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乳と卵


難しいもんやなぁ、読み物も。一旦文学ちゅうカテゴリに入れてもうたら、もうわけがわからんわ。
大阪出身者による大阪弁での芥川賞受賞作やっちゅうからムチャクチャ期待してもうたのになぁ。
この本、読み始めて数ページ繰ったところで目ぇが活字を追うてるだけで、なーにも頭の中に入ってけーへん。
そやからまたまた頭から読み直し、それを3回ぐらい繰り返した。
普通やったらそこまで頭に入ってけーへんちゅうことは本との相性が悪いんやろって読むのんをやめてまうところやけど再突入してみてようわかった。
頭に入ってけーへんいくつかの理由が。

まず使われてる大阪弁がめちゃくちゃ中途半端でどうにも頭の中に入ってけーへん。
東京の芸能人が大阪弁を真似する時のイントネーションの違いから来る違和感ともまた違う。
変な大阪弁の使い方。これが一番頭の中を活字が素通りして行く原因やった。
この作品を評して
「大阪弁に支えられて成立する」とか
「大阪弁を交えた口語調の文体が巧みで読む者の中によく響く」とか
選者評では大阪弁が受賞の大きな理由を占めてるみたいやったけどな、残念ながら響けへんねん。
その中途半端な大阪弁があるせいで、全く響かん。
村上龍はこれを「ときおり関西弁が挿入されるが、読者のために『緻密』に翻訳されている」と評してはったわ。
どのへんが「緻密」やねん!とツッコミを入れながらも選者の中で唯一、「翻訳されている」とほんまもんの大阪弁とちゃうことを見破ってはったのはさすがや。
会話は大阪弁。語り部は標準語ならまだメリハリちゅうもんがあるで。
それを語り部の語り口調が首尾一貫してへん。大阪弁使うてみたり標準語を使うてみたり。しかも一文が長すぎて長すぎて、そやからまず読むのに疲れてまう。
なんともしんどい文体や。
なんちゅうんやろな。大阪出身の営業マンが大阪の会社へ営業へ行ってここまでやったら大阪弁でくだけてもかまへんやろか、と躊躇しながら大阪弁を小出しにするようななんかびびりながらの大阪弁ちゅう感じやろか。
・・それが緻密な計算なんかいな。

登場人物は語り部の女性とその姉と姉の娘。
姉は豊胸手術を受けようと大阪から主人公の住む東京へ娘と一緒にやって来る。
姉の娘は親にも主人公にも一言もしゃべれへん。
娘からの会話は筆談や。

筆者は大阪出身。
北新地でも長いこと働いとった、ちゅうから男相手の会話には慣れっこやと思うのに、豊胸手術も娘の初潮も卵子の行く末も男の読み手には全く興味の無い素材を題材に選んではる。
これを読んでなんか響け!共感せぃ!ちゅうたって男の読者には無理な話やで。
共感してる男が居ったら、ちょっと危ないやつとちゃうんかいな。
頭に入ってけーへんかったもう一つの理由はこれなんや。

女性読者には何らかの共感めいたもんがわいて来るかもしらんけど、男性読者を全く対象外において書かれたもんとしか思えんねんな。
この作品は。

元気の無い大阪に活力を!と選者が考えたわけないけど、せっかく大阪弁で賞をとったんやし。
次作には期待してまっせ。
そやけど、大阪人もちゃんと騙して欲しいな。

大阪人にも男性にも馴染む題材でよろしく頼んまっせ!



14歳 -Fight


この本、内容を読んでいくうちにかなり古い本だな、という事に気がつきます。
今時の中学生などが読もうものなら、
「だっせぇー」
「うざっ!」
「ちょっと痛いよ。この主人公」
などと言う声が聞こえて来そうです。

学級崩壊などというのはかなりの昔からあった話なのでしょうが、昨今は学校での暴力沙汰云々よりも不登校児童の多さの方がもっと問題の根が深い事を物語っているのでは無いでしょうか。

学校には番長連中が居て、などと言う分かりやすい構造はもはや現在のものではないでしょう。

その番長には取り巻きが居て、さらにそのバックには暴走族が居て、その更にバックには組関係の末端組織が居たりします。

「いじめ」と言っても暴力によるカツあげだけなので分かりやすい。
今の「いじめ」の本質まではもちろん知りませんが、この本での「いじめ」にはまず「シカト」というものが登場しない。
現在の「いじめ」の最たるものまず「シカト」でしょうし、携帯メールなどもはびこっておりますので、おそらくかなりの陰湿なものではないか、と想像してしまうのです。

そういう事を差し引いても、この主人公(生徒会長)の愚鈍なまでのひたむきさには何か心を打たれます。

ちなみに中学に生徒会って有ったんでしたっけ。
自分の頃を思い出してみてもその存在はまず思い出せない。
そして現在もそういう組織はあるのでしょうか。

それはさておき、何の因果か生徒会長になってしまった主人公は、喧嘩が強い訳でも自分の言いたい事をはっきり言うタイプでもない。

生徒会長になってまずやり始めた事は「タバコの吸殻拾い」。
次にやる事は「ポスター作り」。
「いじめ・暴力は許さない」というポスターを学校中に貼って行く。
即座にポスターには「目立つなよ!」と赤いスプレーでのなぐり書き。
目の字には安全カミソリが貼り付けてある。
そう、脅しです。
この主人公の面白いところはその反応を見て意気消沈するどころか逆に喜ぶところなのです。
「気にしてくれるやつらがいるんだ」と返ってわくわくしているところがちょっと常人では無いですね。
この本の時代では教師による暴力も日常茶飯だったようです。
教師が暴力でも振るおうものなら、「体罰教師」として速攻でマスコミに叩かれはじめたのはだいぶ以前の事ではなかったでしょうか。

