カテゴリー: ア行



火のないところに煙は


怪談話、ホラー話でありながら、ミステリとしてランキング入りしている。

確かに怪談話やホラーものとはちょっと違い、単に怖い話を集めたわけではなく、それぞれの話の終わりに、実は・・・みたいな話が多い。

最後に落ちがついている。
単に怖がらせておしまいではなく、その謎解きが入っていたり、新たな事実が分かったり、そういうところが、大してインパクトのある話でも、魅力ある話でもないのに、割りと一気に読めてしまう。

主人公氏は編集者転じて作家となった男。
元々はホラー作家じゃなかったのにそういう依頼が来て、つい旧友の話を書いてしまう。それをきっかけにホラー話が舞い込んで来る様になり、そういう舞い込みを元に二話目、三話目と続いて行く。

二話目は、同業の女性ライターから聞いた話。
自分の電話番号を出版社から聞き出し、お祓いをしてくれる人を紹介してくれる人を紹介しろ、としつこく、食らいついて来る女。

あと不動産がらみの話が続く。
三話目の「妄言」は隣人にこんな人が居たら怖い。
引っ越したばかりの家の隣のおばさんが、主人の留守中に妻と親しくなり、自分をどこどこで見かけた、女連れだった・・などと真顔で妻に吹き込んで行く。
あまりの真剣さにまるまる嘘を言っている様にはどうにも見えない。

これも単なる妄言を吐く人では無かった、こういうところがやはり一般的なホラーものとは違うところなんだろう。

いくつもの小編をバラバラに集めて一冊にしているのかと思いきや、実は一話目に登場する謎の占い師と繋がっているのではないか、という疑問を敢えて残したママにする。

そんなこともあってホラー話のフリをしたミステリにジャンルされたのだろうか。
でも、ミステリとも言えない気がするな。

火のないところに煙は 芦沢 央著



屍人荘の殺人


このタイトルなんともなぁ。
本屋で手に取って買いたい気持ちになかなかならないと思いますよ。

このタイトルの本にしてはかなり軽快なピッチであっという間に読み進めてしまった。

山のペンションへ夏合宿で泊りに行く大学の映画研究部のサークル。
そこへなんとか潜り込もうとする探偵ごっこの大学非公認サークルの二人。
一人の美形女子のあっせんでなんとか同行に成功する。そしてそのあっせんしてくれた彼女もまた探偵だった。
しかもかなり本格的な。

そのペンション近くで開催されていたロックフェスでのウィルステロ。
感染した人間はなんとゾンビになる。
まさにバイオハザードそのものだ。

こっちのゾンビはバイオハザードのゾンビみたいなスピード感がなく、ごくゆっくりとしか動けない。

こちらのゾンビの方が論理的なのかもしれない。

心臓は止まっているのだろうし、血液も循環していない。
感染していない生物の方角にだけ動こうとする本能だけで動いている。
素早く動く筋力などあるわけがない。

なかなかゾンビについての雑学を教えてくれたりする。
こお地球上にはゾンビ化するアリが存在するらしい。
ならば人体で起こす事も実験しだいでは可能だったりして。

そのゾンビに囲まれたペンションの中で起きる殺人事件。

どう見てもゾンビに食いちぎられたとしか思えない死体なのだが、ペンションの守りは固くバリケードを築いて、ゾンビの侵入を阻んでいるはず。

そしてどう見ても内部の人間が犯人としか思えないメッセージの紙片。

探偵ごっこの方の探偵さんもそうそうにゾンビに喰われてしまうし、なかなか展開が面白い。

惜しむらくはやはりタイトルだろうか。

屍人荘の殺人  今村昌弘著



フーガはユーガ


子どもへの父親の虐待、母親は見て見ぬふり。
しょっちゅう出てくる話で、今年も何度かニュースのTOPを飾る。

ニュースのTOPを飾るのはその子供が亡くなってからの事で、人知れず行われている虐待などは山ほどあるのだろう。

これまでの伊坂氏の作品にも何人もの悪人が登場するが、結構愛嬌があったり、憎めない性格だったりするのだが、今回の悪人たちは到底そんな可愛らしい連中には遠く及ばない。

この物語、優我と風雅という双子が主人公。
この二人も父親の虐待と母親の無視をずっと体験してきている。

彼らはある日、突然に互いが瞬間移動で居る場所が入れ替ることに気が付く。

彼らの戸籍上ではない本当の誕生日に2時間置きに。

それをなんとか有効活用できないか、とずっと小さい頃から考え続けるのだ。

片方が変身後のヒーローの格好をして、丁度その時間にもう片方が「変身!トリャー!」とやればどうなるか。
なんか、そういう発想するだけでわくわくするなぁ。

彼らは父親の虐待を日常的に受けていたわけなのだが、もっとひどい目にあっている人も居て、親が死に引き取られた親戚の家で、まるでペットの様に飼いならされている少女。ペットならまだ可愛がるだろうが、その逆で家の中の巨大水槽ので溺れて苦しむのをそういう趣味を持った人間を集めてショーを開催するといういかれっぷり。

かと思えば子供を動けなくなるようにした後に車で前から轢き、バックしては轢き、という残忍なやり方で死なせる人間。

人間じゃねぇ、という連中がわんさか出て来る。

そんな読み物、本来ならかなりずっしりと重たい、暗い気分になってしまうところ、そこを悲壮感を漂わせずに一気に読ませてしまうところが伊坂氏ならではだ。

フーガはユーガ、ちょっと異色の伊坂小説ではあるが、やっぱり映画化されるんだろうな。
案外、ゴールデンスランバー並みの名作になる様な気がする。

って、単に自分が見てみたいだけか。

フーガはユーガ -TWINS TELEPORT TALE- 伊坂 幸太郎著