カテゴリー: サ行



だれも知らない小さな国


これか。
半世紀以上前に書かれたコロボックルの話。

こっちの主人公の方がコロボックルと距離感が近いが、そうなるまではコロボックルはかなり用心深い。
主人公が小学生の頃から、味方になれる人かどうかの観察を続けて、大人になってもその小山を大事に守ろうとする人だとわかって初めて正体を表す。

有川浩の書いたコロボックルがまだ小学生の主人公にいきなり正体を表してしまうのよりかなり慎重だ。

男の名前には「ヒコ」女の名前には「ヒメ」が必ずつくのは同じ。

ここの地方では古くから「小法師さま」(こぼしさま)と呼ばれている。

大国主の命の時代のスクナヒコが祖先というのもいいですねぇ。
古事記の時代から、人間と共存して来たという話づくり、なかなかにいいですね。

その「こぼしさま」すなわちコロボックルの住む山に危機が訪れる。

高速道路の計画地になって、いよいよ全員が引っ越しを覚悟せねば、となってからの対抗措置がすごい。

地主たち、役人たちの寝ざめの枕元でのささやき作戦。

これって彼らの土地を守る作戦なのでやむを得ないのでしょうが、なんだか人を洗脳していく作戦のようで、ちょっと実はちょっと怖いやり方なんじゃないのかなぁ。

高速道路のために土地を売る事を「仕方ない」と思っていた人の枕元でささやき続けることで、だんだんと「反対しなきゃ」と皆が心変わりして行く。

コロボックルは超高速移動が出来るので人の目には映らない。

平成の今ならかなりいろんなところに監視カメラがあるので、彼らがどれだけ、高速移動できようが、再生を超スローで行えば、その存在は発覚してしまうだろうが、この時代なら大丈夫だ。

人の目には映らない隠密作戦が出来てしまうわけで、どんな機密情報も仕入れようと思えば仕入れられてしまうし、その上、ささやき作戦などで洗脳まで出来てしまうなら、もはや最強じゃないか。

なーんてことを考えることそのものが、この物語や有川浩の物語に登場する主人公たちのような純粋さをもはや持って無いってことなんだろうな。

目の前にコロボックルが現われるなんてことは一生無いんだろう。

だれも知らない小さな国    佐藤 さとる著



占星術殺人事件


1980年代後半という結構古い作品なのだが、最近になってまた改訂されて文庫化されている。
事件そのものはそれよりさらに昔の40年前。
二・二六事件のあった日が事件の発端。
そんな時代の事件を解決して欲しいと依頼を持ちこまれる話。

放蕩画家でもある資産家の家の主人の異様な手記から話は始まる。
その手記の中に書かれていたのは、この主人、なんと実の娘と妻の連れ子の娘、そして弟の娘、20代の娘合わせて6人を占星術ならぬ星座の情報を元に引き裂き、つまりは殺人をしてその後自分も自殺をこれからしよう、というシロモノ。

ところが、この画家が真っ先に殺害されたのにも関わらず、娘六人の殺害は手記通りに行われ、手記に書いてある通り、日本全国の各地に遺棄され発見される。
この事件が報じられてから40年間、日本全国のにわか探偵にありとあらゆる推理をさせたが、解決に至らなかったという事件だ。

この話、トリックものとしては別にケチをつけるつもりはないが、結構突っ込みどころ満載の筋書き書いておきながら、この作家の自画自賛、自惚れの強さがどうにも好きになれない。

身体を切り取るって臀部なら臀部の一部を切り取るのかとばっかり思っていたら、身体を切断するんじゃないか。
ネタバレ承知で書くと、これで若い女でも充分に出来るだろう、ってどんな神経で書いてるんだ。

桐野夏生の小説に「OUT」というのがあるが、これには死体を切断するのがどれだけ大変な作業なのか、えんえんと書いてある。

桐野夏生はひょっとしたら、この本をかつて読んでそれに反発して書いてたりして・・・。
まぁそれはないか。
風呂場で大人の女性の身体を切断する。
どれだけの血が出るんだ?昭和11年頃なら、風呂の水はそのまま家横のどぶにでも流れてたんじゃないのか。
家脇のどぶが血で一杯になって、隣近所の付き合いの多い時代、それに気がつかないで放置する隣人なんていないのでは?と思ってしまう。

