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朝鮮半島201Z年


朝鮮半島の近未来史、と言われればまず、北のことだろうと考えてしまう。
「半島を出でよ」みたいな本なのかと思いきや、そうでは無かった。
北よりも寧ろ南の方が主人公なのだ。

2010年11月出版のこの本、著者は、普天間基地移設先に伴う大失策や、例の尖閣の問題という直近の話まで書き込んでいるので、この近未来は2010年10月~せいぜい2015年ぐらいまで、というほん目の前のことを描こうというかなり勇気の要る試みを行っている。

201X年、仁川(インチョン)国際空港の沖に北の潜水艦が出現し、交戦状態となった結果、誤射によって中国貨物機が墜落するという事件が発生。

米軍は介入しないまま、中国は事故調査の名目で仁川沖にどうどうと海軍を繰り出し、海洋調査もたっぷりと行う。

北と交戦が起きるような仁川という立地の安全性が問題となり、中国は仁川から全面撤退。各国の航空会社も仁川から撤退し、空港は閉鎖状態となってしまう。

それに伴って、韓国通貨が売られ、通貨危機へと向かって行く。
それでも韓国は1997年通貨危機の苦い経験より、IMFへの依頼を行おうとしない。
では、アメリカが助けるか、と言うと、まずはIMFへ頼めよ、という姿勢。
日本もアメリカを見習って静観。

そうこうしているうちに輸入と輸出に頼る韓国の外貨はどんどん目減りし、自国通貨は下げ止まらず、本格的な危機に陥ろうと言う時に救いの手を差し伸べたのが中国。

中国の政府系ファンドが888億ドルもの巨額資金を韓国に投資。
下落していた韓国の株式市場の優良銘柄の株を最安値で買いに入り、優良企業の軒並み大株主となる。

識者は「韓国を丸ごと安値で買ったようなもの」と眉をひそめ、そのあたりから韓国内の親米派は影が薄くなり、親中派が韓国の大勢を占めるようになり・・・。
そして、201Y年、201Z年・・へと。

というような出だしなのだが、一番最初の北からのちょっかいと似たような、いやもっと過激なことが昨年秋2010年11月に実際に起きた。

北朝鮮によるいきなりの延坪島(ヨンピョン)への砲撃事件である。

ここも仁川からさほど遠いわけでは無い。

しかしその近未来の初っぱなは、小説とは違った。

すわ、戦争勃発か、と思わせるような事件だっただけに尚のことであろうが、実際の李明博大統領は、この小説の朴大統領よりはかなりクレバーな人だった。
小説の中の大統領はこの北の潜水艦の存在を無かったことにしようとしたが、李明博氏は、断固とした対応を取ることを発表し、国防のTOPを軍生え抜きの強硬派と言われる強気な軍人を据えることで、その意気を示した。
米軍も放置するどころか、大規模な米韓合同軍事演習を実施したのだ。

この初動の違い、まさかアメリカのTOPがこの201Z年を読んで、放置しては大変だ、などとと思ったわけではないだろう。

韓国も米国も双方の重要性を充分に認識しているのだろう。

仮に韓国に再度通貨危機が訪れたとしてもアメリカも日本も見て見ぬふりなどはしないだろう。

巻末の著者略歴を見るとは著者は日本経済新聞の記者として87年~92年までソウル特派員として勤務している。
なるほど、その頃であれば、韓国はまだまだ日本に対する対抗心むき出しの反日感情が大勢だったかもしれない。

ところが最近はどうか。
もう反日感情を持って日本を妬むなどと言うレベルはとうに超えてしまったのではないだろうか。
辛坊治郎が言っていたのだったか、日本経済新聞の記事だったか、いや、もはやどこでも言っているか。
・AEJ(Asia Except Japan):日本を除くアジア は急成長している云々。
・NDC(New Declining Country)新衰退国、とアジア各国から呼ばれる日本。
そんな日本を横目に自動車、家電という日本のお家芸はもとより、従来のお家芸の造船、鉄鋼・・すべからく日本は抜かれただけでなく、容易に縮まらないほどに大きく水を開けられている。
韓国は今や、はるか上から日本を見ていて、もはや反日でもないだろう。

それにこの3.11の巨大震災だ。
これがまたこの小説の近未来を大きく変えただろう。

日本は必ずや立ち直るだろうが、立ち直るまでの間に日本がこれまで維持していた世界の中のシェアですら、供給が追い付かない以上は、必ずどこかが持って行くだろうから、そこからの復活戦となるのだろう。

