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占星術殺人事件


1980年代後半という結構古い作品なのだが、最近になってまた改訂されて文庫化されている。
事件そのものはそれよりさらに昔の40年前。
二・二六事件のあった日が事件の発端。
そんな時代の事件を解決して欲しいと依頼を持ちこまれる話。

放蕩画家でもある資産家の家の主人の異様な手記から話は始まる。
その手記の中に書かれていたのは、この主人、なんと実の娘と妻の連れ子の娘、そして弟の娘、20代の娘合わせて6人を占星術ならぬ星座の情報を元に引き裂き、つまりは殺人をしてその後自分も自殺をこれからしよう、というシロモノ。

ところが、この画家が真っ先に殺害されたのにも関わらず、娘六人の殺害は手記通りに行われ、手記に書いてある通り、日本全国の各地に遺棄され発見される。
この事件が報じられてから40年間、日本全国のにわか探偵にありとあらゆる推理をさせたが、解決に至らなかったという事件だ。

この話、トリックものとしては別にケチをつけるつもりはないが、結構突っ込みどころ満載の筋書き書いておきながら、この作家の自画自賛、自惚れの強さがどうにも好きになれない。

身体を切り取るって臀部なら臀部の一部を切り取るのかとばっかり思っていたら、身体を切断するんじゃないか。
ネタバレ承知で書くと、これで若い女でも充分に出来るだろう、ってどんな神経で書いてるんだ。

桐野夏生の小説に「OUT」というのがあるが、これには死体を切断するのがどれだけ大変な作業なのか、えんえんと書いてある。

桐野夏生はひょっとしたら、この本をかつて読んでそれに反発して書いてたりして・・・。
まぁそれはないか。
風呂場で大人の女性の身体を切断する。
どれだけの血が出るんだ?昭和11年頃なら、風呂の水はそのまま家横のどぶにでも流れてたんじゃないのか。
家脇のどぶが血で一杯になって、隣近所の付き合いの多い時代、それに気がつかないで放置する隣人なんていないのでは?と思ってしまう。

それに犯人が警察官を巻き込むのも計画通り、というよりあれがなければ計画は成り立たないが、うずくまって気分が悪そうな女性を家の中まで連れて帰ることぐらいは誰しもするだろうが、電気を消したからと言って誰でも即男女の関係になれてしまうような計画ってずさんすぎるだろ。
中にはそういう男(警察官)もいるかもしれないが、大抵は、そこで安静にしてなさいね。私はこれで失礼するから。とそそくさと帰ってしまうとは考えないのか。

そんな突っ込みどころは満載であっても、普段は「ああこれはそういう読み物なんだから」で流してしまうところなのだが、この作者の厚かましいところは読者に挑戦状をたたきつけるところ。しかも二度にもわたって。
この作者、江戸川乱歩が大好きで松本清張のような刑事が足を使って捜査をするような作風が世を謳歌しているのがよほど気に入らなかったのだろう。

この一冊が出たことで、世の流れを変えたみたいなことをあとがきで書いている。
戦後のミステリのBEST3の一つだとも思っているようだ。

今回の改訂でだいぶん書き直したらしいが、それならもっと要らないところを削ったらどうなんだ。
事件の真相とは全く無関係な東淀川区の豊里あたりの風景だとか、明治村だとかやたらとその情景を細かく書いているが、後々の伏線にもなっていない。
自分が訪れた所は書かなきゃ損みたいにでも思ってるのだろうか。
なんでもデビュー作だそうで、ならば、若気の至りを少しでも反省するかと思えば真逆なのに驚いた。
原作には無い図解を増やしたというが、20枚の一万円札を21枚にするトリック(これは実際にあった事件らしいが)にしても図解が下手で、21枚になったというのがこの絵からはわかりづらい。

女の人を切断する絵を何枚も何枚も使って説明する必要があるのか。
これは猟奇殺人ですよ。
これだけ突っ込みをいれたくなるのも作者のあとがきのせいだろう。

だまって終わりにすれば良かったのに。
なんとも残念な人だ。

占星術殺人事件   島田荘司著



北の大地から


川が泣いている。

と筆者が嘆く。

北海道の道東と言えば自然たっぷりの地では無かったのか。

くねくねといくつも曲がっていた川を、良かれと思ったのか河川工事で真っ直ぐな川にしてしまった。
すると、周囲の土地の井戸から水が出なくなり、井戸をさらに水が出るところまで掘ったはいいが、作物から得る収入に投資が見合わない。
そしてだんだん、農家も減っていく。

