カテゴリー: ナ行



サラバ!


なんとも凄まじいボリュームの本だ。
主人公の歩(アユム)君が生まれてから、頭が禿げ上がる30代半ばまでの半生をエンエンと読まされる。いくらなんでも上下巻って長すぎるだろ。
と思いつつも、なかなか本を置く気になれないから不思議だ。
さすがに一気読みはしなかったが・・。

イランのテヘランで生まれた赤ん坊が日本人向けの幼稚園に入り、イラン革命の時に帰国。
小学校1年で今度はエジプトのカイロへと親の転勤で移り住み、そこでエジプシャンの友人が出来る。
そして今度は両親の不仲が原因で大阪へと戻り、中学・高校と進学しやがて東京の大学へと進学・・・。
その間に阪神大震災、オウム真理教のサリン事件、果ては東日本大震災まで、時代をなぞって行く。
いったい誰の自伝を読まされているんだー!と思ってしまうところなのだが、この少年の姉のあまりにも強すぎる個性に惹かれて、というより次は何をやらかすんだろ、という好奇心のせいか、読むのをやめられない。

姉はほとんど奇人変人ともいえるような行為を繰り返し、住む環境が変わってもその変人ぶりは衰えない。

この強烈な姉。それと対峙する母に挟まれて、自らを空気のような存在として生きて行く主人公。

強烈な個性と言えば、姉は特別だが、母の個性も強い。
近所のゴッドファーザー的な役割を果たすおばちゃんに至っては、後に教祖の様な存在に周囲から見られながらも本人は至って普通に生きている人。

父は父でまるで仏様の様に、自らの欲望を一切持たないで、籍が離れた後の母にもその姉にもその母にも資金援助し、母が他に男を作ろうが、再婚しようが、母が幸せならばそれで良い、という奇特なお方。

タイトルの「サラバ!」はカイロ時代に仲良くなった(仲良くなったというレベルじゃない、ほとんど愛し合っていた)エジプシャンの少年との合言葉のようなもので、お互いに方やエジプト語を話せない、方や日本語を話せない仲なのに、何故か二人の間だけは言葉が通じる。

それがタイトルになるぐらいなので、後にまた彼も登場するのだろうと思い、なんとかそこまで読んでやる、という思いが最後まで読ませてくれた理由なのかもしれない。

大人になり、荒んで行く主人公に比べ、奇人変人の姉はどんどん格好よくなって行く。
「あなたが信じるものを、誰かに決めさせてはいけない」と弟に諭す。
その誰かとは彼に影響を与えすぎた、姉も含まれるのだが・・。

この本2014年の直木賞受賞作。

作者があまりに男の視点が良くおわかりの方で、例えば高校の男子校なんて女性は普通知らないだろうに。思春期といい、大学時代といい、男の視点が妙にリアル。
で、作者の経歴ではテヘラン生まれで、小学区時代はカイロと、来れば、西加奈子という名前はペンネームで実は男でまさに自伝をかいたんかないのか、と思えてしまうが、あにはからんや、ちゃんと女性だった。

こんな本、芥川賞受賞作では絶対に味わえないが、直木賞でも異例ではないだろうか。

サラバ! 西 加奈子 著



永い言い訳


妻に先立たれると、男は何がどこにあるのかさっぱりわからず、てんてこ舞いなどという話はざらにあるので、この本の一部分は身につまされる人も多いことだろうが、この主人公氏、ちょっと行きすぎていた。

売れない作家時代は、まさに髪結いの亭主。
ヒモのような存在として奥さんに食べさせてもらっていた。

ちょっと作品が売れて、テレビのコメンテーターなどにも頻繁に登場するような存在になると、男の方は変わるが、妻の方は何もなかったかのようにこれまで通り。

そんな妻がだんだんとしんどくなっていく男。
妻は妻で売れなかった頃のような愛情はもはや感じていない。

まま、ありがちなことなんだろうな。

妻が突然のバスの転落事故で亡くなってしまう。
遺族となって妻の遺留品を示された彼、どれが妻のものなのか、全く分からない。
それどころか、どんな服を持っていたのか、当日出かける際に顔を合わせたはずなのに、どんな服を着ていたのかさえ、頭の片隅にもない。