それにしても気になるのはこの著者は、87年~92年までソウル特派員だった経験からだけでこの本を書いているのではなく、現役の日本経済新聞の編集委員だ、ということである。
現役の編集委員の方であれば、かなり現実的に起こり得るものでなければ書かないだろう。

著者はあとがきで「予想したり、希望した未来ではない」としながらも
「ファクトを踏まえた上での思考実験」だと記し、
「なぜ、その未来が起こり得るのか」を読んで欲しいと記している。

延坪島の砲撃では初手からして方向は違ったものの、そうなる(この小説の世界となる)可能性はまだまだ残っているということなのだろうか。

確かに中国人はもはや民主化を望んでいないのではないか、という著者の考えはうなずけるものがある。

与野党でのねじれ国会で何ひとつ進まない日本を横目に見れば、そんな議会制民主主義よりも一党支配で素早く一手一手を打てる政治体制もまんざらではない思いもあるだろう。
ただし、成長している限りにおいては、という前提が付くが。

しかしこの著者、現役の方にしてはちょっと日本の各新聞の扱い方もかなり極端のような・・。
朝日と思われる新聞が登場するが、数十年前ならともかく今やさほどに左傾化はしていないだろうし、サンケイではないかと思われる新聞にしても核を保有した北にいきなり攻撃をしかけろーなどと言うほどに短絡的な新聞ではない。

そこは小説として大目に見ても、いくら半島が中国という大国を背景にしていたにしろ、誇り高い現在の韓国の人々がさほど容易く従中思考になるとはかなり考えづらい。
例え経済的に中国に頼ったとしてもこの小説にあるように精神的に従中べったりはちょっと考えづらい。
寧ろ、あの史上稀にみる奇態な政権を担いでしまった日本の方が従中べったりに陥る可能性があるのではないだろうか。
この韓国クライシスのシュミレーションは寧ろ日本を向くかもしれないのだ。
原発事故による海洋汚染調査の名目で中国海軍が日本領海へ出没する可能性は充分に有り得る。

とはいえ、日本は今や誰が奇態だとか、どの国が奇態だとか、それどころではもちろんないのではあるが・・。

それにしてもいくら支援の手を差し出したしたからと言って、福島原発事故初日に海水が汚染されると塩が汚染される、とばかりに塩を買い占めに走ったり、それまで高級食材ろして有り難がっていた何の関係もない日本海産のナマコを輸入停止にしたり、他の魚介類もしかりか。
・・と。そんな国に従属されることだけはなんとしてもご免蒙りたいものである。

朝鮮半島201Z年 鈴置高史 著



世界がぼくを笑っても


主人公君、母親は幼い時に家を飛び出すは、父親はギャンプル好きだわ。
父の友人で家へ訪れてくるにはニューハーフだわ・・・と、結構タフな育ち方をした中学生。

その主人公君の中2からの担任になったのがとんでもないダメダメ教師。

赴任挨拶で緊張して卒倒してしまったり。

カンナオト君みたいに手元の原稿を棒読みするだけの授業。

社会見学では引率が自ら道に迷って、生徒や他の先生をさんざん待たせたり・・・。

この中学生たち、このダメダメ教師に、「全くもう」と愛想をつかしながらもなんだか優しく扱ってあげている。

学校の裏サイトならぬ教室の裏サイトなんかがあったりして、
キティちゃんのハンカチを持つってどうよ、とかいろいろとけなされてはいるが、突き放してはいない。

そりゃまぁ、いつの時代にも教師に不向きな人間が誤って教師になってしまうなんてことはあるだろう。

メディアでは現場の教師はこんなに苦労している・・だのって良く取り上げられたりしているが、まぁそういうケースもあるんだろうけど、現場の生徒だってダメ教師に苦労させられたりしている例もかなりあんじゃないのかなぁ。

ひと昔なんかは、学校を何かの集会の場か何かと勘違いしているような教師で一杯だった頃もある。

数学の授業の時間に授業そっちのけで

「沖縄には核が来ているんだ!」

「みんな黙っていていいのか」

いったいどうしろと。

あんたたちやあんたたちの先輩たちみたいにゲバ棒持って暴れろとでも扇動しているのか。
それでいて公立高校への内申書という切り札を握っているのをいいことに、自分に擦り寄って来る生徒には点数を甘くしてやったりと、やりたい放題もいいところ。

