カテゴリー: ア行



君にしか聞こえない


なんとも独特の世界。

人と話すことが苦手な女子高生。

クラスメイトはいるが、気軽に話しかける相手は一人も居ない。

同じクラスの皆が携帯電話を持っている中、彼女一人だけは持っていない。

携帯を持ったとしても、掛ける相手がいないのだ。

でも、いつかは携帯電話を持ってみたい。携帯電話で誰かと話をしたい。
と思ううちに、頭の中ではいつも携帯電話を持った自分を想像する。

毎日毎日頭の中での想像の携帯電話を持ち歩いていると、腕時計を忘れたことにも気が付かない。
頭の中の携帯の時計を見ているのだ。

そんなことが続くある日、頭の中のイメージのはずの携帯電話が鳴り始める。
人と携帯電話で話をする。
妄想だろうと思ってしまうのだが、現実に存在する男の人だった。

彼もまた、現実界では孤独な人。
そんな彼とほぼ頻繁に電話をするようになるが、はた目から見れば頭の中で話しているので、単に黙っているだけに見えてしまう。
だからテストの最中に問題を読んで協力してもらうことも出来てしまう。

その彼と実際に会おうということになり、悲劇が起きるのだが、その時の彼の優しさ、彼女の優しさ。

そしてもう一人、脳内電話で知り合った年上の女性の温かさ。

荒唐無稽な話のはずなのに、何かじーんと来るものがある。

他に「傷」という話と「華歌」という話の計三篇。

怪我をしている人とすれ違いざまにその人の身体に触れることでその怪我を引き受けてしまう他人の傷を自分に移動させることの出来る少年。おかげでその少年の身体は傷だらけ。というの話と、入院している病院の庭に咲いていた歌をうたう花。
花の中には少女の顔が・・・。という話が二篇。。

周囲の人と接することが極端に苦手なのだが、誰よりも心は美しい、この作者はそんな人を登場させることが多いようだ。

君にしか聞こえない 乙一著dth=



日本軍はこんなに強かった


日本軍は確かに強かったんでしょう。

だからこそアメリカを本気にさせてしまった。

この本、まず真珠湾から始まる。

真珠湾攻撃はゼロ戦の脅威的な航続距離が可能にしたわけだが、いくつもの本に書かれている通り、これを勝ち戦として絶賛するのは当時の日本と同じじゃないだろうか。
叩くなら戦艦だけじゃなく空母を見つけ出して徹底的に叩いてしまわないと。
ただ、そうしたところで敗戦が少し遅くなるぐらいのことだろうが・・。

いずれにせよ、真珠湾攻撃がアメリカを本気にさせてしまったことだけは確かだろう。
真珠湾さえなければ、アメリカがあれだけ徹底的に日本を叩くことも、戦後徹底的に骨抜きにしようとすることも無かったかもしれない。

山下奉文将軍のマレーの虎や、マレー沖海戦と勝ち戦の話が続くが、いずれも序盤戦。
序盤、強かったことは、誰しも知っている。特に秘録でもなんでもない。

この本、負け戦に対する分析が無さすぎて、どの局面でも強かった日本軍、勇敢で優秀な日本兵の記述一辺倒。

井上さんにこれを書かせた背景には、戦後あまりに戦時中の日本軍が貶められているので、それに反駁する気持ちからなのは良くわかるが、これだけ勝ち戦の箇所ばかりを強調して書かれると、まるで大本営発表?との誹りを受けてしまいかねない。

ラバウル航空隊の時代には数多の歴戦のエースパイロットが揃っていたのだろう。
その個人成績を並べる記述よりも、百田さんの「永遠の0」の方がしっくりくる。

序盤戦、エースパイロットが揃っていたにもかかわらず、どんどんその数は減って行き、アメリカの方は、どんどん熟練パイロットが育って行く。

個々の兵は確かに勇猛果敢で優秀だったかもしれない。
でも片道燃料で出撃させる指揮官は優秀と言えるのか。

果ては、特攻隊の成果を褒め称え、人間魚雷に至っても褒め称える。

日本軍は序盤は強かったかもしれないが、兵の命の重みを軽んじすぎたんじゃないのか。

この本の貴重な点は、体験談の大半は、生前ご健全であられた時にに残された文章を拾っているが、まだご存命の方が残っている間にこれだけ生の取材を試み、言葉を残している点についてだろう。
もう何年かしたら、こんな言葉はもう拾えない。

日本軍はこんなに強かった! 大東亜戦争秘録 井上和彦 著



近代オリンピックのヒーローとヒロイン


オリンピックの創始者 クーベルタン、日本の初代IOC委員 嘉納治五郎からはじまって金栗四三、人見絹枝、西竹一、前畑秀子、フジヤマのトビウオこと古橋廣之進らの名前が並ぶ。
名前を聞いたことがある選手もたまにはいるが初めて見る名前の方が多い。

戦前のオリンピック選手というのは、なんとも心意気が凄い。
今の様に飛行機で海外へ行ける時代じゃない。
船旅、列車旅で練習や体調管理どころじゃない。

人見絹枝というひとなどは、短距離でメダルを期待されるが、決勝進出が適わなかった。
負けたままでは生きて日本へ帰れない、と初めてトライする800メートル走に急遽エントリー。
そしてなんと銀メダルを取って帰国する。

戦後も女子バレーボールの「東洋の魔女」を育てた大松監督、男子バレーボールの監督、最後は北島康介などが紹介される。

この本の各章立てのタイトルになるような選手たちは、名前さえピックアップされれば、今のご時世、その生い立ちやら成績など活躍ぶりは、検索などで容易に集める事が出来る。

この本は、そういうざらにある話ではない、エピソードをどれだけ集められるかなのだが、もはや存命で無い人も多い。
筆者が取材して廻ってのエピソードというより、当時の新聞やら本人談などを集めて作られたものが大半だろう。

エピソードと言う意味では、各章と章の間にあるコラムの方がよほどエピソードらしい。

あの映画「ターザン」の主人公が実は金メダリストだったとか。

裏方さんである選手村の理髪師の話や料理責任者の話などは、なかなか見つけることが出来ない。

それにしてもまぁ、どんな手段であれ、良くこれだけオリンピックにまつわる話を集めたもんだ。


近代オリンピックのヒーローとヒロイン 池井 優 著