天使の柩
日本人の父親とフィリピン人の母親の元生まれた茉莉という少女。
小さい頃から父方の祖母に
「おまえはバイタの娘だ」
「なんて、いやらしい」
などと言う言葉を散々投げかけられて育ったのだった。
自分自身で自分を醜いと思っている。
その祖母の仕打ちに耐えられなくなったのか、母親はとうの昔に逃げ出し、そしてその祖母も亡くなり、父親と二人の生活になるのだが、この父親がこの頃にはもうおかしくなっている。
娘と顔を合わせない。
仕事から帰って来ると茉莉は自ら自室に入り、父は外側から鍵をかけ、中から出られないようにする。
朝、出かける前には鍵を開けてから出て行くので、監禁したいわけではない。顔を合わせたくないのだ。
だから、茉莉が風呂に入っている間は父は自室に籠り自室の鍵を閉める。
たった14歳の少女にどんな試練を負わせるのだろう。この作者は。
そんな生活をしているので同じ屋根の下に住みながら、父と娘は顔を合わすことが無い。
そんな異常な生活を激変させたのが、子猫を虐待する子供達から子猫を守った時に、子供達との間に入ってくれた歩太という自称画家との出会い。
学校にも家にも居場所の無かった彼女はとんでもないわるガキにつかまってしまうのだが、初めて出会ったまともな大人である歩太を脅すという人質を取られて、更なる深みへはまっていきそうになる。
彼女は、自分は醜く、穢れている、というのだが、顔も見せない父親のために毎晩夕食を作り、父親が自殺しないようにと心配し、全くの赤の他人である歩太のために自らの身体まで投げ出そうとする。
まさに天使の心を持った少女ではないだろうか。