川には毎年、大量のサケが昇っていたのだが、河口のところで一旦堰き止めてしまうようになる。捕獲したサケから卵を取り出し、人工受精し、幼魚にしてから海へ放す。
だから、川を昇るサケの姿は無くなってしまった。

こうして川が一つ一つ人間を見捨て始める。
国がからむ工事は、三陸海岸を覆い尽くそうとする防潮堤ではないが、一旦始まってしまうとなかなか止まらないものらしい。

苦労して苦労して昇って行った先の産卵であり受精だからこそ、産まれ出る新たな命にもその生き物ならではの魂が引き継がれて行くのではないのか。

生命にとってのもっとも神聖な営みを奪ってしまい、放流された次世代のサケ達に上流へという本能、と言うよりむしろ魂は引き継がれているのだろうか。

緑豊かな大地にある日ゴルフ場が建設される。
観光客が増えたと喜ぶのは束の間。

見る見るうちに周囲の土地が枯れ果てて行く。

ゴルフ場というのは一部の芝を守るために毎日毎日大量の除草剤が撒布されるのだそうだ。
その有害剤がどんどん地下に流れ、地下水を汚染し、周囲の土地までも枯らしてしまう。

これは昨日、今日の話ではない。

この本が出版されたのは今から22年も前の話だ。
ようやくお役所も自然回帰に目覚め始めるあたりがこの本の終盤。方向性としてはいいのだろうが、まだまだ著者は懐疑的。

この後の道東がどうなったのか、著者が続きを書いてないか、探してみたが見当たらなかった。

川が泣き、土地も泣き始めた、この頃の道東。その後はどうなったのだろう。
誰か後を引き継いで書いてないかな。



書店ガール


今年の春にAKBの渡辺麻友さん主演でドラマ化されていた作品。
物語は「書店ガール」とその名の通り、ペガサス書房吉祥寺店で働く二人の女性が主人公。
ガールというと幼いイメージがあるが、副店長の理子は40歳。その部下の亜紀は27歳。

理子は5年間のバイトを経て正社員となり、副店長にまで上りつめたキャリアウーマン。
長年交際してきた彼氏がいたものの、知らぬ間に二股をかけられフラれてしまう。
プライベートはボロボロの理子だったが、そんな時、吉祥寺店の店長に抜擢される。
会社始まって以来、初の女性店長ということで責任や重圧がのしかかる。
女性が出世していくのが気に食わないフロア長の存在が、さらに理子の足を引っ張る。
独身女性が仕事一筋でやっていく大変さがリアルだ。

一方、亜紀はその正反対。
親のコネで正社員として入社し、若くて美しい顔立ちを持っている。
書店内で人気のイケメン三田君と付き合ったかと思えば、その後すぐに大手出版社の男性と結婚。
経済的には働く必要は全く無いのだが、「本が好きだから」という情熱を持って働いている。

職場では自由な発想で書店のフェアを盛り上げようとする亜紀だが、なにをしても反感を持つグループができてしまう。
結婚、美しい容姿、正社員。なにもかも持っている亜紀に降りかかる嫉妬の嵐。
女性従業員内でできる派閥や人間関係が怖いのだが、けっこう現実でもあるあるな話なのがこれまた怖い。
女性の作者だからこそ、ここまで具体的に書けるのだろうなと思う。

そんな正反対な境遇の理子と亜紀だが、理子の店長就任後まもなく吉祥寺店が閉店の危機にさらされていると知り、みんなを一致団結させ苦難に立ち向かっていく。
最初がバラバラだった職場だけに、どんどんと改善されていく書店の描写は見ていて気持ち良いほどだ。

理子と亜紀、2つの視点から綴られる様々なエピソードに、働く女性ならどこか1つは共感する部分があるだろう。
なにか落ち込むことがあった時、力をくれる一冊だ。