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電通の深層


ちった想像しないわけでは無かったが、電通いう会社、ここまで巨大権力を握っていたのか。

良くドラマなんかでも警視総監のツルの一声で追及にストップがかかったり、大物政治家が絡んでいるから、もみ消しにあったり、と言うパターンはヤマほど出てくるが、「電通が絡んでいるから、これ以上追いかけられない」なんてストーリーにお目にかかったことが無い。

考えてみれば当たり前。
テレビでドラマが放映されるような時間帯の大半は電通が買い取っている。

メジャーな週刊誌や出版社で電通のお世話になっていないところを探す方が難しい。

広告業界は一位が電通で二位も三位もいない。かろうじて五位か六位に博報堂が存在する。
同じ業種の一位メーカーの広告も電通。ライバルであるメーカーの広告も電通。三位も四位も電通。
海外では考えられないような事がまかり通っている。

その超大手の電通で起こった新入女子社員の過労死事件。
これを機に電通の暗部が表に出て来る。

今、政府が打ち出している働き方改革なる政策、あの事件が発端かもしれないほどに、インパクトの大きいものだった。

と、まずは今の状況が記された後に、著者がかつて著した「小説電通」という本がそのまま、転載されている。
これはもう30年以上前の本なのだが、よくぞ出版する会社があったなぁと思える内容。
登場する会社名も実名でこそないが、一文字読み替えれば、あの会社か、とわかるようなほぼ実名に近い書き方。

スキャンダルを起こすも揉み消すも電通のさじ加減次第。

スキャンダルを発表させておいてそれを揉み消す代わりにその会社の広告を一手に握ったり、という電通の暗部をえぐりながらも、ネットの普及に伴い、ネット広告の比重が増えれば増えるほど、その寡占状態は維持できなくなる。
という独占状態から変わりつつある状態についても触れられている。

過労死事故以後、電通社員の心の支えであった電通「鬼十則」を社員手帳から削除するという動きに対して、元電通マンが、どうなってしまうのか、という嘆きの声をも掲載している。

「鬼十則」とはさぞかし怖い事が書かれているのかと思いきや、存外、為になる事が書かれている。

・仕事は「創る」もので与えられるものではない、とか、
・仕事は先手先手を働きかけろ。受け身でするな、とか。
・難しい仕事を選べ。それを成し遂げてこそ進歩がある、とか。

「取り組んだら放すな、殺されても放すな」この一文だけが過剰に取り上げられてしまった。

十則には創業者の思いがある。
ガリバー企業となってしまい、誰もが媚びへつらうので、尊大となり、だんだん創業者の思いとかけ離れてしまったことそのものが問題だったのに。

働き方改革もいいけれど、広告業界が時間外労働を一切しなくなるなんてあり得るのだろうか。

働く時間が長けりゃいいなどとはこれっぽっちも思わない。

だが、どんな業界にもモーレツでガムシャラで行動力のあるヤツ達が引っ張っていったんじゃないのだろうか。
定時になったら、目立たないように消灯してこっそりしてしまうような企業から、何か人を引きつけるような仕事が生まれるのだろうか。
電通の衰退のみならず、日本企業全体から徐々にバイタリティが無くなって行かなければいいのだが・・・。

電通の深層 大下英治 著



暗いところで待ち合わせ


駅のホームから人が突き落とされ死亡。
そのホームから逃げて行く男が目撃される。

その駅のすぐ近所に目の不自由な若い女性が一人暮らし。

そこへ殺人犯かもしれない男が扉の開いた瞬間に転がり込んでくる。
男は部屋の片隅でじっと動かず、身をひそめる。
彼女は誰かの存在に気が付いてしまってはいるが、気が付かないフリをしている。

そりゃ、人が居るかどうかぐらい嗅覚に頼るまでも無く、温度変化に頼るまでも無く、
息づかいの音に頼るまでも無く、気配というものでわかるだろう。
物語の中では途中まで気が付かないことになっているが・・・。

気配どころか、自分に危害を加える人なのかどうなのか、も瞬時にわかってしまうのではないだろうか。

だんだんと彼女にとってこの無言の同居人は無くてはならない存在になって行く。

この話でも登場するのは、人付き合いの苦手な人。
ここへ隠れ住んでいる男がその典型。
仕事場でも無駄な付き合いを避けるがために、周囲から浮いた存在になってしまい、浮いた状態がエスカレートし、ほとんど嫌がらせを受ける状態に・・・・・。
まぁ、それでもなかなかそいつを殺したいとまではなかなか思わないものだとは思うが・・・。

目の不自由な彼女も出来ることならもう外など出たくない。
一人で暮らす事に慣れ過ぎてしまっている。
その二人が沈黙で同居し、お互いの存在を認め合っている。

そして人付き合いの苦手な人達はここでもやはり優しい人たちなのだった。

暗いところで待ち合わせ   乙一著



君にしか聞こえない


なんとも独特の世界。

人と話すことが苦手な女子高生。

クラスメイトはいるが、気軽に話しかける相手は一人も居ない。

同じクラスの皆が携帯電話を持っている中、彼女一人だけは持っていない。

携帯を持ったとしても、掛ける相手がいないのだ。

でも、いつかは携帯電話を持ってみたい。携帯電話で誰かと話をしたい。
と思ううちに、頭の中ではいつも携帯電話を持った自分を想像する。

毎日毎日頭の中での想像の携帯電話を持ち歩いていると、腕時計を忘れたことにも気が付かない。
頭の中の携帯の時計を見ているのだ。

そんなことが続くある日、頭の中のイメージのはずの携帯電話が鳴り始める。
人と携帯電話で話をする。
妄想だろうと思ってしまうのだが、現実に存在する男の人だった。

彼もまた、現実界では孤独な人。
そんな彼とほぼ頻繁に電話をするようになるが、はた目から見れば頭の中で話しているので、単に黙っているだけに見えてしまう。
だからテストの最中に問題を読んで協力してもらうことも出来てしまう。

その彼と実際に会おうということになり、悲劇が起きるのだが、その時の彼の優しさ、彼女の優しさ。

そしてもう一人、脳内電話で知り合った年上の女性の温かさ。

荒唐無稽な話のはずなのに、何かじーんと来るものがある。

他に「傷」という話と「華歌」という話の計三篇。

怪我をしている人とすれ違いざまにその人の身体に触れることでその怪我を引き受けてしまう他人の傷を自分に移動させることの出来る少年。おかげでその少年の身体は傷だらけ。というの話と、入院している病院の庭に咲いていた歌をうたう花。
花の中には少女の顔が・・・。という話が二篇。。

周囲の人と接することが極端に苦手なのだが、誰よりも心は美しい、この作者はそんな人を登場させることが多いようだ。

君にしか聞こえない 乙一著dth=