ホントにひどい教師で一杯の時代もあったことを思うと案外、オズチャン(このダメダメ教師)ってダメなりに良くやっている方じゃないのかな。

面白いのはダメ教師が担任で何カ月かすると、そのダメダメぶりが生徒にうつってしまう、というあたり。

それによって、すごいことにクラス全体が学校中の他のクラスから苛められるって・・。そんなことって・・・まぁ考えづらいけどあるところにはあるのかもね。
それだけクラスという単位ってまとまっている姿を想像したことが無かったものだから。
クラスの連中の名前は全部覚えられなくても部活の連中の名前を知らないなんてことはないだろう。
部員が100人も居たら別だけど。

クラブの連帯感の方がはるかに強いものとばっかり思っている人間にはクラスの中の連帯感って実感が湧かないなあ。

それだけここでは帰宅部が多いというところか。

あと、クラスへ出て来ない生徒向けに別室登校が有ったりするのも面白い。

そんなダメダメ教師でもなかなかいいところもあったりして。
初日から全員の名前を覚えて来たなんていうのは努力の賜物。

圧巻はダメな教師でも生徒がを育てて行けばいいんだ、という物凄い達観。

うーん!これはすごい。

これがホントウの話を元に書いていたんだとしたら・・・な、わけないけど、なかなかにして今どきの中学生、捨てたもんじゃない。



ブルー・ゴールド


やっぱり商社マンという職業はダイナミックだ。

かつて空港までのモノレールを動かしたのも商社マン。海を埋め立ててナントカアイランドを作ったのも商社マンが居てこそ。
海外の数々のプラント受注だって商社マンなしには話も始まらない。

先日、大学生による人気企業ランキングが日経の第二部に載っていたが、上位は損保に生保に銀行ばかりで、第二列目からようやく商社や家電などが登場したように記憶している。

損保、生保、銀行が人気なのは例年通りだが、商社のようなダイナミックさはなかなか求められないのではないだろうか。

この本、水資源というものに目をつけた作品。
ブルー・ゴールドというタイトルは水資源こそが金脈だ!という意なのだろう。

主人公氏は大手商社から一転、超零細のコンサル会社へ出向。
海外でのプラント受注の失敗、しかも上司の失敗の詰め腹を切らされた格好。

ところがその零細コンサル会社の社長、とんでもないやり手だった。
この零細コンサルの社長も5年前まではその大手商社の社員だった。
大手商社の看板を背負って仕事をするのと名も無いコンサル屋の名刺での勝負では、圧倒的に名の知れた企業の方に歩がある。
特に初対面の相手などであれば尚更だろう。
その社長はその不利な面を大手看板ではなかなか出来ない有利な面に変えてしまう。

水ビジネスに目をつけて、地下に水資源を持つワインメーカーを強引に買収する。

この本、このやり手社長のやり方といい、ハッキングなんか当たり前の如くで情報収集能力に長けた変わったパソコンオタク社員といい、話のテンポといい、なかなかに楽しくは読ませてもらったのだが・・・。

この地球で人類が利用できる淡水は、そのわずか1%なのだとか。
10億を超える人々が、この瞬間も飲み水にさえ困っているのだとか。
世界の企業が水をめぐる争奪戦を繰り広げる、・・・。

という類の言葉が本の帯には書かれているので、実はもっともっと世界規模でのダイナミックな話に展開するのではないかと、かなり期待を寄せながら読んだのだが、規模的には長野県の中央アルプス付近からは広がらずだったところ。
見えない敵を相手にするあたりもかなり期待を膨らませてわくわくしながら読んだのだが、グローバルな敵が暗躍しているものと思いきや、私怨がらみがオチだったって、それはさすがにちょっと・・・と、若干残念なところがあるのは拭えないが、それでもまぁ、軽い読み物としては最高の部類だ。
そう。ダイナミック系かと思いきや軽い読み物系になってしまったわけだ。

この本、2010年9月が初版。その前に週刊誌で連載をしていたのだという。

ちょうど、テレビのニュース特集番組のようなもので日本の地方の水脈のある場所を外国資本が買い漁っているのではないか・・などという話題が出はじめたのはその頃ではないだろうか。

今では結構、頻繁にそういう話題が持ち出されている。

案外、この本の存在が影響していたりして。

そういう意味ではなかなかに意義のある、決して「軽い読み物系」などと粗略に扱ってはならない本のようにも思えて来るのである。

ブルー・ゴールド 真保裕一 著