カテゴリー: タ行



北の大地から


川が泣いている。

と筆者が嘆く。

北海道の道東と言えば自然たっぷりの地では無かったのか。

くねくねといくつも曲がっていた川を、良かれと思ったのか河川工事で真っ直ぐな川にしてしまった。
すると、周囲の土地の井戸から水が出なくなり、井戸をさらに水が出るところまで掘ったはいいが、作物から得る収入に投資が見合わない。
そしてだんだん、農家も減っていく。

川には毎年、大量のサケが昇っていたのだが、河口のところで一旦堰き止めてしまうようになる。捕獲したサケから卵を取り出し、人工受精し、幼魚にしてから海へ放す。
だから、川を昇るサケの姿は無くなってしまった。

こうして川が一つ一つ人間を見捨て始める。
国がからむ工事は、三陸海岸を覆い尽くそうとする防潮堤ではないが、一旦始まってしまうとなかなか止まらないものらしい。

苦労して苦労して昇って行った先の産卵であり受精だからこそ、産まれ出る新たな命にもその生き物ならではの魂が引き継がれて行くのではないのか。

生命にとってのもっとも神聖な営みを奪ってしまい、放流された次世代のサケ達に上流へという本能、と言うよりむしろ魂は引き継がれているのだろうか。

緑豊かな大地にある日ゴルフ場が建設される。
観光客が増えたと喜ぶのは束の間。

見る見るうちに周囲の土地が枯れ果てて行く。

ゴルフ場というのは一部の芝を守るために毎日毎日大量の除草剤が撒布されるのだそうだ。
その有害剤がどんどん地下に流れ、地下水を汚染し、周囲の土地までも枯らしてしまう。

これは昨日、今日の話ではない。

この本が出版されたのは今から22年も前の話だ。
ようやくお役所も自然回帰に目覚め始めるあたりがこの本の終盤。方向性としてはいいのだろうが、まだまだ著者は懐疑的。

この後の道東がどうなったのか、著者が続きを書いてないか、探してみたが見当たらなかった。

川が泣き、土地も泣き始めた、この頃の道東。その後はどうなったのだろう。
誰か後を引き継いで書いてないかな。



寂しい丘で狩りをする


婦女暴行の被害者となった女性と彼女を逆恨みして殺そうと考える男。
その彼女を守ろうとする女性探偵とその彼女につきまとうストーカー男。
二つの同時並行するストーカー事件の顛末。

たまたま、タクシーの相乗り依頼を許してしまったがために、つまりは親切心を起こしてしまったがために、タクシーを下車した後に男につけられ、襲われて強姦されてバッグまで奪われてしまう女性。

勇気を出して警察へ届けたために男は捕まるが、刑期はたったの7年。
強盗強姦は7年以上~無期懲役の罪なのだとか。
殺人の前歴もあるこの男が何故最も軽い刑となったのかはよくわからない。

先に出所して来た人から「警察には言わない約束だったのに・・・あの女、出所したら、絶対に殺してやる」とその男が言い続けていたという事を知った被害女性は、探偵事務所へ赴き、出所するところを見届けて自分を探そうとするかどうかを調べて欲しいと、依頼する。

男が探偵ばりの捜査方法で被害者女性の居どころにどんどん近付いてくるのはかなり薄気味が悪いし、怖い。

近所をうろうろするストーカーではなく、この男、殺意を持って追いかけているので、一般的なストーカーとは言えないだろう。

それでも警察としてはやはり、何か事件が起きてからで無ければ動いてくれない、というより動けない。

警察も少々のことで引っ張って、注意を与えたところでこんな男には効き目はない。
再度服役したって、また出てくるのだから、狙われた女性の恐怖は永遠に続く。

逃げ回らないための方策がかつての原告と被告が入れ替わることでしかないとすれば、やはりこの国の法制度はなにかおかしい。殺人犯に甘すぎる。

この本、合い間、合い間に古い映画の話が出て来る。

日本の古い映画などに興味のある人もそうそういないだろうが、そういう人には別の楽しみがあるかもしれない。

寂しい丘で狩りをする 辻原 登 著



インフェルノ


今回もラングドン教授が主人公として登場。

テーマは地球の人口問題。

19世紀の初頭には10億人だった地球の人口が20世紀初頭には20億人に。100年で倍。それが次の50年でさらに倍になり、21世紀の頭、つまり現在では70億人を超える。
この100年の間に人類は地球に誕生してからの何万年、何十万年に体験したことの無いような急激な増え方をしているわけだ。

その人類の急増と全く同じタイミングで発生して来たのが、以下の数字のはねあがり方。
清浄な水の需要、地球の表面温度、オゾン層の減少、海洋資源の消費、絶滅種、二酸化炭素濃度、森林破壊、世界海面の上昇。

いずれもこの100年で急増し、近年はおそろしい勢いで増えている。

そして人口増加はますます進んでいる。
このまま放置すれば、人類は滅亡する。

人類を適正な数まで減らさなければならない。

そう考えたのは、ゾブリストという遺伝子工学や生化学の天才学者。

中世ユーロッパで流行した黒死病。
それによって人口が減ったからルネッサンスの黄金時代を迎えられたのだ、と。

彼によると、地球の人口の適正水準は40億までだろう、という。

こういう思想を持った人間が何かをやらかす準備を整えたメッセージを残して自殺してしまったので、ウィルスによる大量殺人を誰しも考える。

それを予定日までに阻止しようと、ゾブリストが残した暗号をラングドンが解読していく、というお話だ。

ネタバレにはしたくは無いが、最終的な解決策は果たしてどうなんだろう。
日本などは少子化問題を喫緊の課題としてあげているが、この解決策だと少子化にはさらに拍車がかかる。

人口減の前に全世界が少子高齢化時代を迎えてしまうことになるのではないだろうか。

それに水の需要や地球の表面温度・・・という上記の問題点は果たして人口増が問題なのだろうか?

最も引き金を引いているのはここ数十年の新興国の急激な発展なのではないだろうか。
特に人口がどこよりも多い近隣の某国などは天然資源を世界に求め、世界の海洋資源も買いあさり、自らの国の環境破壊も著しい。

彼の国では、あの悪名高き文化大革命時の方が世界にはハタ迷惑ではなかったかもしれない。

彼の国以外でもアマゾンやボルネオのジャングルの乱開発。

これらはこれから生まれる人口が減ったところでどうにかなるわけではないだろう。
今生まれている世代だけで充分に破壊しつくしかねない。

各国で文化大革命ではないが、強制帰農のような政策が出て来る以外に方法はないんじゃないのか。

まぁ、そんなことをつらつらと考えてしまうわけだが、何と言ってもこの作者の魅力は歴史・芸術に対するうんちくだろうか。

今回はフィレンツェ・ヴェネツィア・イスタンブール、この3カ所。

行ったことのある人もこれから行く人も一読に値する。ダンテやその時代に興味のある人たちには特にたまらない一冊だろう。
いや上下巻なので2冊か。

インフェルノ ダン・ブラウン著