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スコーレNo.4


宮下奈都さんの初の書下ろし単行本。

本屋大賞を受賞した「羊と鋼の森」とちょっと似ているところもあるかな。

主人公は骨董屋(古道具屋の呼び方の方が合っているか)の長女。

三人姉妹なのだが、幼い頃からずっと妹にコンプレックスを持っている。
妹は自分よりはるかに可愛いのだ、こんな時なら妹はどうするだろうか、とそんな思いのまま大人になっていく女性。

そんな彼女が就職したのは輸入貿易商社。
就職した直後から、系列の靴屋に出向に出されてしまう。

靴の大好きな人たちの中で、一人宙に浮いた存在。

特に敵というわけではないが、彼女が初めて体験する誰も味方が居ない世界。

そんな彼女がフェラガモの靴を履いた時から変貌して行く。
「羊と鋼の森」の調律師がどんどん自信をつけて行くように。

父の店で知らず知らずに養われていた骨董ならぬ物を見る目。

父の店でで知らず知らずに養われていた物を見せる力。

店のディスプレイでその力を発揮し始めてから彼女は変わって行く。

自らは靴を愛していない、と思いつつも誰よりもその良し悪しの目は持っている。

前半はなんでそこまで自分に自信が持てないのかなぁ、というもどかしさばかりが続くが、後半で自分の思うようにやってみるようになってから、話はがぜん面白くなって行く。

いいなぁ。
こういう話。

自信をという宝のお裾分けをもらえそうな気がする一冊だ。

スコーレNo.4 宮下 奈都著



抱く女


桐野夏生って女性だったんだ。

これまで何冊か読んで来て、女性の心理描写に長けた人だとは思いつつも、ナツオと言う名前から勝手に男性だと思い込んでしまっていた。

女性でしかも団塊の世代。

と、なればこの物語の主人公の思いは作者の思いとかなりの部分で被るのだろうか。

この話の時代、高度成長真っ盛りだわ。東京オリンピック後の大阪万博があったり、未来というものに夢を持てる時代だと、皆が哀愁を込めて懐かしい時代、いい時代だったなぁ、ともてはやされる時代じゃなかったか。

それがどうだろう。
この話の登場人物たちの荒んだ生活は。
大学生達は、大学へ行くわけでもなく、雀荘で高レートでの麻雀三昧。

時、あたかも連合赤軍の集団リンチ事件やあさま山荘事件などが起こり、学生運動ももう終焉を迎えようとしている中、革マル派だの中核派だのと同じ学生運動をしていたもの同士が争い、殺し合う。
彼らの敵は権力でも無ければ政府でも無い。

主人公の女性そのものもろくでもない生活を送る一人には違いないが、それにしてもこの話に登場する男たちの女性に対する蔑みはどうなんだ。
これは筆者自身の体験なのだろうか。

主人公の女性は、男たちから公衆便所とあだ名されていることを知り、彼らから遠ざかって行く。

「永遠の青春小説」だとかという謳い文句の本なのだが、こういうのを青春小説というのだろうか。なんともじめじめと暗い。
主人公も周辺の男たちも、ろくなやつが居ない。

別に時代のせいでもないのだろうし、この本が時代を表すとも思ってはいないが、もし、ここに書かれていることがこの時代を著している、というのなら・・・
明るい未来が待っているわけでも無く、高度成長も無いが、平成の世の方がよっぽどいい。

抱く女 桐野 夏生 著



レインツリーの国


「はて、どこかで聞いたことのあるようなタイトル・・・」図書館戦争の連作を読んだ人ならそう思うのではないだろうか。
図書館2作目の「図書館内乱」で登場する話。小牧という図書館員が近所に住んで小さい頃から知っている女の子(今は女子高校生なのだが、耳が不自由)に薦める本、それが「レインツリーの国」という本だ。
「レインツリーの国は障害者を傷つける本だ。それを耳に不自由な女の子に読ませるとは、あまりにひどい」と騒ぎ立てる人が居り、小牧隊員はメディア良化委員会にしょっぴかれてしまうのだが、肝心の薦められた彼女の方は「私には本を読む自由もないのか」と「レインツリーの国」を読む権利を主張する。

その架空の「レインツリーの国」を実在にしてしまったのが、この本。
本編の「図書館内乱」とは並行で書かれていたらしい。

で、その内容。
ある女性がネット上にUPしていた読書感想文。
同じ本を読んで同じ様に影響を受けた主人公の男性が1本のメールを送るところからメールのやり取りが続き、メールではかなり親しい仲に。
やがて会うことになるのだが、その初デートの別れ際に彼女の耳が不自由なことを知る。

耳が不自由ということは人とコミュニケーションを取る上で非常に不利だ。
某サムラゴウチじゃないが、本当は聞こえてるんじゃないの?などと言われることもしばしばで、職場ではあまりいい思いはしていない。

この主人公の青年のなかなかに立派なところは、耳の聞こえない人の気持ちは自分にはわからない、と開き直って付き合っていくところ。
なんでも耳の障害のせいにしてしまう彼女に対して、時には厳しく、そして思いっきり優しく、誰にだってつらい事の一つや二つは抱えているんだ、と教え諭して行く。

この話、障害を乗り越えてのハッピーエンド物語でもなければ、障害者が可愛そう的なお涙頂戴ものでもないところが素晴らしい。

小牧隊員が難聴の娘に薦めたくなるのがうなずける

レインツリーの国  有川 浩 著