カテゴリー: ナ行



ぷろぼの


大手家電メーカーのリストラ。
以前にも実際にいくつかあったな。

某家電メーカーでは、早期退職制度で募ったところ、募集をはるかに超える退職希望者が出て来てしまい、逆に引き止めなければならなかったとか・・。

ここに登場する家電メーカーはもは救いようがないな。

経営者として入って来た人間のしたことは、低迷する事業部の廃止とその事業部の人間全員のリストラ。
自分が経営者である時さえ業績が良くなりゃいいわけだから、先を見据えた新たな市場開拓も商品開発も眼中に無い。

一事業部のリストラで数千人規模で会社を去って行く。

人事部に在籍する主人公氏は毎日、退職勧告に従わない社に退職の一言を言わせるのが仕事。

いわゆる「追い出し部屋」というものを作り、一日中何もさせない。
仕事を与えない、という。

なんてもったいない事をするんだろう。

なんの仕事を与えなくても人件費も法定福利費も発生するだろうに。

そこに入っても尚、頑強に退職の意思を示さない社員にはさらなる地獄が・・。
地下の窓も無い部屋に作ったコールセンターと呼んでいる場所でクレーム電話の対応をさせる。
これが本当のクレーム電話なら、会社にとっては最も大事な仕事だろう。
ところが、このクレーム電話、人事部長がある業者に頼んだヤラセのクレーム。
どれだけ誠意を持って対応しようが相手はやめさせることだけを目的に電話をしてくんだから、クレームと言う名の嫌がらせが解消するわけがない。
なんてもったいない仕事をさせるんだろ。

こうやって悪辣な手立てでリストラを推進するのが、社長の片腕の人事部長。
この男が完璧な悪玉で自殺者が出たら、却って仕事がやりやすくなったと喜ぶような男。

他の事業部の連中もコイツに睨まれたら、と考えると絶対服従。
毎晩、銀座で豪遊する経費を全部、各部門へ肩代わりさせる始末。

この男に天誅を加えようと動き出すのがぷろぼのというボランティア団体。

とんだボランティア活動だ。

ぷろぼの 楡周平 著



漁港の肉子ちゃん


大阪でダメ男に騙され、借金を肩代わりし、返済の後、名古屋へ。
行く先々でダメ男に騙され、金をむしり取られるが、彼女に恨みつらみは一切無い。
名古屋から横浜、横浜から東京へ、東京からとうとう流れ着いたのが、北陸の漁港。

漁港なのに焼肉屋で住み込みで働く。
太っているから皆が彼女を肉子ちゃんと呼び、本名で呼ばれたことがない。
そんな彼女に小学生の娘がいる。

これが肉子ちゃんとは似ても似つかない可愛い子で、学校でも人気者なのだ。
彼女の周りに気を遣ったり、学校の教室内での派閥争いなどに繊細なのとは裏腹に、肉子ちゃんは、細かいことは全く気にしないタイプ。

太っていて、顔は不細工。しゃべると大声。しかも大阪弁。語尾には必ず「!」がつく。着るもののセンスは悪い。いびきが強烈にうるさく「すごおおおおい!すごおおおおい!」といういびきをかく。
おまけに頭も悪い。

冒頭だけ読んでいると、娘が可哀想にも思えてくるが、だんだんと気持ちは変わってくる。彼女のような母親が居たらどんなにいいだろうと。
とにかく明るいのだ彼女は。
焼き肉屋の店主曰く、彼女が店に来てくれたことをして、「肉の神様が現れた」喜ぶほどに、店にも知らない人にも溶け込んで行く。
そに底知れずのお人よしさ。
素直で能天気。
そして何よりなのが、何があってもぶれない。動じない。
あまりにも真っ直ぐでありのままを受け入れることが出来る包容力がある。

何より周囲の人や、娘にまで「肉子ちゃん」と呼ばせておけることだけでもすごい人だと思う。

漁港の肉子ちゃん  西 加奈子著



教団X


外部から見れば、教団と、思われている団体が二つ登場する。

一つは実は教団でもなんでもない。

松尾という話好きの爺さんが、月に一回講話を開くのだが、そこに集まった人たちの一部が教祖と勘違いしただけの集まり。

冒頭でいくつか紹介される、この松尾という人の講話が、割りと興味深い。

意識(私)こうしたい、と思う前に脳からの指令が出ている、という類の話、なかなか興味深い。
ある決断をして意思を持ったとしても、それが事前に決められていることをなぞっているだけ、などということがあれば確かに意思など持たなくても良いことになってしまう。

ブッダは物理学の知識無くしてそのことを知っていた?

果たしてそうか。
これって、テニスプレーヤーや卓球の選手など、右へ動こうと意識が働いてから反応したのでは遅すぎる。その前に反射的に動いている、とかそういうことと似ているような気もするが、本当のところはわからない。

この松尾の爺さん、知識が豊富で、宇宙の始まり・ビッグバンから、分子・原子・素粒子と言った物理学の知識を披露してみたりするのだが、その話が結局繋がっていて、人間の細胞なんてどんどん変わっていくんだから、原子レベルで考えたら、人類、いや人類どころか、他の生物もいや生物以外だって皆同じ・・・なーんてところに落ち着いたりする。

この本、一人一人の話が長いので、結構分厚い本になっている。
寝ながら、片手で読んでいたら、手が痛くなってくるほどに。そのまま眠ってしまって、本で顔面強打することしばしばだ。

もう一つの教団は、この松尾の爺さんを詐欺で騙して、講話を聴きに来た連中の中から、高学歴の者だけを引っこ抜いたと言われているが、その実態はというと、高層マンション一棟そのものを教団施設にしてしまって、その中で行われるのが、SEXの嵐。

初入会者のところへは、毎日日替りで美人がバスタオル一枚で現れ、SEXし放題で骨抜きにされる、というような教団で、この教祖がまた「教え」など微塵も無い、変態人間なのにもかかわらず、熱狂的な信者に囲まれる。

根暗で女性にもてたことに無い男が入信したなら、当面は天国だろう。
だが、ただそれだけじゃないのか?
そこから先に何があるのか。皆目わからない。

この教団、マンション一棟を買うだけの初期費用は詐欺やらで得たにしても、その後どうやって維持してられるんだ。
どうやって皆が食えるだけ収入を得ているのか皆目わからないが、宗教なんて案外そうなのかもしれない。

この教団内の過激派がテレビ局を占拠し、携帯電話の着信を起爆剤に日本のあちらこちらに爆弾をしかけた、と脅迫する。
携帯電話の番号をテレビで言ってしまえば、視聴者の誰かが電話するだろう。彼らは自らの手を染めなくても視聴者が爆破してくれる。その脅迫の取引条件が、この教団施設を独立国のような、特区にすること。
このあたりが、この話の最もクライマックスか。

それにしてもこの作者、名指しこそしていないが、よほど安倍政権が嫌いなんだろうな、と思われる表現があちらこちらに散りばめらえてられている。

まぁ、いろいろと突っ込みどころ満載ながら、これだけ重たい(重量の方)本を最後まで読ませるのはやはり作者の筆力のなせる技か。

教団X  中村文則著