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シーソーモンスター


「シーソーモンスター」「スピンモンスター」の2作がおさめいるされている。

シーソーモンスターを読み始めた時、これはかなり以前に出版された本だったのか?と一瞬思ってしまったが、米ソ冷戦の話だったり、バブルがどうもはじける前の話になって来たので、時代背景をそこに置いただけかと納得した。
伊坂氏にしてはさすがに古すぎだろ。

単なる時代設定にしても何ゆえ、敢えてバブル全盛期を背景に書く必要があったのだろう。
ひょっとしたら急に舞台を現代に時代を変えて来るための布石なのか?と期待したが、そのままの時代で幕は下りた。

嫁と姑の間に挟まれる可哀想な男の話から始まるが、その嫁の方が実は諜報機関の元キャリアで、頭脳明晰・格闘技万能。
亭主はそんなこと一切知らない。

格闘術だけでなく、その場その場にて臨機応変に対応できる人とのコミュニケーション能力も抜きんでているわけなので、姑とのコミュニケーションなど容易い事だと思っていたが、どうにもこの姑にだけはそれがうまくできない。

それどころか、何年か前に舅が事故死したのも、実は姑の保険金目あての殺人ではないか、と疑い始めるとことまで発展する。
その先はネタバレになるので書けないが、最終的には適度ないい距離に落ち着く。

方や「スピンモンスター」は近未来。
全く別の話だと思って読み進めて行くうちに、「シーソーモンスター」の登場人物が出て来て、話は繋がっていたのか、と気づかされる。

この近未来なかなか現代への風刺が効いている。

2021年の現代、政府の目標はデジタル社会の実現。

そのデジタル化の行きつく先への反省もあってか、人々は電子化に抗い、手書きの紙媒体を配達人という民間を使って、人手で持ち運ぶと言うメッセージのやり取りを始める。

もちろん、停電などの災害続きで電子データのもろさが露呈してしまったことや、SNS等のデマ、誹謗中傷などももう辟易としてきたことも相まってのことだろうが、何より一旦電子データにするイコール誰かに読み取られることを覚悟しなくてはならないという恐怖があってのことだろう。

とは言え、一旦構築されたデジタル社会。
そう簡単に覆されることは無く、今のスマフォに類似の端末で一元化された個人情報にて人の動きも金の動きも即座に明らかにされてしまう。

ここで二人の濡れ衣を着せられた男たちの逃走劇が始まるあたり、「ゴールデンスランバー」を彷彿とさせられるが、この近未来では、ニュースそのものがどんどん捏造されて行き、起きてもいない事件がどんどんニュースで流され、彼らは起きても居ない事件の首謀者として指名手配並みにニュースで流される。

それらの偽ニュース、全部AIが作ってAIが報道している。
というあたりは「ゴールデンスランバー」よりもはるかに怖い。

主人公には因縁の相手がいる。

小学生のころ 自動運転の自動車事故で肉親全てを失い天涯孤独。
全く同じ境遇なのが、その自動車事故でぶつかって来た相手の家一家。
小学生たった一人が生き残り、その二人が、高校でも出会い、この逃走劇でもまた出会う。

この二人の憎悪こそ、「シーソーモンスター」での姑と嫁の関係と同じ海族対山族ということなのだが、何も強引に海族対山族に持って行かなくても・・と思ってしまうが、

どうもこの「シーソーモンスター」と「スピンモンスター」という2作、
「螺旋プロジェクト」という計8人の作家が古代から未来までそれぞれの時代を舞台に海族と山族の対立を軸に描かれる大物語の中の二つの時代を伊坂氏が任されたということらしい。

他の作家のものも読みたくなってしまった。
諜報部員の奥さん、出てくるんだろうか。

シーソーモンスター  伊坂幸太郎著



ひと


この本を書いている小野寺さんという人、おそらく心根の優しい人なんだろう。
優しいというよりも、人の気持ちに気付ける人と言った方が妥当か。

この話の主人公である聖輔青年、若干二十歳。
高校二年生の時に父を交通事故で亡くし、その3年後、東京の大学在学中に母を亡くす。
故郷の鳥取へ帰ってあわただしく葬儀、その後、遺品もことごとく処分。母が住んでいた県営住宅も退去。

母の残した遺産は自らの保険金100数十万。
そのお金が一世帯(と言っても彼一人だが)の全財産。
そんな彼から、母親に金を貸したと50万円をふんだくる、母の従兄弟だという初対面の男。

