カテゴリー: ア行



愛なき世界


三浦しおんさんと言う人、いろんな事を探求される方だ。

男の祭りにスポットをあててみたり。広辞苑を作る人にスポットをあててみたり・・。
たぶん誰も書いていない分野を開拓してみたい、知ってみたい好奇心に溢れていらっしゃるのだろう。

今度はとうとう植物だ。
植物にまで手を拡げて来たか。

正確には植物を研究する研究者にスポットをあてたわけだが、植物の研究などと言う地味な分野、果たして読み物になるのだろうか、などと余計な心配は杞憂に終わる。
人物を描写が絶妙な人なので、扱う題材が珍しかろうが、地味だろうが、なんでも楽しく読ませて下さる。

主人公はおそらく東大と思われる大学のすぐ近くにある洋食屋で働く青年。
彼が一目惚れをしてしまうのがその大学の植物学の博士課程で研究する女性。

その女性の研究対象が「シロイヌナズナ」という植物。
葉っぱはどうして一定の大きさ以上にならないのだろう。

そんなことを疑問に思う人はそうそういないだろうが、そういう事を疑問に思う人たちがいるから、自然界の謎が一つ一つ解き明かされて行くのだろう。

恋愛の話では男が女の気持ちに鈍感、というのが通例だと思うが、この研究者の場合は逆だ。彼女は洋食屋のお兄ちゃんのことは嫌いではない、むしろ好きな方だと思うが、彼女の方が男の気持ちに鈍感なのが面白い。
むしろ、それだけに彼の方も立ち直りが早い。

今、ちまたのニュースで聞かない日はない「PCR検査」。

この本には何度も「PCR検査」という言葉が登場する。

変種の遺伝子を配合させてさらにその種どうしを配合させてさらに・・と途轍もない労力をかけて最後の最後に使うのが、そのPCR検査。

今、ニュースで聞くPCR検査とおそらく同じものなのだろうと思う。

そんな研究者が最終手段で使うような検査を毎日毎日、全員やれだのとニュースで流れているのか。

こういう研究者たちはどんな思いでそのニュースを聞いているのだろう。

ちょっと、気になってしまった。

愛なき世界 三浦しおん 著



火のないところに煙は


怪談話、ホラー話でありながら、ミステリとしてランキング入りしている。

確かに怪談話やホラーものとはちょっと違い、単に怖い話を集めたわけではなく、それぞれの話の終わりに、実は・・・みたいな話が多い。

最後に落ちがついている。
単に怖がらせておしまいではなく、その謎解きが入っていたり、新たな事実が分かったり、そういうところが、大してインパクトのある話でも、魅力ある話でもないのに、割りと一気に読めてしまう。

主人公氏は編集者転じて作家となった男。
元々はホラー作家じゃなかったのにそういう依頼が来て、つい旧友の話を書いてしまう。それをきっかけにホラー話が舞い込んで来る様になり、そういう舞い込みを元に二話目、三話目と続いて行く。

二話目は、同業の女性ライターから聞いた話。
自分の電話番号を出版社から聞き出し、お祓いをしてくれる人を紹介してくれる人を紹介しろ、としつこく、食らいついて来る女。

あと不動産がらみの話が続く。
三話目の「妄言」は隣人にこんな人が居たら怖い。
引っ越したばかりの家の隣のおばさんが、主人の留守中に妻と親しくなり、自分をどこどこで見かけた、女連れだった・・などと真顔で妻に吹き込んで行く。
あまりの真剣さにまるまる嘘を言っている様にはどうにも見えない。

これも単なる妄言を吐く人では無かった、こういうところがやはり一般的なホラーものとは違うところなんだろう。

いくつもの小編をバラバラに集めて一冊にしているのかと思いきや、実は一話目に登場する謎の占い師と繋がっているのではないか、という疑問を敢えて残したママにする。

そんなこともあってホラー話のフリをしたミステリにジャンルされたのだろうか。
でも、ミステリとも言えない気がするな。

火のないところに煙は 芦沢 央著



屍人荘の殺人


このタイトルなんともなぁ。
本屋で手に取って買いたい気持ちになかなかならないと思いますよ。

このタイトルの本にしてはかなり軽快なピッチであっという間に読み進めてしまった。

山のペンションへ夏合宿で泊りに行く大学の映画研究部のサークル。
そこへなんとか潜り込もうとする探偵ごっこの大学非公認サークルの二人。
一人の美形女子のあっせんでなんとか同行に成功する。そしてそのあっせんしてくれた彼女もまた探偵だった。
しかもかなり本格的な。

そのペンション近くで開催されていたロックフェスでのウィルステロ。
感染した人間はなんとゾンビになる。
まさにバイオハザードそのものだ。

こっちのゾンビはバイオハザードのゾンビみたいなスピード感がなく、ごくゆっくりとしか動けない。

こちらのゾンビの方が論理的なのかもしれない。

心臓は止まっているのだろうし、血液も循環していない。
感染していない生物の方角にだけ動こうとする本能だけで動いている。
素早く動く筋力などあるわけがない。

なかなかゾンビについての雑学を教えてくれたりする。
こお地球上にはゾンビ化するアリが存在するらしい。
ならば人体で起こす事も実験しだいでは可能だったりして。

そのゾンビに囲まれたペンションの中で起きる殺人事件。

どう見てもゾンビに食いちぎられたとしか思えない死体なのだが、ペンションの守りは固くバリケードを築いて、ゾンビの侵入を阻んでいるはず。

そしてどう見ても内部の人間が犯人としか思えないメッセージの紙片。

探偵ごっこの方の探偵さんもそうそうにゾンビに喰われてしまうし、なかなか展開が面白い。

惜しむらくはやはりタイトルだろうか。

屍人荘の殺人  今村昌弘著