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神様のカルテ


信州にある病院での話。

主人公の医者は2時間ばかりの仮眠をとっただけでまるまる二日間働きづめのフラフラ状態。

でようやく家へ帰れたんだから、寝りゃいいものを同じアパートの隣人のすすめにのって飲み始めてしまう。

それでまた睡眠時間を擦り減らして、病院から緊急のお呼びがかかり、またまたフラフラで治療にあたる。

そんな状態で治療にあたって大丈夫なのかいな、と思ってしまうが、どうも大丈夫らしい。

慢性的な医師不足。

研修医だろうが専門外だろうが、医者なら緊急医としてOKなのだ。

地域医療の実態をコミカルなタッチで描いている。

主人公の話す古風な言葉遣いが、その誠実さを強調している。

ご自身、信州の医学部を卒業後、信州で医療を行って来たということなので、かなりの部分は実体験にもとづいたものなのだろう。

大学の医局へ行って最先端の医療を身につけて来い、との友人からの忠告。

果たして最先端の医療とは何なのか?
最先端を使えば、生き永らえさせることは出来るだろう、だが、そこに人間としての尊厳が残っているのかどうなのか。

どんな人にも必ず訪れる死。
その時を迎えるにあたって、その人は幸せだった、と言い切れるのかどうか?

まさに最先端医療というものの首根っこにやいばを突き付けたような作品だ。

神様のカルテ  夏川 草介 著



幸福の王子


ご存じの児童向け図書の名作。
金で覆われた銅像「幸福の王子」が越冬に出遅れたつばめに頼んで、自分の身体をついばんで貧しい人、病気で苦しんでいる人へ届けてもらう、サファイヤの眼をくりぬいて運んでもらい、ルビーの刀の柄を運んでもらい、身体中を覆っている金を運んでもらい、ついには、かつて金ピカだった王子の姿はボロボロになり、破棄され、つばめは疲れ切って死ぬのだg、街には貧しさやひもじさで腹をすかせたり、凍える人はいなくなった・・・・という有名なあの話だ。

この児童書を曽野綾子さんが翻訳したというので、読んでみたくなった。
曽野綾子さんが翻訳したからといって本の内容が特に変わったわけではない。
訳者として一カ所だけ。王子とつばめが神様の元へ召されてかけられる言葉の箇所のみ手を入れたとご本人は書いておられる。

曽野綾子さんいわく、この本は子供向けの本では決してない、と。
字を読める年齢になった子供から、字を読み続けることの出来るすべての老人までを対象にした本なのだ、と。

曽野さんは「作家にこの一冊を書き終えれば死んでもいい」と思える作品があるとすれば、自分がオスカーならこの本を選ぶだろうと言い、もし生涯で一冊だけしか本を読めないとしたら、どんな大作よりもこの本を選ぶのだという。

何をしてそこまでのことを曽野さんに言わしめたのか。

つい先日も衆議院選挙があったばかりだが、立候補者の中には平和や愛の達成を口先で声高に叫ぶ人は多い。平和は平和を叫ぶだけでは達成しない。

その平和や愛の達成には、それなりの対価を伴う。

この王子はその対価として目を差しだし、やがては命さえ差し出す。
つばめにしてもしかり。

平和や愛の達成のために自身が盲目になることも厭わず、命さえ差し出してしまう。

その行為の尊さに曽野さんは胸をうたれたのだろう。

幸福の王子 オスカー・ワイルド著 曽野綾子訳



レジェンド


自由の国アメリカの近未来がまるで中国のような情報統制独裁国家に!

全ての子供達は10才になると「審査」と呼ばれる試験を受けなければならない。
1500点満点のその審査で、1400点以上の高得点を取れば高級官僚でへの道が約束される。
合格ライン1000点を取らなければ、強制収容所送りになり、1000点から少し上だったとしても、それはかろうじて収容所送りにならなかっただけで世の下層階級で生き続けなければならない。

そんな試験で史上初の1500満点中1500点を獲ったのがジェーンという女の子。
飛び級で15才にして最高学府の勉学も終えてしまっている。

方や、その「審査」で落第した後、親からも死んだと思われるデイという少年。

賞金付きの指名手配中でありながら、軍事施設への攻撃やらの政府機関に対する強盗や襲撃を繰り返す。
行動は過激だが、決して死者は出さない。
計算されつくしている。あまりに華麗にやり遂げるため、逮捕は無理だろうと思われている。
エリート中のエリートのジェーンが、反乱分子のディを追う立場となって・・・。

「政府は国民の味方だ」と信じて来たエリートにとって、政府が群衆を取り囲んで銃撃する光景はどのように映ったことだろう。

作者のマリー・ルーは、天安門事件の時にはまだ若干5歳であったが、目の前で繰り広げられる惨劇ははっきりと目に焼き付いていると語っている。

民衆に銃を向ける国家とそれと闘う若者。

ありふれた設定かもしれないが、天安門事件を見て来た人が書いていると思うとそれなりの感慨がある。
ジューンとデイが交互に語り部となってテンポの良いこの本、なかなかに面白く一気に読みおおせること必至である。

レジェンド マリー・ルー著 三辺律子訳