東京で一人暮らしをする若者には100万も貯金していない人の方が多いかもしれない。

しかし彼にはいざとなった時の戻るべき場所がいきなり無くなったのだ。
天涯孤独。
頼るべき親戚無し。

彼は大学を辞める選択をする。

財布の中身が55円の時にぎりぎり50円のコロッケを買おうと立ち寄った惣菜屋で、アルバイト求人の張り紙を見て、そこで働くことになる。
そのコロッケも最後に残った一つで見知らぬお婆ばあさんにどうぞ、と譲る彼。

それに比べて、母の従兄弟の男は、50万で味をしめたのか、さらに30万寄こせ、と東京のアパートにまで現れる。
なんてやろうだ。彼の全財産を知っていながらだけにとんでもないやろうだと誰しも思うだろう。

惣菜屋のある商店街でたまたま出会った、高校時代の同級生の青葉という女子とその元カレという慶応大学の高瀬という男。
この二人の話もなかなか興味深い。

彼女は高瀬のこういうところが我慢ならなかったというところ。
例えば、電車の優先座席に平気で座る。ここまではままあるかもしれない。
目の前に初老の夫婦が立った時に、青葉は高瀬の肘をつつくが、彼は平気で「坐りたいですか?」と初老の男女に聞くのだ。
他にも赤信号の横断歩道で車は来ていない。横断歩道の反対側には信号が変わる人がいるのに彼は平気で渡ってしまう。
彼女はこういうのが許容できない。

なるほどなぁ、と思う。
横断歩道なんぞは案外やってしまっているかもしれない。
横断歩道の反対側なんてあまり気にした事が無かった。

だから、そういうことに気が付ける人にしか書けない本なのだ。
高瀬君の言う事はいちいち最もなところもあるが、彼には絶対に気付けない。

主人公の聖輔君はもちろん気付ける人だ。
誠実さと勤勉さ、そして人の気持ちに気が付ける優しさ、それがあれば、誰かしら「頼っていいんだよ」と声をかけてくれるようになる。

半年前、一年前には全く見ず知らずの人だったのに、店の将来さえ託したくなるほどに信頼というものは醸成されていく。
天涯孤独。でも一人ぼっちじゃなかった。

いい話を読ませてもらいました。

ひと  小野寺 史宜著



ホワイトラビット


仙台の閑静な住宅街の一戸建てで起こった立て籠もり事件。
犯人の要求はある男を連れて来る事。
その男の特徴はやたらとオリオン座に詳しく、語りだしたらとまらないということ。

今回の話には
オリオン座の話がやたらと登場する。

もう一つ「レ・ミゼラブル」もやたら登場する。

「レ・ミゼラブル」を読んだ人は多いだろうが、ちゃんと内容を覚えている人がどれだけいるかと思うと、心もとないが、この中の登場人物たちはかなりの「レ・ミゼラブル」通だ。
私も中学時代に読んだし、ジャンバルジャンの名前ぐらい覚えているが、そのセリフまでなんて出てくるはずもない。

ホワイトラビットと言う小説、なんという奇想天外な構成なんだろう。

時間が前へ行ったり、後ろへ行ったり、こんがらがることこの上ない。
それでも最終的にはちゃんとわかるようになっているところが伊坂幸太郎さんの巧みなところ。

発生時刻の順に話が進んでいけば、なんのことはないのだが、時間を前へ後ろへと行ったり来たりすることで、何度もどんでん返しのようなことが起きる。

と言いつつも二度読みして、なるほどね、とあらためて途中まで作者のたくらんだしかけにまんまとはまっていたことに気が付くのだ。
どこをどうピックアップしようにも全部ネタバレになってしまいそうで内容はほとんど書けない。

おそらくこれだけ何度も登場させた以上、「レ・ミゼラブル」の手法を被らせたのだろうが、「レ・ミゼラブル」でそんなに行ったり来たりがあったんだったっけ。
あまりに昔に読みすぎてもう覚えてない。

誘拐ビジネスという新たな犯罪手法を編み出す輩が出てくる。

「誘拐という犯罪は割に合わない」というのが一般的な見方だろうが、このビジネスを編み出した男の発想はまた違う。

身代金ウン億を要求するような拙い事はしない。

出来る範囲の事をやらせる。払っても惜しくないぐらいの金を要求したり、それは金でなくても、その人の得意分野で出来る範囲のことをやらせる。

投資家なら特定株を買う、もしくは売る。
何かの賞に推薦できる立場なら誰かを推薦する、もしくはしない。
手術をする立場なら、オペをする、もしくはしない。
そういう行為が身代金代わりだ。

伊坂さんがこれを世に出すことで、その新たなビジネスがはびこらねばいいのだが・・・。

ホワイトラビット 伊坂 幸太郎著<br />” width=”86″ height=”120″ border=”0″></p>
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