カテゴリー: ア行



書店ガール


今年の春にAKBの渡辺麻友さん主演でドラマ化されていた作品。
物語は「書店ガール」とその名の通り、ペガサス書房吉祥寺店で働く二人の女性が主人公。
ガールというと幼いイメージがあるが、副店長の理子は40歳。その部下の亜紀は27歳。

理子は5年間のバイトを経て正社員となり、副店長にまで上りつめたキャリアウーマン。
長年交際してきた彼氏がいたものの、知らぬ間に二股をかけられフラれてしまう。
プライベートはボロボロの理子だったが、そんな時、吉祥寺店の店長に抜擢される。
会社始まって以来、初の女性店長ということで責任や重圧がのしかかる。
女性が出世していくのが気に食わないフロア長の存在が、さらに理子の足を引っ張る。
独身女性が仕事一筋でやっていく大変さがリアルだ。

一方、亜紀はその正反対。
親のコネで正社員として入社し、若くて美しい顔立ちを持っている。
書店内で人気のイケメン三田君と付き合ったかと思えば、その後すぐに大手出版社の男性と結婚。
経済的には働く必要は全く無いのだが、「本が好きだから」という情熱を持って働いている。

職場では自由な発想で書店のフェアを盛り上げようとする亜紀だが、なにをしても反感を持つグループができてしまう。
結婚、美しい容姿、正社員。なにもかも持っている亜紀に降りかかる嫉妬の嵐。
女性従業員内でできる派閥や人間関係が怖いのだが、けっこう現実でもあるあるな話なのがこれまた怖い。
女性の作者だからこそ、ここまで具体的に書けるのだろうなと思う。

そんな正反対な境遇の理子と亜紀だが、理子の店長就任後まもなく吉祥寺店が閉店の危機にさらされていると知り、みんなを一致団結させ苦難に立ち向かっていく。
最初がバラバラだった職場だけに、どんどんと改善されていく書店の描写は見ていて気持ち良いほどだ。

理子と亜紀、2つの視点から綴られる様々なエピソードに、働く女性ならどこか1つは共感する部分があるだろう。
なにか落ち込むことがあった時、力をくれる一冊だ。



待ってる 橘屋草子


「橘屋」という料理茶屋に奉公に来る人たち一人一人にスポットがあたる。
それぞれが独立した小編ながら、全て「橘屋」という料理茶屋で繋がっている。
皆、一様に貧しく、不幸を背負って立ったような人ばかり。

三年間は無給の住み込みで、12歳で奉公にあがった娘。
三年を過ぎれば自分が家族を支えられることを励みに仕事をしてきたのが、ある日、家族は娘に何も言わずに消えてしまう。
そんな娘の話。

亭主が倒れて金がいることにどんどん付け込まれる女性の話。

父は酒に飲んだくれて仕事をしない。愛想を尽かした母は家出をしてしまう。
そんな小僧の話。

なんだか不幸な人々が奉公人として集結してきたかの如くだ。
さもありなんなのは、女中頭のお多代という人がそういう境遇の人を奉公人として面倒みようという人だからで、この人が非常に個性的。

とにかく奉公人に厳しい。
厳しいがその厳しさの裏には優しさがある。
そして人を見る目がある。
奉公人を見る目もそれに言い寄って来る外の人間も目を見ただけで、ありゃ女衒さ、と軽く見抜いてしまう。

いくつかの小編がこのお多代さんを経由することで知らぬ間に長編になっていた。いわゆるオムニバスというジャンルになるのだろうか。

それぞれに不幸な話が満載だが、それでいて希望が無いわけじゃない。

皆、それぞれに救われている。

あさのあつこという人、こんな本も書くんだ。

そのあたりが若干に新鮮。

待ってる あさのあつこ 著



ブラックオアホワイト


学生時代の同級生の通夜の帰りに立ち寄った同じく同級生の都築君の住むマンション。
そこで都築君から、昔むかしの夢の話を聞かせられる。

商社マンだった都築君が語り始めるのは30年前、ジャパンマネーが世界を席捲していた頃の話だ。
その時代に海外の各地で体験した夢の話。

スイスの夢、パラオの夢の話、インド、北京、最後は日本の京都での夢。

スイスの高級ホテルで固い枕との交換をお願いすると、バトラーが枕を二つ持って来て、「ブラックオアホワイト?」と尋ねてくる。

白い枕はいい夢を、黒い枕は悪い夢。
どこで見た夢にも同じ女性が現われる。
白い夢の中では彼が愛する女性として。

黒い夢を見た後は悪い事は夢に留まらず、現実でも悪いことが起こる。
いや、黒い夢に影響されて自ら誤った選択を行い、結果、失敗する、と言った方が正しいか。

黒い夢には必ずと言っていいほど、昼間に会った人間が登場し、都築君は彼らにひどい言葉を浴びせられたりする。
しかも夢の中で語られる彼らの言葉の方が何やら本音とも思えてくるのだ。

いくつもの白い夢、黒い夢の話がさも昨日起こった出来事かの如くに鮮明に語られる。

そのいくつかの話の中でも印象的なのは、パラオの白い夢とパラオの黒い夢だろうか。
パラオは第一次大戦後、日本が国連から依頼されて委任統治をすることになった国。

現地では、日本統治時代の名残りが数多く生きており、古き良き時代の日本がそのまま残ったかの如くだった。

ここで白い夢、黒い夢を見るのだが。
白い夢では、30年前からさらに40年以上前なのだろう。日本統治時代のパラオのコロール島が出て来る。

黒い夢の方はペリリュー島が舞台となる。。

今年、天皇皇后両陛下がパラオを訪問されたが、その訪問の中でも最も印象深いのがペリリュー島へのご訪問。

ペリリュー島というこの小さな小さな島で一万人以上の日本兵と米兵が死んだ。

黒い夢では都築君はペリリュー島の島に籠って上陸する米兵から逃げ回る。
一万人以上が玉砕した日本兵の一人として、その場に居る。

浅田次郎さんは、いや浅田次郎さんに限らないか。作家は、本の中の登場人物の言葉を借りて、ご自身の本音を良く語られる。

このパラオのコロール島の白い夢の中の風景。
男は男らしく、女は女らしくあった時代。
夜が昼の様に明るい現代とは違い、夜は夜らしくあった時代。
冷蔵庫やスーパーマーケットや自動販売機の登場がいかに我々の生活を貧しくしたか。

80~90年前のパラオのコロール島を見て、人間の文明の反映などはこんなところが上限で良かったのではないか。
都築君の言葉を借りてはいるが、浅田さんの本音なんだろうな。

ブラックオアホワイト 浅田次郎 著