくつも。
著者自身、コンビニでの仕事を辞めたら書けなくなってしまう、というほどのコンビニ人間。

芥川賞、毎回、こういう本が選ばれるようになればいいのになぁ。



殺人者たちの午後


死刑制度の無いイギリスでは、終身刑は最も重たい罪だが、その終身刑すらも無くなろうとしているのが現状。

この本に登場するのは、10人の終身刑の宣告を受けた人たち。
著者が実在の彼らをインタビューしていくノンフィクション。

殺人者たちへのインタビューというから、どれだけすさまじいものかと思いきや、
ごくごく普通の人と普通に会話している。

どの人も殺人を犯す瞬間だけ、何かスイッチが入ってしまったかの如くだ。

殺人者とはいえ、当たり前だが、十人十色、人生を悲観している人もいれば、ものすごい楽観主義の人も居る。
目が合ったヤツとは必ず喧嘩をしてきた男も、何度目かの刑務所で老囚からさとされ、勉学に励み始める。
ロンドンマラソンに出る、と毎日塀の中でランニングし続ける人もいる。

肝心の殺人を語る箇所だが、長年の恨みつらみの結果、犯行に至ったなどというのは一つもない。
結構、その場の成り行きの延長で、計画性もあまりない。
酔っている勢い、もしくは酔っぱらっていて覚えていない、というのも。

まだ獄中の人も居たが、大半は仮釈放と言う形で、保護観察官への定期的な報告をするだけで外の世界で暮らしている。

但し、やはり終身の刑であることには違いない。

20年前にまだ赤子だった自分の息子を殺してしまった男は言う。

「世界中の人間が自分を許しても自分は自分を許せない」と。

殺人者たちの午後 トニー・パーカー著