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死の淵を見た男


東日本大震災、あまりに多くの死者をだし数多くの不幸な出来事が起こった未曾有の大災害だが、未だまだまだ先が見えないのが福島第一原発だろう。

総電源消失。
これのもたらした悲劇はあまりにも大きい。

この未曾有の危機の中、自らの命を顧みず、果敢に立ち向かった男たち。
闘ったのは吉田所長だけではない。
当日の当直長だった人。またその日非番だったが駆け付けたその先輩の人たち。

現場は明かりすらない。真っ暗闇。
通常なら制御版が原子炉の状態を教えてくれるはずなのだが、制御版も真っ暗なまま。
まさに手さぐり状態。

そんな状況、想像できるだろうか。
そんな暗闇に中、彼らは何度も真っ暗闇の中、手探りで原子炉へ向かおうとする。

原発事故のことを書いた本は何冊か読んだが、こんな心を揺さぶされるれる本には出会わなかった。
読めば読むほど、菅というあの時の総理大臣と言う役職にいた男への憤りが湧いてくる。
現場のプロがプロとして最善を尽くそうと命がけで行っている。
それをなんで東工大を出たということだけで自ら専門家気取りしたどシロートが口を挟もうとするのか。

自らのパフォーマンスだけのために、あろうことか国の最高指揮官の立場にある男がヘリで現地へ赴く。
ジャマをしに行っている以外の何ものでもない。

決死隊を送り出して、彼らからの連絡が途絶え、一時全員行方不明の状態になった時、吉田所長は、もう生きてここを出ることはないだろう、と覚悟を決めたという。
その後、全員無事であることが判明するのだが・・。

決死隊が何度もトライしようとしても近づく事すら容易ではない状況の中「ベントを何故やらないんだ!」

この男には、現場へのいたわりとか思いやりだとか、ねぎらい、というものが湧いてくる素地が全くないのだろう。

習近平相手に散々ペコペコしていた男が、いざ相手が変わればさんざん怒鳴り散らかす横柄な男になる。

全く最低のリーダーを最悪の時に持ったものだ。

そんな最悪の上がいる中、現場の人たち、自衛隊員、消防の人、出来る限り最善の事をやってくれた人たちのおかげで東日本は無事で済んだ。

無事で済んだとはいえ、第一原発はまだ片付いていない。

チェルノブイリ式の石棺で固めてしまうなり、なんらかの手立てで早期に終息を迎えて欲しいものだとつくづく思う。

死の淵を見た男 -吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日-門田 隆将著



やすらぎの郷


永年、テレビ界に貢献して来た人たち、往年のスターたち、そんな人たちばかりを入居させる老人ホームがある。
入居にあたっての費用は一切無し。入居後も費用は無し。
必要なのはリーズナブルなバーでの飲み代ぐらい。

中には医者も居れば、スタッフも充実。共有スペースでは数々の娯楽が楽しめ、建物を出れば釣りを楽しめる場所まである。
それに何より、かつての有名人ばかりが揃っているのだ。

最近、見ないなぁ、もしかしてお亡くなりになってたりして・・・というような人ばかりが入居している。

そんな施設があるという噂はあるがまるで都市伝説の様でその実態は誰も知らない。

テレビ界に貢献して来た人と言っても局側の人間は対象外であくまで組織に守られていない立場の人たち。

売れなくなったら誰も見向きもしおないばかりか、生活にも困窮してしまうような立場の人たちへの恩返しのような施設なのだ。

そんな施設への入館案内がある脚本家の元へ届く。

数々のヒットドラマを書いて来た脚本家、それが主人公。

まさに倉本聰そのものかもしれない。

この「やすらぎの郷」、テレビのドラマで放映されていたらしいのだが、全く知らなかった。

だが、この本を読むと、まさにドラマを見ている様な気分になる。

本を開けば、脚本そのもの。

俳優が読む台本ってこんな感じで書かれているのかな、と思えるような内容。

主人公の脚本家の先生役を石坂浩二が演じ、その周辺にはそうそうたるメンバーが勢ぞろい。
まだまだ現役の人たちばかりだ。
マヤこと加賀まりことお嬢こと浅丘ルリ子のやり取りはいかにも言ってそうで笑える。
ミッキー・カーチスや山本圭などが主人公の脇を固める。

