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海に沈んだ町


三崎さんて、廃墟の作品が多い気がするなぁ。
この本、短編ばかりを集めた一冊。
その短編のいくつかには廃墟がからんでいる。

その廃墟になりゆくものの最たるものが、日本の高度成長期の人気の的だったニュータウン。
一旦「ニュータウン」と名前がついてしまうと、もはや時代に取り残されていようがいまいがいつまででも「ニュータウン」なのだ。
そのニュータウンを政府の保護政策の名のもとに動物を放し飼いにしたサファリーランドのようにして、そこに住む人たちを珍しい生態系かの如くに見物させる話。

これは廃墟ではないが、廃墟よりももっと気持ち悪い。

中に住む人にはその生態系が変わらない様に全盛期の時代のままを維持させねばならず、外の情報は一切入れず、テレビがあったとしてもそのニュータウンの全盛時代の再放送を繰り変えすだけ。
どこぞの一党独裁国家よりも恐ろしいなぁ。

決して朝を迎えることのない町を訪問する「四時八分」。
これはなかなか印象深い。

いくつかある短編の中で最もアイロニーにとんでいるのが、「橋」という話。

市役所の人間が訪れ、家の前の橋が規定の通行量を満たしていないので、もっと幅の狭い橋に作り変えるから賛同してほしい、と言う。

通行量を多くなったから大きなものに、なら賛成反対の前に言わんとすることの意は理解できる。でも、少なくなったからお粗末なものに作り変えるたって金がかかる。
それなのに素直に「うん」と言わない方がおかしい、と思わせるほどにその市役所職員の受け答えは理路整然としている。
なんだろう。このお役所説明の頑なさは。
なんなんだろうこの変な感じは。

またまた不思議な三崎ワールド。短編でも大いに発揮でした。

海に沈んだ町 三崎亜記 著



三匹のおっさんふたたび


これって何かに連載でもしてたのかなぁ?
書きおろしとは思えない連載物感があるなぁ。

一作目がなかなか痛快で期待を超えるものだっただけにその続編となれば、最低一作目は超えてもらわないと・・・。

チビのノリさんあたりのどんな頭脳プレイが発揮されるんだろう、とかなり期待わくわくだったのに・・。

事件と言えば、駐車場のゴミ捨てだったり、深夜の中学生のたむろだったり。
しょぼい。

三匹のおっさん達よりも寧ろその息子の世代にスポットが当たっている。
作者もあとがきでそう書いている。

ならば「三匹のおっさんふたたび」じゃなく、「三匹のおっさんの息子達」とでもしてくれりゃぁそのつもりで読んだだろうに。

とはいえ、終盤で偽三匹のおっさん達が登場するあたりは少し笑える。

剣道師範おっさんの嫁さんの若かりし頃は結構モテモテだったんだ。

てなことで、三匹のおっさんふたたびでした。

三匹のおっさんふたたび 有川浩著



途上なやつら


なんともダメダメ人間の集まり。

小学校5年生の息子を放っポリ出してどっかへ消えて行く母親。
親戚の家と言われてやって来た先には、40歳を超えてまだ無職の男が一人。
70歳を超えて、ろくにお礼の一つも言えない爺さん一人。

そこはまるでシェアハウスのようなのだが、そうではなかった。
そこには誰も逆らえない人が居た。
マツコデラックスばりの体型の女性。
実に何事にもそっけないこの人に誰も口答えは出来ない。
全員、その人の家の居候だ。

大人に向かって平気で「生きてる価値が無い」と言い放つ小学生には少々げんなりさせられるが、実際にいとも容易く詐欺商法に引っかかりそうになる大人をこの小学生は助けたりしている。

この話、ストーリーはともかくもとにかくこのマツコデラックスの個性がひかる。

そっけないが結構ふところが深い。

凄い体型で到底もてそうにないのに、無茶苦茶男にもてたりする。

特に人さまにお勧めするような本でも無いが、暇つぶしには丁度手頃な本だということで紹介しておきます。

途上なやつら まさきとしか 著