終の筈の住処


短編だったけれど、住処とは何だろうと考えさせられた作品。

ざっとあらすじ。
今まで実家暮らしの二人が、結婚していきなり終の住処になるかもしれない我が家を手に入れます。
新しく開発された地区のまっさらなマンションでの生活。
でも何だか変な感じ。
夜にランニングに出かけ、ふとマンションの方を振り返ると、
巨大なマンションに灯る明かりは一つだけ。自分たちの部屋だけなのです。
他の部屋からの物音も無く、何度お隣さんのインターホンを鳴らしても出てきません。

こんな不気味な感じで始まるお話。
マンションと地元の間の確執や、怪しいマンション管理会社も登場します。

どんな結末が待っているのかと思いきや、特にすっきりする結末があるわけではなく、読み終わった後に残るのは消化不良の気持ち悪さ。

なんだろうこの気持ち悪さは。
作者は一体何が言いたかったのか。
若いうちにうっかり大きな買い物しちゃうと失敗しますよ、とか、
住処っていろいろあるから決める前にしっかり調べなきゃだめよ、とかそういうことなのか。
もしくは、意外とよくあるかもしれない世の中事情をミステリーテイストで書いてみたのか。

そんなこんなでちっともすっきりしないので、住処ってそもそもなんだろうと考えてみました。
勝手なイメージですが、「家」という言葉からは「住んでいる箱」をイメージします。
「住処」という言葉からは「根を生やしている場所」をイメージします。

若い二人が成り行きで選んだ住処からは「ただの箱」くらいの重さしか感じられないのに、そこはうっかり「終の住処」になろうとしている。この不釣合いの状況に気持ち悪さを感じたのかもしれません。

おそらく主人公には終の住処と言い切る自信が無いから、題名に「筈」とついているのでしょう。

いつか住むであろう終の住処。
自分の根を生やしたいと思える場所であって欲しいと願ったのでした。

新潮文庫 yomyom  「終の筈の住処」三崎亜記 著