本を読んでいるのだが、まさに加賀まりこや浅丘ルリ子の姿がありありと浮かんでくる。

なんと言っても、姫と呼ばれる存在の八千草薫の存在は大きい。

心から人の好さが伝わって来る。

そんな八千草薫もお茶目ないたずらをしたりする。

この台本、俳優を決めてから書いただろう。そうとしか思えない。

読んでいて笑いが止まらない本なんて久しぶりだった。

やすらぎの郷 倉本 聰 著



狼の牙を折れ


最近の大規模なテロと言えばパリだのロンドンだのニューヨークだのと、ほぼ日本から遠く離れた地で発生しているが、テロの発生件数にランキングがあるとしたら、1970年代後半の日本はかなり上位ランキングされていたのではないだろうか。
1974年東京丸の内のと言う日本のオフィス街の中心で起きた三菱重工ビル爆破事件。
そのビルだけでなく周囲のビルからも窓ガラスが降り注ぐ死者8人、重軽傷者376人の大惨事。
同年 三井物産爆破事件。17人が重軽傷。
同年 帝人中央研究所爆破事件。
同年 大成建設本社爆破事件。
同年 鹿島建設爆破事件。
翌1975年 間組爆破事件。
同年4月 オリエンタルメタル社・韓産研爆破事件。
同年4月 間組爆破事件。
同年5月 間組爆破事件。

大企業ばかりを狙ったこの立て続けの爆破事件、東アジア反日武装戦線 「狼」を名乗る組織、「大地の牙」を名乗る組織「さそり」を名乗る組織が次から次へと起こし、犯行声明を出したもの。

この本は、その組織を追い続けた公安組織の捜査を徹底取材したドキュメンタリーである。
今なら、どこにでもある監視カメラである程度、足はつくのだろうが、当時はそんなものはない。
捜査員が足を棒にしてようやくその主犯格の男たちに辿り着くが、そこからがまだまだ大変。彼らへの行確(尾行や面会者をさぐる)は慎重に慎重に行われて行く。
日々、どうのような行動をとるのか。何時にどの道を通って何時にどのルートで帰宅するのか。
その日々の行動と違う時が別の仲間との接触の可能性が高い。

今のようにどこにでも監視カメラのある時代ではない。
一旦、追尾に失敗してしまえばまた一からやり直しになってしまう。

特ダネを狙う新聞記者たちとの攻防もなかなか熾烈だ。
全ての容疑者をほぼ同タイミングで一勢に確保しなければ、一人でもメディアにすっぱ抜かれてしまえば、もう普段通りの行動は行わなくなる。
証拠隠滅の恐れもあるし、確保も困難になる

そうして行確を続ける間にもまた別の企業爆破事件が起きる。

捜査員たちの執念でようやく三つのグループの犯人たちの確保に成功するのだが、あろうことか、この犯人たちをハイジャック犯の要求に応じて超法規的措置にて釈放させられてしまうのだ。

捜査員たちの苦労はどこへやら。さぞかし悔しかったことだろう。

こうして、日本は世界中にテロリストを放ってしまうのだ。

どうにもわからないのが彼らの心理だ。彼らは企業を爆破することが本当に世の為、人の為などと信じていたのだろうか。
特定宗教に嵌ったわけでも無ければ、金銭目的でも無い。
有名になりたかったわけでもなんでもない。
学生運動を行う学生でない。
外目には、日々勤め先との往復をする、ごく普通の勤め人たちばかり。

この事件、まだ終わったわけではない。
世界中に拡散したテロリストたちの何人かはまだ、世界のどこかで生きている。

狼の牙を折れ  門田隆将 著