幻庵(上)(下)
百田尚樹氏の熱烈なファンだったとしても、囲碁の経験が全く無かった場合、その方々はこの本を楽しめただろうか。
この本、江戸時代のプロの碁打ちの物語で、結構史実に忠実に書かれているように思えるので、どこからが百田氏の創作なのかは良くわからない。
たぶん、囲碁の専門用語について来れなくなった読者は上巻で脱落するだろう。
だが、この本は下巻からが、俄然おもしろくなっていく。
幻庵と名乗る前の井上因碩(いんせき)と本因坊丈和(じょうわ)との凄まじい戦い。
井上因碩は孫子の兵法を用いて、策を弄しすぎたために後に後悔する。
それにしても囲碁の戦いを文章で綴ることはかなり至難の業だろう。
読んでいるこちらも棋譜を見せて欲しくなる。
棋譜はポイントポイントで登場するのだが、打ち掛けとなったその一手のみ、もしくは、これが改心の一手と言われる一手のみにマークをつけられてもなぁ。
棋譜に①から順に全ての順を書いてくれとは言わないが、その直前の数手ぐらい記してもらわないと、その一手の凄味がアマチュア碁しか知らない人間には、なかなか伝わりづらい。
この本を書くにあたっては、百田氏、囲碁そのものや囲碁の古文献も調べまくっただろうし、現役のプロ棋士にもさんざん話を聞きに行ったことだろう。
ただ、その努力が万人に受け入れられたのかどうかは、疑わしい。
江戸時代の命がけの囲碁であったとしても、その一部の棋譜から面白さを感じ取れるのは、アマチュアでもかなり上段者じゃないんだろうか。
まぁ、別の読み方みあっただろうけど。