主人公は二度目のポスターを貼り、教師に対しても暴力反対を訴え、開かれた生徒会室に、という事で、そこでコーヒーを飲むも良し、マンガを読むも良し。
と学校の雰囲気をどんどん変えて行ってしまい、ワルガキ共も仲間に誘い入れ、暴力の言いなりにはならないぞ、という空気を学校で一杯にして行く・・・ていうようなお話なのです。

一辺の清々しさは確かに残りますが、さて現在の学校に当て嵌まる類のものなのかどうか・・そのあたりは皆目分からないのであります。



セブンスタワー


ちょっと変わった世界です。
世界は闇に覆われ、太陽からの直射日光にあたると人々はその暑さで消耗してしまいます。
この世界で明るいのは城と呼ばれる七つの塔のある場所だけ。
そしてその明るさもサンストーンと呼ばれる石も持つ力の明るさ。
七つの塔にはそれぞれ紫の塔、藍の塔、青の塔、緑の塔、黄の塔、オレンジの塔、赤の塔が有り、塔に住む人は選民と呼ばれ、紫、藍、青、緑、黄、オレンジ、赤はその階級を表します。
選民は労働をせず、選民になれなかった人、もしくは選民の地位をすべり落ちた人が地下民と呼ばれ、選民のために労働をします。

また城に住む選民にとっての世界は城の中だけで、その外の世界に人が生きている事を知りません。
暗闇の外の世界には氷民と呼ばれる人が何百もの船に乗って自然と戦いながら生きている。そんな奇妙な世界なのです。

ファンタジーものにはつき物の魔法使いでも魔術師とはちょっと違って、選民は魔法使いでも魔術師でもありませんが、自分の本当の影の代わりにシャドウと呼ばれる魔法の影を持ちます。
シャドウはその主人の危機を救い、また敵への攻撃を行ったりするのです。

選民は生まれながらにしてオレンジ階級ならずっとオレンジ階級という訳では無く、力の強いサンストーンを手に入れたり、魔法の国アイニールへ行って強いシャドウを手に入れたりする事で、上の階級に上がれる。

また、上の階級の選民に礼を失したりすると「光消しブレス」というものを受取り、それがいくつかたまると下の階級へ落とされる。オレンジから赤へ、赤から地下民へと。

主人公のタルは13歳の少年。オレンジ階級なので選民としては下から2番目。
その少年の父親が行方不明になり、母親は病気で伏せっているためにオレンジ階級での存続が難しくなったタルは、力の強いサンストーンを手に入れる為に冒険をおかし、その結果、城の外への冒険の旅へ出る事になってしまいます。

この階級制度、なんかインドのカースト制度を連想してしまいますね。
バラモン、クシャトリア、ヴァイシャ、シュードラとその階級に属せなかった不可触民、俗に言うアンタッチャブル。

実際に話を読み進める内に、カースト制度よりも寧ろエリート官僚の世界の方に近い様に思えて来てしまいますよ。
選民=キャリア、シャドウはノンキャリア。地下民が国民。
キャリアはその経歴に傷をつけないに気を使いながら、上の階級(出世)だけしか頭にない。国民の税金で飯を食うのが当たり前だと思っている。
もちろん、作者のガース・ニクス氏にそんな意図は無いでしょう。
これは読む側の勝手気ままな読み方というものです。

地下民の中にもその立場、地位を良しとせず、選民の為の労働を良しとしない「自由民」という人達が表れはじめます。
そのあたりから作者の意図は、ああそのあたりか、などと勝手に先を想像してしまいます。なんせ児童文学ですから。人間は皆平等なんだよ、という啓蒙的要素を含んでいるのかな?などと。

ガース・ニクス氏はオーストラリア人。オーストラリアと言えば、おそらく世界で最も移民の受け入れ度の高い国。元々先住民とイギリス移住者だったものが今では世界から200以上の異なる民族を受け入れているお国柄。
いかなる宗教にも言語にも寛容でいかなる差別も禁止、廃止の政策と言われています。
私の知人のシンガポール人もオーストラリアへ移住しました。

昨年のサッカーワールドカップで日本代表はオーストラリア代表に屈辱的な負け方をしてその後立ち直れなかったけれど、そのオーストラリア代表の中心選手は同じF組のクロアチア出身の選手だった。

なんか話がどんでも無い方向にそれてしまいそうなので、このあたりで終わりにしておきます。

ちなみにこの『セブンスタワー』ですが、『光と影』、『城へ』、『魔法の国』、『キーストーン』、『戦い』、『紫の塔』の計6巻で結構なボリュームですが、そこは児童文学。さほどのボリュームには感じません。

ちょっと毛色の変わったファンタジーものを読んでみたい方にはおすすめです。

セブンスタワー〈1〉光と影  ガースニクス (著) Garth Nix (原著) 西本 かおる (訳)