カテゴリー: カ行



この命、義に捧ぐ


台湾といえば、一時、尖閣の問題では領有権をめぐり、意見の対立はあったものの、漁業協定の調印を経て沈静化。

東日本大震災の時などは200億をも超える義援金を送ってくれた台湾。
その額たるや世界一なのだ。

日中国交回復後、国レベルでは日本はずっと台湾に冷たくしてきたというのに常に親日的な台湾。

まさかその背景にこの根本博中将がいたからだとは思わない。(なんせ彼の存在は台湾でもほとんど知られていないのだから)戦後、日中の国交がどうであろうが、民のレベルではずっと日本人の心が親中よりも親台で有り続けたからなのかもしれない。

この本の主役、根本という将軍、戦時中は中国大陸。駐蒙軍司令官。
8月15日の玉音放送にて日本軍は全て銃を置くわけだが、根本司令官だけはソ連の本質を見抜いていた。

日本人全員の安全が担保されるまで絶対に武装解除は行わない。

関東軍などはとっとと武装解除を行ったがために、ソ連に蹂躙され、婦女子は強姦の後、殺害され、男は奴隷扱いの労働力としてシベリア抑留。
子供たちは、中国人によって奴隷扱いで売られ、そのまま残留孤児となった。

それに比べて、駐蒙なので内蒙古だろう。ソ連からの猛攻を諸に被るだろう地域の部隊が武装解除しない。
完璧な命令違反なのだ、全責任は私が取る。邦人を守れ!と。

約一年かけて根本将軍は最高責任者として、在留日本人の内地帰還と北支那方面の35万将兵の復員を終わらせ、日本軍の降伏調印式に調印し、最後の船で帰国した。

この一事を持ってしても日本にとっての英雄であることは間違いないのだが、なかなかそうはならないのが、戦後の日本。

元軍閥と罵られ、これだけの人でありながら、食うのにも困るような有り様。

この話、これで終わりではない。

蒋介石率いる国民党軍が毛沢東率いる共産党軍に敗北に次ぐ敗北でとうとう台湾に退避した状態。そこも守り切れるか。と言う時に根本の元に密使が来る。
中国からの引き上げ時に恩義を感じた蒋介石からの頼みとあらば・・と命を捨てる覚悟を持って小さい漁船で密航。何度も座礁しながら台湾まで辿り着き、顧問閣下として厦門の防御部隊に加わるのだが、根本は厦門は守りきれないと判断し、金門島で戦うことを進言し、その戦略を立てる。
勢いを得てまさか負けるとは思っていない共産軍を金門島での根本の作戦で完膚なきまで撃滅し、結果的に台湾を守った。

門田氏がこの本にするまで、ほとんどその存在を知られていなかった根本と言う人。
この本ノンフィクションのジャンルなのでほぼ事実に基づいて書かれたものだろう。
こういう人の存在があったからこそ、今の台湾があるのだとしたら、知られてはいなくても何か互いに根っこのところで互いに親密な気持ちが心根のどこかに埋まっているのかもしれない。

大震災の時に支援を下さった台湾の人達にもちろん感謝だが、それだけではなく、ワールドベースボールの大会で戦った相手の台湾チームに数多くの「感謝TAIWAN」の横断幕を掲げ、感謝の気持ちを表した日本の人達にも誇りを持てた。

そんなことを感じさせてくれる一冊だった。




プーチン 内政的考察


プーチンが最初に大統領に就任したのが、2000年。間にメドベージェフを傀儡として立てた時を挟むが、まる17年間、ロシアのトップに君臨してきた。
アメリカの大統領が任期4年再選でMAX8年の倍以上。

日本のどこかの地方自治体ならともかく、世界のトップリーダーの中でこれだけ長期に渡って政権を維持している人はおそらくいない。
著者の木村先生は2018年の大統領選もプーチンで確定とまで断言しておられる。
となると25年・四半世紀という長きに亘っての政権維持となる。
25年がどれだけ長いか。
幕末にペリー来航から江戸時代が終わり新政府が出来てその新政府を作った中心人物(木戸・西郷・大久保ら)が全員死に絶えるまでの間が25年なのだ。
その間にどれだけのことがあったか。

四半世紀というのは島国日本でさえそれだけの歳月だ。ロシアという広大な国ではなおの事だろう。

2000年からの2期をプーチンPART1だとすると、このPART1は大成功。
旧ソ連邦参加の国が次々に独立し、ソビエト連邦そのものも崩壊。そして何百人という貧困層の出現。
そんな中で就任したプーチンに求められたのはグラスノスチ(情報公開)の延長でも無ければ、ペレストロイカ(政治改革)の延長でも無かった。