それに犯人が警察官を巻き込むのも計画通り、というよりあれがなければ計画は成り立たないが、うずくまって気分が悪そうな女性を家の中まで連れて帰ることぐらいは誰しもするだろうが、電気を消したからと言って誰でも即男女の関係になれてしまうような計画ってずさんすぎるだろ。
中にはそういう男(警察官)もいるかもしれないが、大抵は、そこで安静にしてなさいね。私はこれで失礼するから。とそそくさと帰ってしまうとは考えないのか。

そんな突っ込みどころは満載であっても、普段は「ああこれはそういう読み物なんだから」で流してしまうところなのだが、この作者の厚かましいところは読者に挑戦状をたたきつけるところ。しかも二度にもわたって。
この作者、江戸川乱歩が大好きで松本清張のような刑事が足を使って捜査をするような作風が世を謳歌しているのがよほど気に入らなかったのだろう。

この一冊が出たことで、世の流れを変えたみたいなことをあとがきで書いている。
戦後のミステリのBEST3の一つだとも思っているようだ。

今回の改訂でだいぶん書き直したらしいが、それならもっと要らないところを削ったらどうなんだ。
事件の真相とは全く無関係な東淀川区の豊里あたりの風景だとか、明治村だとかやたらとその情景を細かく書いているが、後々の伏線にもなっていない。
自分が訪れた所は書かなきゃ損みたいにでも思ってるのだろうか。
なんでもデビュー作だそうで、ならば、若気の至りを少しでも反省するかと思えば真逆なのに驚いた。
原作には無い図解を増やしたというが、20枚の一万円札を21枚にするトリック(これは実際にあった事件らしいが)にしても図解が下手で、21枚になったというのがこの絵からはわかりづらい。

女の人を切断する絵を何枚も何枚も使って説明する必要があるのか。
これは猟奇殺人ですよ。
これだけ突っ込みをいれたくなるのも作者のあとがきのせいだろう。

だまって終わりにすれば良かったのに。
なんとも残念な人だ。

占星術殺人事件   島田荘司著



仮面同窓会


怖い話だなぁ。
何が怖いって、かつての同級生が信じられないこの姿が怖い。

高校生時代の熱血体育教師、いや熱血を通り越して独裁者のように振る舞う体育教師。
その体育教師からの仕打ちを卒業して7年にもなって社会人になってもまだトラウマのように引きずる男。
自分の高校時代を振り返ってみてもちょっと想像出来ないが、世の名広いので、そんな学校もあるのかもしれないし、そんな卒業生もいるのかもしれない。
卒業式の日に一番嫌いな教師を池に放り込む儀式がある、などと我々の頃も言われてはいたが、実は誰も本気にはしていなかった。

それが、卒業して7年たっての同窓会の後で、その復讐をしようと四人のかつての同級生達が話合うのだから尋常じゃない。

定年退職してランニングを欠かさないその元体育教師を拉致して怖い思いをさせてやろう、などといっぱしの社会人が四人も揃って計画してしまう。

そして実際に拉致して目隠しをして、手足をガムテープで縛った上で誰もいない工場跡まで運んでから、水をぶっかけたり、電気ショックを与えたり、といたぶった後に放置して帰る。

ところが翌日になって、その元体育教師の死体がだいぶ離れた所にある池から見つかる。
いたぶった現場ならまだしも、かなり離れた場所で。
ガムテープは一時間ももがけば取れたはず。
自力でテープから逃れたにしても、そんなことがあった後で、そこからかなり離れた場所までランニングを続けるか?

世間では暴走族の仕業だろう、とか、赴任していた各校の生徒から恨まれていただろうから、誰かに池に落とされたんだろうとか、うわさは飛び交うが、この四人だけは、ガムテープでぐるぐる巻きにしたという事実を知っている。

この四人がそれぞれ疑心暗鬼になって行く。
真犯人はこの四人の中の誰かでしか有り得ないだろう、というのが四人の共通認識。
主人公の男も他の三人から疑われているが、主人公氏はあいつとあいつが舞い戻ってやったに違いない、と思い。
過去の別の事件のことを聞くと、今度はあの二人じゃない、もう一人が犯人だと思って疑わない。

この話、ミステリー、ミステリーと呼ばれ、そういうジャンルに入っているが、ミステリーよりも寧ろこのあたりの心の揺れ方、というか、四人のそれぞれの思い込みの応酬、これが一番作者が読ませたかったところなんだろうなぁ。
小中高と同級でつるんでいた中でこれだけ疑心暗鬼になれる仲。
殺人事件よりもそっちの方が怖いわ。

おそらく四人以外の誰かが登場するんだろうとは思っていたが・・・。

エンディングの内容はもちろん書かないが、エンディングはちょっといただけないかな。

仮面同窓会 雫井脩介 著