それどころか、妻を失った悲しみがこれっぽっちも無い。
かなり性格的にもねじまがった男であることに違いは無い。

そんな台所に立つことになる。
同じバスで転落死した妻の友人の夫から声をかけられ、その子供の面倒を見るようになる。
所詮、ごっこでしかないにだが、男の心はみるみる変わって行く。

その変わりようが面白い。

そして愛していないはずの妻の存在をあらためて見つめなおしていく。

この本、本屋大賞こそ受賞そていないが、本屋さんが薦める本の上位にランキング。

やっぱり本屋さんの薦める本にはずれは無いわなぁ。

永い言い訳 西川 美和 著



美少年探偵団


西尾維新さん、対地球の話が止まっていると思っているうちにこっちの方は筆が早い早い。

・美少年探偵団 -きみだけに光かがやく暗黒星-
・ぺてん師と空気男と美少年
・屋根裏の美少年

去年の末からこっち、書き下ろしを3冊。
これと掟上のシリーズがやけに量産されているような気がするなぁ。

美少年探偵とかってそんなタイトルの本を手にしているだけでそっち系の人かと勘違いされるんじゃないか、なんてカバーを大ぴらに出せないようなタイトル、勘弁して欲しいなぁ。

まぁ、これまでの表紙も似たようなもんだけど。

内容は、廃部になった中学校の美術部の部室を絢爛豪華に改装して、勝手に自分たちの部室として使っている、生徒5人。名乗るのは美少年探偵団。
そのメンバには生徒会長もいりゃ、番長も、陸上のエース、学校の持ち主である理事長家で且つ天才的な芸術家も居る。
そして団長はなんとまだ小学生で、美学のマナブという。
美声、美食、美脚、美術、美学、とそれぞれの持ち味が通り名になって、美声のナガヒロ、美脚のヒョータなどと呼ばれる。

そこへ参加することになるのが、特殊な目を持った女子で、美観のマユミ。
特殊な目とは、あまりにも視力が良すぎて、物を透き通して見えてしまう、そこまでいきゃ、充分特殊だろ。

美声はそのまま声が美しい、美食はおいしいものを食べる方を連想してしまうが、作る方。美脚は足が美しいだけでなく、途轍もなく速い。美術は授業名みたいだが、これも才能。

一つだけ毛色が違うのが美学。
他のメンバは全部才能なのに比べて、これは才能か?
美学というのは考え方のことではないのか。

で、答はやはり才能だった。

このチーム、何より美しくない事を嫌う。
探偵としての依頼事項も美しくなければ行わない。

その基準を決定するのが、美学のマナブ。
小学生なので、実際の学は無いが、美学に徹するところは他の誰にも及ばない。
もはや、才能だ。

第二巻ぺてん師と空気男と美少年で他校にちょっかい出して、第三巻の屋根裏の美少年で他校のリーダーが美観のマユミに接触してくるとなると、このシリーズ、まだまだ続くよ。と言われているようだ。

維新さん、掟上さんと美少年べったりで、当分対地球の話に戻って来ないかもしれない。

彼が書く時に優先する基準はなんだろう。
少なくとも「美しいから」ではないだろう。

自分が楽しいから、とか、100%趣味で書いてます、なんて言葉を良くあとがきなんかで目にするから、たぶん基準はそこなんだろうな、とは思うが、時々、アニメ化するのに最適なものを優先しているようにも見えたりするんですが・・。
気のせいか・・。

美少年探偵団 -きみだけに光かがやく暗黒星- ぺてん師と空気男と美少年・屋根裏の美少年 西尾 維新 著