カテゴリー: ア行



フーガはユーガ


子どもへの父親の虐待、母親は見て見ぬふり。
しょっちゅう出てくる話で、今年も何度かニュースのTOPを飾る。

ニュースのTOPを飾るのはその子供が亡くなってからの事で、人知れず行われている虐待などは山ほどあるのだろう。

これまでの伊坂氏の作品にも何人もの悪人が登場するが、結構愛嬌があったり、憎めない性格だったりするのだが、今回の悪人たちは到底そんな可愛らしい連中には遠く及ばない。

この物語、優我と風雅という双子が主人公。
この二人も父親の虐待と母親の無視をずっと体験してきている。

彼らはある日、突然に互いが瞬間移動で居る場所が入れ替ることに気が付く。

彼らの戸籍上ではない本当の誕生日に2時間置きに。

それをなんとか有効活用できないか、とずっと小さい頃から考え続けるのだ。

片方が変身後のヒーローの格好をして、丁度その時間にもう片方が「変身!トリャー!」とやればどうなるか。
なんか、そういう発想するだけでわくわくするなぁ。

彼らは父親の虐待を日常的に受けていたわけなのだが、もっとひどい目にあっている人も居て、親が死に引き取られた親戚の家で、まるでペットの様に飼いならされている少女。ペットならまだ可愛がるだろうが、その逆で家の中の巨大水槽ので溺れて苦しむのをそういう趣味を持った人間を集めてショーを開催するといういかれっぷり。

かと思えば子供を動けなくなるようにした後に車で前から轢き、バックしては轢き、という残忍なやり方で死なせる人間。

人間じゃねぇ、という連中がわんさか出て来る。

そんな読み物、本来ならかなりずっしりと重たい、暗い気分になってしまうところ、そこを悲壮感を漂わせずに一気に読ませてしまうところが伊坂氏ならではだ。

フーガはユーガ、ちょっと異色の伊坂小説ではあるが、やっぱり映画化されるんだろうな。
案外、ゴールデンスランバー並みの名作になる様な気がする。

って、単に自分が見てみたいだけか。

フーガはユーガ -TWINS TELEPORT TALE- 伊坂 幸太郎著



キラキラ共和国


ツバキ文具店の続編。

ツバキ文具店のあとを継いだ鳩子さんが子持ちの男性と結婚し、いきなり一児の母となるところから。
子どもは丁度小学校に入学する年頃で彼女はQPちゃんと呼んでいる。

前作が手紙というものについてのいろんな知識を教えてくれ、代書と言う作業のきめ細やかさに心打たれる本であったが、この続編はかなりの枚数をこの新家族、新たな伴侶、その亡き妻、特にQPちゃんについて最もページを割いている。

肝心の代書業も引き続き行ってはいるが、前作で手紙の内容に合わせての便せん選び、筆の種類やらボールペンの種類、郵便屋さんのためにあると思っていた切手に至るまで、綿密に選び抜くきめ細やかさに感動し、肝心のお手紙そのものにも感動したはずなのに、今回改めて、代書の相談事に客はやってくるわけだが。

なんでもかんでも代書頼みというのはいかがなものなのだろう。

好きな人への告白なんて最たるもので、それを人に書いてもらってどうするんだ。
前作で出て来た悪筆の人ならまだしも他人に書いてもらったことが相手にわかったらどんないい内容の手紙だろうが、いっぺんに覚めてしまうんじゃないのだろうか。

終盤に登場する川端康成ファンの女性からの依頼、川端康成から自分宛ての手紙を代筆してほしい、という依頼はかなりの難易度だろう。
文豪に成り代わって文書を書くなんて、しかも熱烈なファンだけに安易に文体を真似ただけなら返って偽物感が出てしまう。

と、今回は、代書を通しての感動はさほどでは無かったが、あらためてこの主人公のこころねの優しさはすなわち小川糸という作家の人柄なんだろうな、と思わせてくれる。

今回はQPちゃんについての記述が多いと書いたが、QPちゃんにとって自分は継母である。その父親であるミツローにとっては後妻。

その後妻の人が亡くなってしまった前妻のことを大好きになって、とうとう前妻に対してお手紙を書く。

やはり小川糸さん健在ですね。

キラキラ共和国  小川 糸著



星の子


幼い頃、病気がちだった女の子が父の会社の先輩に薦められた水を飲んだところ、みるみる快復してしまった。
この一家ではそれが終わりの始まり。
父も母もその水にすっかり心酔してしまい、それを大量に購入するようになる。
また、その水を販売している団体にもすっかり嵌り、そこでの行事には必ず参加するようになって行く。
いわゆる、いかがわしい宗教団体というやつ。

小学校に上がってからも「アイツは変な宗教団体に入っているからな」と冷ややかな目で見られるどころか、いじめをなくす立場の教師からも「変な団体への勧誘をするなよ」などと白眼視されるのだが、一家はお構いなしだ。

姉だけはまともだったのか。
この家を飛び出して帰って来なくなる。

もちろん教団からのすすめなのだろうが、親はますます奇行が多くなり、仕事もおそらく首になったのではなかろうか。

この主人公の娘も成長していくにあたって、おかしい団体だと気付きはじめているのだが、自ら去ろうとはしない。

子ども視点でたんたんと話が語られて行くが、かなり重たいテーマだ。

星の子 今村夏子著