強いロシアの復活と国民を貧困から脱却させること。
この貧困からの脱却という点では、プーチン期に入って原油価格が高騰したこともあり、国民への期待には見事にこたえた格好だ。

PART1の幸運な大成功に比べると、プーチンPART2は問題山積み。
原油価格の暴落、ウクライナ危機にてEU諸国よりの経済制裁、原油で稼いでいる時に産業育成をしてこなかったつけが廻って来て、天然資源輸出に変わる新たな産業が何も育って来ていない。
日本の1/4以下のGDPでありながら、100万人とも言われる軍隊を養っていかなければならない。(ちなみに日本の自衛隊は23万人)
どれだけ大変なかじ取りか。
それでも大半のロシア国民はクリミア併合、ウクライナ対応を指示しているという。

だが、現在のロシアでいうところの支持率などというものがいかにあてにならないか、木村先生は教えてくれる。

メディアというメディアにはほとんど国の資本が入る。
外国資本の入ったメディアは許されない。

そして、支持率の調査にしたって、無作為に街中で声をかけたわじゃじゃない。
自宅にかかってきた電話に対して答えなければならないのだ。相手はこちらの電話番号を知っている、となれば下手な受け答えは出来ない。
須らく、指示する、と言っておいた方が無難に決まっている。
そんな支持率の数字、どれだけあてになるのか。

選挙制度も度々手を入れて来ている。
反対勢力が育とうにもその芽がどんどん事前に摘まれて行く。

何より、ジャーナリストの不審死者数が異様に多い。
プーチンが政権を取って依頼、プーチンに好意的な記事を書かなかった側のジャーナリストが年間平均17名もの不審死で亡くなっているという。中には明らかな暗殺もある。
それはプーチンが指示をしたのか、プーチンの気持ちをおもんばかった旧KGB系の連中が勝手に動いたのかはわからない。
それでも一人の政権の間に300名弱のジャーナリストが命を絶たれているというのは異常だろう。
明らかに民主主義ではない国、言論が自由では無い国ならば殺される前に発言しないし、その兆候があれば拘束されるだろう。
表向きは民主主義国家で、言論自由国家でありつつも実体は乖離していく。

木村先生が言う通り、プーチンが次も大統領で決定なら、プーチンPART3は更に厳しいかじ取りが迫られるのではないだろうか。


プーチン 内政的考察  木村 汎著



コーヒーが冷めないうちに


実に軽い読み物。

一時間程度で読めてしまった。

とある喫茶店の都市伝説にまつわる話。

特定の席に座ると過去に戻っることが出来るという。

但し、条件が厳しい。
過去に戻っても、その特定の席を立って移動すると、即座に現在に戻る。
その喫茶店を訪れた事のない者には会う事はできない。まぁ席から移動できない以上、当たり前と言ったら当たり前。

あと戻れる時間。
コーヒーをカップに注いでから戻り、そのコーヒーが冷めてしまうまでの間だけ。
それ以上、そのまま戻らないと、地縛霊のような幽霊になってしまう。

実際にその特定の席はいつも同じ女性が占有しており、使えるのは、一日一回その女性がトイレに行った時だけ。
で、その女性はコーヒーを冷ましてしまった幽霊なんだそうだ。

その喫茶店をめぐる四話。

・「恋人」
 彼氏にフラれた女がそのフラれる瞬間に戻る。
・「夫婦」
 認知症を患って、妻の顔さえ思い出せなくなった男の妻が夫の記憶のまだある瞬間に戻る。
・「姉妹」
 旅館を営む実家を飛び出して来た姉と残された妹、妹は姉に会いに来るが、姉はなかなか会おうともしない。そんな妹に不慮の事故が・・。
その妹に会いに戻る。

・「親子」
 この喫茶店のマスターの妻が妊娠。
しかしながら、病弱な妻は出産をしてしまうと自分の命が危うくなる。
出産を取るか、自分の命をとるかの選択肢を迫られた妻が過去ではなく、未来へと向かう。

ざぁーっと、かいつまんだ点だけを書きならべてみたが、感想は?と問われると、冒頭に書いた通り、なんて軽い読み物なんだろうの一点。

前宣伝が大きすぎて期待させられてしまうが、さほど泣ける話でもない。とにかく軽い。

タイトルのつけ方がうま過ぎるだろ。

コーヒーが冷めないうちに 川口 俊和著